43話~あん?何だか騒がしいな~
「あははは!」
「いやぁ、めでたい!」
追悼式典を終えたその日の夜。街の中は笑い声に満たされていた。魔物達の襲撃が終わり、聖獣様も戻って来たからだ。
ここに来た当初はとても静かだったエルフ達も、お祭りとなったら人が変わった。お酒の入ったグラスを打ち合わせ、楽し気な声で笑い合う。楽器を奏で、優雅なダンスを披露する者も居た。
賑やかだ。バンドンさん達の飲み会と比べたら非常に上品だけど、彼ら彼女らの喜びが滲み出ている様であった。
無事に、コアの暴走を止められて良かった。
「おう、クロード。お前、こんな所に居やがったか」
端の方で宴会場を見守っていると、カリーダさん達がゾロゾロとやって来た。そして、俺を会場の中心へと連れ出そうとする。
いやいや。俺は、明るい所が苦手なので…。
「なに言ってんだ。お前が今夜の主役だろうがよ」
「みんな待ってんぞ」
「そうだ。英雄様を一目見たいって、街中のエルフが詰めかけてんだ」
彼らの剛腕に負けて、俺はズルズルとステージに登らされる。そして、彼らと一緒にスポットライトを浴びた。
途端に、会場中の視線が一挙に集まる。エルフ達から大きな歓声と数多の拍手、それと魔法の花火まで贈られてしまった。
「「「クロード!!」」」
「「勇者様!!」」
耳が痛い。
ステージを降りても、俺はもみくちゃにされる。俺だけでなく、カリーダさん達もエルフから大人気で、一緒に呑もうと引く手数多だった。
ハーフエルフだと蔑まれていた彼らだが、ダンジョン攻略をしたチームの一員と言う事で、一挙に見直されたらしい。議会から市民権も貰えたと嬉しそうに報告してくれた。
おぉ!そいつは良かった。
「それだけじゃねぇぞ、クロード。あれを見てみろ」
カリーダさんが指さす方向を見ると、会場の周辺に出店が並んでいた。そこで働いているのは、人間の商人達だった。
おぉ。冒険者以外も入所出来るようになったのか。
「お前のお陰で、エルフ達の選民意識が変わったんだ。人種による差なんてのは、微々たるものだってな。そんで、王国との流通も元に戻したみたいだぞ」
「それは良かったです」
元はと言えば、前川達のせいで悪化してしまった関係だからね。ちゃんと尻拭きが出来て良かったよ。
「クロード!」
今度はシアさんだ。彼女の後ろには、同い年くらいのエルフの少年少女がズラズラと続いていた。
友達になったの?凄いコミュ力だね。
「あっちで、ベルマン商会のフランツさんが呼んでるよ」
「ふぁっ!?フランツさん?」
どういうことだ?
シアさんに連れられて言ってみると、出店の傍で金髪の偉丈夫が立っていた。
おぉ。本当に彼だ。
「フランツさん!」
「おう、クロード。大活躍だったそうじゃねぇか。まさか、勇者レオが来る前にやってのけるとはな」
勇者レオ?
「どういうことですか?」
「なんだ、聞いてねぇのか。イリーナ様達が苦戦してるからって、ゲイルランド帝国から勇者を呼び寄せてるって話だぜ?元々、王都の武術大会に出るつもりだったらしいから、そのついでにダンジョン攻略をする様にって、陛下から仰せつかったって噂だ」
ほぉ。水面下でそんな話になっていたのか。
まぁ、確かに。あのままだったら大森林だけでなく、王都もヤバかったもんな。王国も、前川達を早々に見限っていたってことか。
「まぁ、何にせよ。俺達からしたら、早めに解決してくれて万々歳ってもんよ。王都周辺の魔物も激減して、俺達に対してエルフの風当たりも弱く…いや、寧ろ追い風だな。商売繁盛ってもんよ」
そうか。前川がやらかす前から、人族に対する差別はあったんだな。
「そこで相談なんだが、クロード。また、俺達を手伝っちゃくれねぇか?王都までの護衛をお前に頼みたい」
「護衛ですか?」
いいけど、魔物は激減しているんじゃないの?
そう思って聞いてみると、護衛と言うより積み込みの手伝いと、あとはアイテムボックスを貸して欲しいとの事。今まで取引が出来なかった貴重品も買えるようになったから、俺の亜空間で安全に運びたいんだとか。
「そう言う事でしたら、喜んで引き受けます」
「そうか。助かるぜ」
フランツさんと詳細を詰め、俺は会場に戻る。
彼らは3日後にここを立つらしいので、少し時間が出来てしまった。それまで、またダンジョンにでも潜ろうか?
そんな事を思っていた俺だったが、それは実現できなかった。次の日から、思いのほか忙しくなってしまったからだ。
一番忙しかったのが、ダンジョン攻略に対する報酬だ。追悼式前は頑なな態度を取って来た議員たちだったが、終わった後は手のひらクルックルで、欲しいものは何でも用意しようと意気込み始めた。
何が彼らを変えたかは分からないが、俺は素直に「武器が欲しい」と言うと、最高級の弓と攻撃用の魔道具を作成してくれた。
それは有難かったのだが、有難くない物も渡された。
それが…。
「是非とも、君達にはここに腰を据えて頂きたい」
うん。市民権を渡されてしまった。しかも、名誉市民権とかいう明らかに厄介なものを。
それを断るのに、俺は大変な労力を費やした。彼らはどうも、次にダンジョンが変異した時のことを危惧しているらしい。8年前にも同じ様にダンジョンが暴走しかけたから、俺を手元に置いておきたいのだと。
その気持ちは分かるが、暴走しそうなのはこのダンジョンだけではない。バザル鉱山とかいう所のダンジョンも、ヤバいって聞いているからね。
俺はそれを理由に、市民権をお断りした。すると、カカルダン議長は痛く感激してしまい、「流石は、本物の勇者様じゃな」と勘違いしてしまった。
いや、違うのよ。俺は女神様に言われたからではなく、大天使様に言われているだけだから。貴方達の言う勇者は、前川で間違いないからさ。
そういや、前川達はどうしたんだろうな?ダンジョンの再チャレンジを狙ってたんじゃなかったか?
そんなやりとりをしていたら、3日なんてあっという間に過ぎ去ってしまった。
そして、いよいよ帰還の日。
「クロードさまぁあ!」
「勇者様!」
「シアさーん!」
門へと向かう大通りには、里中のエルフが集まって手を振ってくれた。中には「行かないで!」と涙ながらに手を振る子もいて、後ろ髪をグイグイ引かれる思いだった。
…バザルのダンジョンをクリアしたら、また立ち寄ろうかな?
「おーい!クロードどのぉー!」
正門の前まで来ると、カーシェさんが手を振って出迎えてくれた。完全武装で、背中には大きな荷物を背負っている。
…見送り、じゃないのか?なんか、この光景に既視感があるんだけど?
「カーシェさん。その恰好は…もしかして?」
「そ、その。もしよければ、なんだが。君達の旅に同行させてくれないだろうか。私は、エルフの戦士としてはまだまだ未熟だと痛感した。それに、聖獣様も恩返しをしたいと言われていてな…」
モジモジしながら、上目遣いで提案してくるカーシェさん。
なんて破壊力。反則である。
「それは…ええ、構いませんけど。カカルダン議長はご存じなのでしょうか?」
可愛い子には旅をさせろと言うが、排他的な彼が可愛い孫娘を外の世界に出すとは思えない。
そう、思ったのだが…。
「ああ、勿論だ。寧ろ、おじい様から提案された事だ。勇者殿と共に歩み、己を高めよと」
ええっと…あー、なるほどね。そう言う事か。
俺はやる気になっているカーシェさんを見て、心の中でため息を吐く。
食えない爺さんだ。
「それであれば、承知致しました」
「うむ。宜しく頼むぞ、クロード殿。シア殿」
「よろしくー!カーシェ!」
シアさんは跳びはねて、カーシェさんと手を繋ぐ。
うん。シアさんの事を思えば、同性が加わるのは良い事かもしれない。今まで男ばかりの所に押し込められていたから、寂しい思いをさせていたかも。
そうでなくても、色々と不便だっただろうからな。
そうして、新しい仲間を加えた我々は、大森林の街を後にする。森を通過するまではエルフの警備兵が護衛についてくれて、最後まで手厚い見送りをしてくれた。
そして、森を出て街道を走るのだが…。
「本当に、魔物がいないね」
シアさんが周囲を見回して、嬉しそうな声を出す。
俺も亜空間経由で周囲を見てみるが、周囲の森はとても賑やかだ。行きで通った時は殆ど聞こえなかった鳥や小動物の鳴き声が、森の奥で聞こえている。魔物が少ないから、怖がっていた生き物が外に出てきているみたいだ。
生態系が復活し始めた。これは、バグが改善されている予兆だろう。
「うっ、ん」
「どしたの?カーシェ」
言われて、俺も漸く気付く。カーシェさんが馬車の隅っこに寄って、小さくなっていた。
本当に、どうしたのだろうか?
「済まない。どうも、慣れなくてな。このように人族ばかりな場所も、木々のない空間での生活も」
「もしかして、カーシェって大森林から出た事ないの?」
「うっ…そう、だ」
ああ、なるほどな。初めての場所は、緊張してしまうよな。排他的な人達に育てられてきたんだから、そりゃそうだ。
俺は反省した。次のダンジョンの事ばかり考えて、メンバーの心労に気付いてやれなかったことに。
だから、急いで慰めようとしたのだが…。
「あたしもだよ!」
シアさんが明るく笑った。
「あたしもね、クリオールを出るのが初めてで、不安だったんだ。あたしなんて、魔法も碌に出来ないし。大丈夫かなって?でも、クロードが助けてくれたから、大丈夫だったよ」
シアさんがニコリと笑うと、それにつられてカーシェさんも弱弱しく微笑む。
小さく、頷いた。
「ああ、そうだな。我々には、頼もしいリーダーがいる」
そう言ってこちらを見て来るから、俺は「ま、任せて下さい」と無理やり胸を叩いた。
一瞬、「そんな期待しないで」とか言いそうになったけど、ここで弱気はダメだ。
「あっ!見て。馬車が停まってるよ?」
「なにっ!?」
俺は慌てて、シアさんの指さす方を見る。
でも、そこに居たのは別の商人さんだった。
ふぅ。違ったか。
「どしたの?クロード」
「うん?いや、勇者達かと思ってさ」
結局、森を出る時にも見かけなかったからな。
「なんかあったか?クロード」
おっと、フランツさんにまで心配を掛けてしまった。
馬で近付いてきた彼に、俺は謝って「イリーナ様達の馬車かと思った」と正直に話す。
すると彼は「そりゃない」と乾いた笑い声を上げた。
「その馬車なら、俺らが大森林に向かう途中ですれ違ったぜ。やっこさんら、随分と落ち込んだ様子だったぞ」
「えっ?」
マジか。
あいつら、ダンジョン攻略を諦めて王都に戻ってたのか。
心配して損したと、俺は固まっていた肩を回す。気持ちが一気に軽くなった。
そのお陰で、その後の旅路は気楽なものだった。魔物は出ないし、前川達に追いつかれることも追いつくこともない。そして、シアさんとカーシェさんが徐々に仲良くなるのを見ているのは楽しかった。
尊い。
「あん?何だか騒がしいな」
いよいよ王都が見えてきたところで、フランツさんが怪訝そうな声を上げる。
それで俺も見てみるが…そうかね?王都ってこれくらい、賑やかだった気がするけど?
そう思って門を潜ると、目の前では盛大なお祭りが開かれていた。
おお。収穫祭ですか?
そう思ってフランツさんに聞いてみたけど、彼も知らないと言う。そして、近くの住人に聞いてみると…。
「なに言ってるのさ!ダンジョン攻略者が出たんだよ!」
「そうさ!大森林のダンジョンを、勇者様がクリアなされたんだ!」
えっ!?
もう、その話が王都まで来ているの?流石は、国の首都だな。
そう思って聞いていると、彼らから驚きの言葉が飛び出る。
それは…。
「勇者マエカワだ!彼が大森林を攻略して、エルフを救ったらしいぞ!」
「えっ?」
…どういうこと?




