42話~ご相談したい事がございます~
「「「わぁああああああ!!!」」」
ダンジョン攻略から帰ってきたら、大森林の街が大変な事になっていた。あれだけ物静かで風の音しか聞こえなかったエルフの方々が、大きな声を上げて諸手を振っていた。それらは全て、我々の方に向いていた。
これって…歓迎されているんだよね?でも、何が理由でこうなっているんだ?ダンジョン攻略して、まだ半日も経っていないぞ?
「クロード!!」
突然の事で立ち尽くしていると、大歓声の中から俺を呼ぶ声がする。見ると、完全武装のままのカリーダさん達が、こちらへ駆け寄って来るところだった。
おお。
「カリーダさん!無事でしたか!」
「いや、そりゃ、俺達が言うセリフだろうが」
ああ、確かにですね。
「やったんだな?クロード。お前がダンジョンを攻略したんだな?」
「えっ?なんでそれを?」
途中で逃げ帰って来た可能性もあるじゃないですか?
そう驚くと、彼は俺の後ろを…門の外を指さす。
「門の外に居た魔物達が、今朝になってキレイさっぱり消えやがった。こんなの、ダンジョンコアの暴走が収まったとしか思えねぇだろ」
ああ、なるほど。あのダンジョンコアの魔力を吸ったから、溢れていた魔力がダンジョンに戻ったのか。
確かに、行きの行軍では魔物を多数見かけたけど、帰りは一切見なかった。あれは、ダンジョンが正常になった影響だったのか。
「あと、聖獣様も助け出したみたいじゃねえか。風魔法が使えるようになったって、里中がその話で持ちきりだぜ」
ああ、なるほどね。それで街の人達もお祝いムードってことか。
それに加えて、カリーダさん達からも議会に報告を上げくれたそうで、俺達が11階層以下の掃討をしている事は広く知れ渡っていたらしい。その翌日にこの状態だったので、みんなは何が起きているかを察したとのこと。
「隊長!ご無事で何よりです!」
カーシェさんの方には、生き残ったエルフ戦士団が駆け寄っていた。彼らはカーシェさんが生きている事に先ず安堵して、彼女が聖獣様を助け出したことに抱き合って喜んでいた。
そして、俺の方に駆け寄って来た。
「クロード殿!ああ…クロード殿!」
「何と言ったらいいか、値する感謝の言葉も見つかりません。隊長を、里をお救い下さり、感無量であります…」
泣いて喜ぶ兵士達を、俺はどう扱って良いのか分からずに困り果てる。助けを求めてカーシェさんを振り返っても、彼女は苦笑いを返して来るだけだった。
エルフって、感情を表に出さないんじゃないの?
「カーシェ様」
喜び合っている兵士達を押しのけて、綺麗な服を着たエルフの一団がこちらにやって来た。俺を一瞥したのち、ジドゥに乗るカーシェさんに恭しく頭を下げる。
「中央議事堂にて、議会議員の皆様がお待ちです。至急、評議を執り行いたいとの事」
「後ではダメなのか?ダンジョン攻略から帰ったばかりで、少し休みたかったのだが」
「既に、議員の皆様もお集まりになっております。是非、我々と共に」
「はぁ…分かった」
カーシェさんが、こちらを向く。
「済まない、クロード殿。ご同行願えるか?」
「ええ、良いですよ」
俺が頷くと、カーシェさんは嬉しそうに笑みを零す。逆に、足元のエルフ達は眉を寄せた。
でも、何も言わずに「こちらです」と我々を先導し始める。俺達がそれに付いて行こうとすると、その両脇を戦士団の兵士達が固めた。そして、集まっている群衆に声を上げる。
「開けろ!道を開けろ!」
「英雄のお通りだ!ダンジョンを攻略された英雄達に、道を作れ!」
「クロード殿とシア殿がお通りになるぞ!皆、盛大に出迎えるのだ!」
「「「「わぁああああああ!!」」」」
変に兵士達が盛り上げるから、住人達からの視線が痛い。直ぐ近くで声を上げられるから、耳まで痛い。
まぁ、でも。別の意味で痛い目もあるな。俺の黒髪を見て、耳を見て、「人族が本当に?」って顔をしている人を見かける。前川達が刻んだ遺恨は、根深いようだ。
そしてそれは、議会に集まった長老も同じだった。
「大儀であった、カーシェよ」
評議会へと通された我々は、そこで待つ年老いたエルフ達に出迎えられる。彼ら彼女らは口々に「流石はカーシェ様」とか「エルフの誇りだ」と彼女を持ち上げた。
そして、俺には一声もかけることなく、一瞥もくれようとしない。完全に、黒子状態だ。
まぁ、黒子みたいな服を着ているけどさ。
俺が肩を竦めていると、俺の目の前に立つカーシェさんが手を広げる。
「カカルダン議長。それに皆さん。その賛辞は、私に向けるべき物ではありません。彼らに向けるべきです」
彼女が手招くので、俺は渋々彼女の横に立つ。途端に、年老いたエルフ達から鋭い視線が飛んでくる。俺の黒髪を見て、鼻の上に皺を寄せた。
壮年のエルフが「ごほんっ」と咳ばらいをして、長机に両肘を乗せる。
「失礼ですが、カーシェ様。その者は人族に見えます。人族は今、ダンジョンに挑めない掟となっている筈ですが?」
「彼らはカリーダ達のチームに所属している。それ故に、入場の許可が…」
「カリーダ!あの半端者の!」
美魔女エルフが悲鳴に似た声を上げると、議員全員が失笑を漏らす。
カーシェさんは、その人達を睨み回す。
「何がおかしいのです!彼らの力なくして、ダンジョン攻略は成し得なかった!」
「それこそあり得ぬことじゃ、カーシェ。戦士団が壊滅した程のダンジョンで、エルフに劣るハーフエルフや、更に劣る人族が攻略するなど夢物語。人族が語る、悪質な妄想じゃ」
「妄想を抱いているのは貴方達だ!」
おおぅ、カーシェさん。ちょっと落ち着いて?
深呼吸するようにと、俺とシアさんが彼女の肩に手を乗せる。すると彼女は「ああ、済まない」と俺達に会釈する。
落ち着いてくれたかと、俺は息を吐く。
でも、
「失礼、訂正させてもらう。エルフが優れていると妄想しているのは、我々エルフ全員だ」
おおぅ。より過激になってるぞ?大丈夫?
「おじい様。私も、先日までは貴方達と同じでした。エルフこそが優れた種族であると信じ切り、我々が力を合わせればダンジョン攻略など造作もない事だと思っていた。だがその慢心が、我々の足を掬った。100を超える戦士達は壊滅し、残された我々はクロード殿とカリーダ達に助けられた。我々では到達できなかった場所まで、彼らは進んだのです」
「もう良い、カーシェ。下がりなさい」
「良くありません!」
カーシェさんは叫ぶ。怒りで髪がふわりと波打ち、彼女の周りでつむじ風が起きる。それは、やがて白い突風となって会議室を駆け回る。
そして、中央で集まる。そこに、巨大な白虎が現れた。
議員達は見上げ、口をあんぐり開ける。
「せっ、聖獣様」「聖獣様…」
【グルゥ】
白虎は一鳴きすると、議員達に背を向ける。そして、俺の目の前で座った。俺に、額を向けて来る。
撫でろって?あぁ…そういうパフォーマンスなのね。
言われるがままに虎を撫でると、周囲からは「信じられない」とか「人族が、聖獣様を…」と枯れた声が上がる。
カーシェさんが、白虎を手で示す。
「聖獣様もまた、クロード殿に助けて頂きました。凶悪な魔王を打ち破り、聖獣様を取り戻して頂いたのです。彼が居なければ、我々は滅んでいた。これが、その証拠です!」
「うっ…」「あぁ…」
議員達は、ただ呻くしか出来なかった。認めたくない現実を見せられ、ただ目を伏せていた。
まぁ、今更あんたらのお堅いプライドを変えようとは思わないけどね、この件については、しっかりと対応してもらうぞ。
「議員の皆さんに、ご相談したい事がございます」
俺が進み出ると、カカルダン議長が表情を硬くした。弱弱しくも、俺を睨んで来た。
「なんだ?ひと…冒険者クロード。ダンジョン攻略の褒賞であれば、後日…」
「いいえ。それよりも遥かに、大事なお話がございます。戦没者達の埋葬をしていただきたいのです」
「まい、そう?だが、既に遺体はダンジョンが呑み込んでしまったと聞くが?」
おお。やっぱり放置していると、ダンジョンに溶かされるのか。
新たな情報に驚くも、俺は首を振り、亜空間から黒く染めたカーテンを取り出す。それを、床に広げた。
議員達が「はてな?」と見下ろす前で、亜空間を開いてエルフ達の遺体を浮かび上がらせる。
「遺体は、私が回収しております。全てではありませんが、こちらで一度、集団葬儀を開いて頂きたく思います」
「「「っ…!」」」
遺体を見た議員達は、目をかっ開いて声にならない叫びを上げる。
その中で、議長だけは目を固く閉じ、涙声で「そうか」と呟く。
「同胞達を…連れ帰ってくれたのじゃな、クロード殿。ありがとう…ありがとう…」
議長の震える声が、何度も、何度も会議室に木霊した。
それから程なくして、戦没者達の追悼式が開かれた。場所は大聖堂前の広場。
そこには真っ白な服を着たエルフ達が詰めかけ、大輪の花に飾られた戦死者達の遺体を前に悲しんでいた。
遺体の中には、損傷が激しくて鎧で隠している者も居る。それでも、集まったエルフ達はそれを気に留めることはせず、ただただ戦没者達の為にと涙を流していた。
俺はその様子を、来賓席の端で静かに見守る。隣に座るシアさんも、今日ばかりは大人しい。寧ろ、白装束を着せられた俺の方が落ち着かないくらいだ。
本当に不謹慎で申し訳ないんだけど…今襲われたら、俺も死ぬかもしれない。早く、黒服に戻りたいんだけど?
『次に、カカルダン議長から式辞を頂きます』
司会者が静かにプログラムを進め、戦没者達の前に議長が進み出る。
『大精霊様達の御恵みを頂戴し、戦没者の御遺族、来賓の方々の御列席を得て、合同戦没者追悼式をここに挙行いたします。先の戦いで、158名の同胞の命を失う事となりました』
議長はダンジョン攻略のあらましと意義を説明し、自分の責任であると悔い、戦没者の冥福を祈る。
そして、台本から顔を上げてこちらに視線を寄越した。こちらに来てくれと手で示すので、仕方なく俺はシアさんを引き連れて舞台に向かう。
嫌な予感がするぞ?
『その過酷な任務の中で、彼らが再び故郷の地を踏むことが出来たのは、ここにいるクロード殿とシア殿が連れ帰ってくれたからじゃ。死者だけでなく、生き残りと聖獣様を連れ帰ってくれたのも彼らである』
「「「おぉ…」」」
悲しみに暮れていたエルフ達が、顔を上げる。俺の姿を良く見ようと、泣きはらした目を大きく開く。「ありがとう」「彼が、息子を連れて…」と、熱い視線が送られた。
議長もそれに応じようと、俺とシアさんを一歩前に出した。手に持っていた拡声器魔道具を、俺達に渡す。
えっ?何か一言ってこと?
『あっ、えっと。あたしじゃなくて、クロードが連れ帰ってくれたんだよ?だから、はいっ!』
おーい!シアさーん!それ、丸投げって言うんやで?
強引に渡されたマイクを握り、俺は彼女にジト目を送る。そして、マイクを持ち上げた。
『ご紹介に預かりました。冒険者のクロードです。我々は大森林ダンジョンに潜り、増え過ぎた魔物を討伐し、ダンジョンコアの調整を行って参りました』
「「「おぉおお…」」」
「ありがとう!」
「クロード!」
『ご声援、ありがとうございます。ですが、一部訂正させてください。これは、私やシアだけの功績ではありません。私はたくさんの人に支えられていました。王都で支援して下さったマリノス伯爵。私と共に行動してくれたチーム・シルヴァンの皆さん。共闘して下さったカーシェ隊長と戦士団の皆さん。そして、私達の道を切り開いてくださった、戦没者の皆様です』
俺が声を上げると、「「おぉ~…」」と盛り上がる声の間に、嗚咽も混じる。
実際には、戦士団はただ俺達より先に進んでいただけ。寧ろ、無茶をしてギガンテスに潰されるリスクすら押し付けられた。
でもここは、追悼式の場。彼らと残された遺族の為に、話に色を添えるべき。
俺は振り返り、戦没者に向き直る。
『彼らの尊い犠牲が、我々の道を作って下さいました。彼らが奮闘してくれたからこそ、今があるのです。我々の未来を切り開いて頂き、ありがとうございました』
俺はそう言って、頭を下げる。せめて安らかにと、彼らの冥福を心の中で願う。
そうして、振り返ると。
「「「あぁ…」」」
「クロード様…」
「ありがたや…ありがたや…」
「勇者様…」
集まったエルフ達みんな、俺に向かって頭を下げていた。中には、地面に這いつくばって俺に祈りを捧げる者までいる。
いや、あの…ちょっと待って?そんなに崇められたら、めっちゃ怖いんですけど?
エルフ達の変わりように、俺は壇上でアタフタしてしまった。




