38話~理由はこれだ~
11階層で隊長さんを救出した我々は、一旦セーフティーゾーンまで引き返していた。
みんなの消耗が激しかったからだ。隊長さんもそうだけど、彼女を助けようと頑張り過ぎたカリーダさん達は顔が真っ青だった。
「流石に、今回のはヤバかった。人命救助とは言え、あの量の魔物を相手に無茶をし過ぎた。リーダー失格だ。すまん」
カリーダさんはそう言いながら地面に座り込み、メンバーに向かって頭を下げた。
それにカルカさん達は「今更だ」と笑い飛ばすも、エルフ達は「とんでもない!」と声を上げた。
「貴方達のお陰で、カーシェ様が無事だったのだ。感謝してもしきれない」
「英断だったよ、カリーダ隊長。本当に、ありがとう」
エルフ達の感謝に、カリーダさんは「何言ってんだ」と乾いた笑い声を上げる。
「俺じゃねぇだろ。それを言うべき相手はよ」
「あ、ああ」
「そうだな」
何を思ったのか、エルフ達はカリーダさんを追い越して、こちらへと駆け寄ってきた。
そして、夕食の為にフライパンを振っていた俺の前で、いきなり跪き始めた。
ちょっ!
「クロード殿!本当に、ありがとう」
「貴殿が隊長を見つけてくれなかったら、我々は彼女を見殺しにしていた」
「それどころか、今頃ギガンテスに殺されていた。君は我々全員の、命の恩人だ」
分かった。分かったから離れてくれ!あんまり近付くと、フライパンが頭に当たるだろうが。
「隊長からも、是非!」
「あ、ああ…」
エルフ達に促されて、隊長さんもこちらに来る。そして戸惑いながらも「ありがとう」と泣き腫らした目を向けてきた。
「正直、もうダメだと思っていた。戦士団も壊滅するレベルのダンジョンでは、助けなど来るはずがないとな。だが、君達は来てくれた。ハーフエルフと人族の君達がだ。私はそれが…今でも信じられないんだ」
「まだそんな事言ってんのかよ、カーシェ」
カリーダさんは「はんっ」と鼻で笑う。
「お前らは9階層で壊滅。俺らはここに居る。それが結果だ」
「ぐっ…」
隊長さんは顔を顰める。
エルフ至上主義みたいな人だからな。どうしても、現実を受け止めきれないみたいだ。
でも、それを正直に言ってくれるのは好感が持てる。心を揺らすと言うことは、凝り固まっていない証拠だと思うし。
彼女は若いからな。タレイランのおっさんとは違うと思いたい。
戸惑う美女の様子を見ていると、彼女はため息を吐いてこちらを見た。
「分かった。認めよう。少なくとも君は、エルフの我々でも知らない魔法かスキルを使う。そしてそれが、私を助けてくれた」
魔法でもスキルでも無いんだけどね。
「少年…クロード殿。その力を、今一度お貸し願う事は可能だろうか?」
「貸す、ですか?なんの為に?」
「この先のダンジョンを攻略する為に」
隊長さんがそう言うと、エルフ達は「「えぇえっ!?」」と絶望的な声を上げる。
「なっ、何を言われているのですか!カーシェ様!我々がどんな思いで、貴女様をお探し申し上げたか」
「そうです!また潜るなんて、とんでもない!カカルダン様もきっと、そう仰りますよ」
「カリーダ殿達も、戻られますよね?」
エルフ達に話を振られると、カリーダさんは腕を組んで目を閉じる。そして、そのまま大きく頷いた。
「ああ。俺も、ここで攻略の中断を提案しようと思っていた」
えっ?カリーダさんも?
俺は驚き、フライパンの動きを止めてしまう。でも、他のメンバーも「まぁな」と笑みを浮かべた。
カリーダさんが、11階層へ続く階段を指さす。
「この先は難易度が跳ね上がる。11階の半分を進んだだけでこの有様だ。無茶すれば、確実に犠牲が出る。食料だって限りがあるからな」
「良いと思うぜ、リーダー。あんたの勘がそう言ってんなら、ここは退くべきだ」
カリーダさんの提案に、シルヴァンのみんなは賛成の様子。
ふむ。そうか。彼らにとっては、ここが引き際か。
残念な気持ちで彼らを見ていると、強い視線を感じた。
隊長さんだ。
「クロード殿はどうするのだ?他の者と共に、地上へ戻るのか?」
縋るような目で見上げてくる隊長さん。
やめてくれ。そんな、チワワみたいな目。
「僕は戻りません。溢れそうな魔物を処理しながら、最下層を目指します」
その為に来たんだからね。独りになっても、俺は最後まで潜る。
「あたしも!一緒に行く!」
シアさんがおたまを掲げ、元気に賛同してくれる。
ありがとう。早速、1人じゃなくなった。
「そうか。では私も、それに同行させてくれ」
おお、3人になった。亜空間で守りやすい人数だ。
俺は安心するも、周りの反応は逆だった。
「マジで言ってんのか?お前ら。3人だけで深層に潜るだと?」
カルカさんが目を見開く。その後ろで、エルフ達も「信じられない」と口を開ける。
でも、カリーダさんだけは「まぁ、そうだろうな」と肯定した。
「お前なら、そうするかもなって思ってたぜ。あの常識外れのスキルを持つお前なら、この先も進めるかもしれねぇ」
カリーダさんがそう言うと、他のシルヴァンメンバーも「ああ〜」「確かになぁ」と考え直す。
だが、エルフ達は目を釣り上げた。
「確かに、クロード殿のスキルは素晴らしい。きっと、魔物の数も減らしてくれるでしょう。ですが…何故、貴女まで行かれるのですか!隊長!」
「お願いです!我々と共にお戻り下さい」
エルフ達の懇願に、隊長さんは「ダメだ!」と強く反発した。
この反応、何かあるな。死にそうな思いまでしたのに、この意志の強さは。
なんだろう?聞いてみよう。
「教えて下さい、隊長さん。そこまでする理由を」
「うむ。そうだな」
隊長さんはおもむろに右手を上げる。そして、風の魔法を発動させた。彼女の腕の周りに風が纏わり付き、やがて右腕が消えた。
おぉ!凄い。隠遁魔法か。姿だけじゃなく、匂いも吹き飛ばして消している。これは見事な物だ。
見事なんだけど…それになんの意味が?
「理由はこれだ。このダンジョンに入ってから私は、風魔法が使えるようになった。それは、階を降りる毎に顕著となり、10階層を超えてからはインビジブルも使えるようになったのだ」
「「おぉお…!」」
エルフ達だけが声を上げる。
いや、身内ネタで盛り上がるのやめて貰えません?俺とシアさん、完全に置いてけぼり状態なんだけど?
俺は手を挙げる。
「あのぉ〜、盛り上がってるところで恐縮なんですけど、ちょっと教えて貰えます?その風魔法を使えると、何か喜ばしい事があるのでしょうか?」
「もちろんあるぞ。これこそ、我々が待ち望んでいた事なんだ。私のこの魔法は、ただの魔法ではない。精霊様からお力を頂く、精霊魔法なのだ」
精霊魔法?
…あっ。
「勇者達が置き去りにした、聖獣様…でしたっけ?」
確か、ダンジョン攻略の為にって前川達が借りたはいいものの、逃げ帰る時に置き去りにして失ったとか言われていた精霊だ。
「なるほど」
「ちょっと!クロードまで納得しないでよぉ!」
頷いていたら、シアさんにローブを掴まれてしまった。
ごめん、ごめん。
「つまりだ。失ったと思っていた聖獣様が、まだ生きていらっしゃるんだ。しかも、このダンジョンの深層でね。だから、それに近付いている隊長さんは精霊魔法を使えるようになった…って、ことですよね?」
確認すると、隊長さんは大きく頷いた。
「クロード殿の言う通りだ。それがあるから、私も同行を願い出た。聖獣様に謝罪し、また里に戻ってきてもらうために」
「なるほど。それは隊長さんでないと出来ない事なのでしょうか?」
「ああ。この中で言えば、私が一番適任だろう。幼い頃からずっと、聖獣様と共に居た私の方がな。きっと、相当お怒りとは思うが、何とか鎮めてみせよう」
ふむ。ならば彼女が同行する意味はデカイ。そして俺も、聖獣様を全力で探さねば。
やらかしたのは前川だけど、あいつらは元クラスメイト。同じ異世界人として、尻を拭かないと。
なんか、本当の便所虫になった気分だ。
「じゃあ、下に潜るのはあたし達3人として…他の人達は大丈夫?ちゃんと上まで戻れる?」
シアさんが心配すると、カルカさん達は「ははっ!」と笑った。
「冗談がキツイぜ、嬢ちゃん。心配されるのはお前達だろうがよ」
「3人だけで深層なんて、考えただけでゾッとする」
「そうかな?」
シアさんが首を傾げる。
「だってもう、クロードは居ないんだよ?食料は誰が持つの?」
「「「あっ…」」」
カリーダさん達は一気に青くなる。
それから腹ごしらえをして、少し休憩し、我々はそれぞれの道へと旅立つ。
俺とシアさんと隊長さんは下の階へ。そして、パンパンに膨らんだ荷物を背負ったカリーダさん達は、足取り重く地上への階段を登っていく。
「ひーっ!重い!重すぎる!」
「カリーダ。ちょっと荷物置いて行こうぜ?こんなに要らねぇよ」
「バカ言え!これから10階層分を踏破するんだぞ?これでも少ないくらいだ」
「ぐぅ…。クロードのスキルが恋しいぜ…」
カルカさんが、空身の俺達に哀愁漂う目を向けてくる。
おかしいな。なんだか、俺達の方が離脱組に思えて来たぞ?
「クロード殿」
カリーダさん達を見送っていると、隊長さんが心配そうに俺の顔を見据える。
「カリーダ達にあれほど食料を渡してしまい、本当に大丈夫なのか?下手をすると、何週間もここで粘る可能性もあるんだぞ?」
「ええ、大丈夫ですよ。王都で一か月分の食料を頂いていますから」
まぁ、1か月も時間をかけるつもりはないんだけどね。
「一か月?そんな大荷物を?」
隊長さんは驚き半分、疑い半分といった様子で俺を見つめる。でも、無理やり呑み込んだようで「そうか。では、先ずは作戦を立てよう」とその場で座り込んだ。
「先ずは魔物の数を減らすことが先決だ。魔物はこの部屋には入れぬから、私が囮となり奴らをこの階段の手前まで引き付ける。それを、君達がここから狙い撃つのだ。それで、11階層の魔物を減らしていく」
「それより下はどうするの?」
「それは…また私が、11階層におびき寄せてだな…」
隊長さんは苦しそうに話す。
まぁ、時間を掛ければ何とかなりそうな作戦だけど、リスクがデカい。先ず逃げている最中の罠が怖いし、そもそも魔物がここに入って来ない保証がない。
ボスがボス部屋から出たのだ。このダンジョンでは、もう常識が通じない。きっと、色んなルールがバグっているだろうから。
なら。
「全員で動きましょう。その方が、リスクも効率も良い。隠遁魔法は我々にも掛けられますか?」
「ああ、可能だ。だが攻撃すると解けてしまうぞ?それでもいいのか?」
「ええ、十分です」
心配そうに見上げてくる隊長さんに、俺は大きく頷く。
「きっと、隠遁と亜空間は相性抜群でしょうから」




