36話〜なんで、そんな事に…〜
ギガンテスが消えた後も、我々は最大限の注意を払った。エルフ戦士団に食い付いた魔物が、巨人だけとは限らなかったからだ。
でも、どれだけ周囲を探っても、追加で向かってくる敵影は見えなかった。
俺は目を開け、その状況を伝える。
「敵影なし。追撃はない模様です」
「そうか。取り敢えずそっちの警戒は解くとして…」
カリーダさんの厳しい目が、俺を射抜く。
「説明して貰おうか、クロード。お前は何者だ?手から何か撃ってた様に見えたが、あれはお前の能力か?」
「ええ、まぁ」
俺は渋々頷く。
そりゃ、気になるよな。ただの荷物持ちと思ったら、広範囲探索も出来て、更に巨人の足止めとトドメまで刺してしまった。冒険者だからと追求をやめたカリーダさんでも、流石に聞きたくなったのだろう。
仕方がない。少しは説明しないと、この先の行軍に影響する。
「僕がアイテムボックス持ちなのはご存知の通りですが、その能力は入れるだけでなく出す事も出来るんです。さっきのは、それで吐き出した矢の束なんです」
「ほぉ、なるほどな。在庫を投げつけたって訳か。アイテムボックスにそんな使い道もあったとは、知らなかったぜ」
カリーダさんの目が、少し鋭さを無くす。
悪いな、全国のアイテムボックス所持者達。勝手に、君達の能力を追加してしまった。
「さて。じゃあ次に答えて貰うのは、お前らだ」
カリーダさんの視線が俺から外れ、エルフ達に向かう。
ずっと追いかけられていたのか、彼らは地面に転がって荒い息を繰り返していた。問われても、弱々しく首を振った。
「わ、我々は、必死だったんだ。不運が重なり、とにかく生き延びるしかなかった」
「そうだ。我々が悪いのではない。ただ、運が悪かっただけなのだ…」
エルフ達は必死に弁明しようとするが…運が悪いなんて、言い訳にもなっていない。
カリーダさんも呆れて、大きなため息を吐いた。
「情けねぇな、お前ら。運で全部片付けてるから、トレインなんて最悪の行為をしちまったんだろうが。無理して下層に踏み込んだてめぇらの責任だ」
「ぐっ…」
何も言い返せなくて、エルフが黙る。
でも暫くして、また情けない顔を上げた。
「仕方なかったんだ。我々は、隊長を探さないといけなかった。議長のお孫さんを、見捨てるなんて出来ない…」
「カーシェが?あいつがどうしたんだ?」
「隊長は…転移の罠を踏まれて…」
ああ、なるほど。さっきの部屋で見た残骸は、彼女が踏んだ跡だったのか。それで彼らは隊長さんを探す為、無茶な行軍を続けていたと。
そして、潜り過ぎて鉢合わせしてしまった。自分達よりも遥かに強い相手と。
「頼む。隊長を、カーシェ様を助けてくれ!」
エルフ達は懇願し、祈るように這いつくばった。そこには、ダンジョンの入口で偉そうにしていた彼らのプライドは一切なく、落ち武者のような惨めさが漂っていた。
カリーダさんが頭を搔く。
「頭を上げろ。そんなに頼まれても、はいそうですかなんて頷けねぇからよ」
「そこを、何とか!」
「うるせぇ!俺達はなぁ、自分の命を守るので精一杯なんだよ!てめぇのケツも拭けねぇなら、端から深層なんて目指してんじゃねぇ!」
カリーダさんに説教されて、エルフ達は「そう、だな…」と力なく立ち上がる。そして、また下への道へと戻ろうとした。
それを、カリーダさんが止める。
「止まれ。そんな状態で目の前をうろつかれたら、俺らの邪魔だ。まだ潜る気があるなら、俺らの後ろを歩きやがれ」
「い、良いのか?」
信じられないという顔のエルフ達に、カリーダさんは肩を竦める。
「勘違いするなよ?俺達はただ、ダンジョン攻略の為に潜るだけだ。お嬢様を探すのは、お前らで勝手にやってろ」
「ああ…十分だ。ありがとう…」
エルフ達が涙を流す。
カリーダさんが、ちょっと気まずそうな顔でこちらを振り向いた。
「済まねぇみんな。流れでこうなっちまった」
「ったく、うちらのリーダーは甘々だぜ。なぁ?クロード」
「ええ。ですがそのお陰で、僕もここに居られます」
そうフォローすると、みんなから背中を叩かれた。
カリーダさんも、俺の肩に腕を回す。小声で話しかけてくる。
「(小声)済まねぇが、クロード。こっからは魔物だけじゃなく、カーシェの姿も探しちゃくれねぇか?魔物のついで程度で良いから」
「はい。了解です」
「済まねぇな」
いえいえ。
情けは人の為ならず、ですから。
俺達は9階層を進む。後ろには、エルフ戦士団の生き残りを伴っての進軍だが、彼らは問題なく付いてきていた。
もっと口うるさく何か言ってきたり、あっちこっち行こうとするかと思っていたから意外だ。
もう、俺達しか頼れないと思っているのかな?
分からないが、好都合だった。ただ付いてくるだけでなく、それなりに戦えたから。
「次のフロア、ゴブリンヒーロー3体とトロール2体です」
「よし。先にゴブリンを倒す」
「「おうっ」」「「了解!」」
部屋に入り、カリーダさん達が攻撃の準備をしている間に、戦士団は弓で先制攻撃をする。素早く厄介なゴブリン種を先に無力化してくれた。
やるじゃん、エルフ達。陣形がしっかりしてると強いんだな。
そんな彼らの活躍もあって、我々の歩みは飛躍的に早まった。
そのお陰で、9階層は難なくクリアし、10階層もスイスイと進んでいた。
そして、
「来たか」
下への階段を見て、カリーダさんが緊張気味な声を出す。
当然か。なにせ、この下に10階層のボスが居るのだから。
「我々が前に出る」
エルフ達が進み出る。
それを、カリーダさんが止めた。
「待てよ。何が出るか分からねぇんだぞ?」
「いや、把握している。ここのボスはギガンテス。我々が引っ張ってしまった、あいつだ」
ええっ!?
「なっ!?じゃあ何か?ボスがボス部屋を出たって言うのか?なんで、そんな事に…」
「分からん。だが、我々は奴に追われ、多くの同胞を失った。そして、君達に助けられたのだ」
つまり、ダンジョンの法則性が乱れているって事か。何らかの影響で、今までのルールが崩されている?
うーん。何か嫌な予感がするぞ。まさか、このダンジョン自体がバグの影響を受けている?
これは、すぐにでもコアを鎮なければ。
「分かった。お前らが前衛だ。だが早まった事はするなよ?ギリギリまで引き付けて、最大限の魔法を叩き込む」
「「了解!」」
「カリーダさん。僕も足止めに参加します」
俺が申し出ると、カリーダさんは大きく頷いた。
「クロードが出るなら安心だな。ボスが止まったと同時に、一斉攻撃だ。お前ら、出遅れるなよ?」
「おう!あれなら楽勝だぜ」
「しっかりコケさせてくれよ?クロード。今度は俺が仕留めてやるからよ」
みんなは一気にやる気になって、早く行こうぜと先を急いだ。
おいおい。そんなに期待されると怖いんだけど?次も洞窟型の部屋だよね?
「良いか?お前ら。開けるぞ」
「「おうっ」」
階下に降り、カリーダさんが赤い扉に両手を置く。見上げる程の大きな扉だったが、いとも簡単に開く。そして、俺達が入ると同時に勢い良く閉じた。
ああ、10人ピッタリだったから、すぐ閉まったのか。
「居たぞ!」「奴だ!」
エルフ達の鋭い声。
振り返ると、そこには先程のギガンテスが仁王立ちでこちらを見下ろしていた。
この距離でもかなりの大きさだと分かる。15m級くらい?
その巨人が、動き出す。1歩踏み出すごとに地面が揺れ、足元に濛濛と土煙が舞う。そのスピードが、みるみる早くなっていく。
みるみる、奴の姿が大きくなっていった。
なんて速さだ!
「詠唱開始!クロード。行けるか?」
「任せて下さい」
「よし。そっちは頼んだ」
一番重要な役目を、一言で任せてくれた。信頼してくれている。それが、何より心地よかった。
気合いが入った俺は、ギガンテスの動きに集中する。奴の1歩1歩を見極め、みんなの攻撃範囲を考慮する。
エルフ達とシアさんが、弓矢で牽制し始める。それによって、ギガンテスの速度が少し落ちた。
でも、止まらない。止まる気配すら見せない。弓矢程度であればと、防ごうとすらせずに突っ込んでくる。
その姿に、エルフ達の腰が浮き上がる。「ヤバい」「まだなのか?」と、カリーダさん達の攻撃を急かす。
それに、カリーダさんから活が飛ぶ。
「まだだ!引き付けろ!」
「了解!」
俺も手を構える。
魔法が最も効きやすいのは5〜10m。その場所に顔が来る様に調整するなら…。
まだ…まだ…もう少し…今っ!
「いまっ」「了解!」
カリーダさんの号令とほぼ同時、俺は巨人の足元に亜空間を開く。それは見事に巨人の片足を飲み込み、バランスを崩した奴の体がこちらへと倒れ込んできた。
それを見て、エルフ達は悲鳴を上げて逃げ出すけど…心外だな。ちゃんと俺らの手前に顔が来るよう、調整してるって。
「よしっ!全員、巨人の頭部を狙え!」
「「おうっ!」」
倒れ伏した巨人目掛け、カリーダさん達とシアさんが一斉に攻撃を放つ。ワンテンポ遅れて、戻って来たエルフ達もそれに参戦する。
俺も両手を構える。マリノス伯爵から頂いた槍を、そこから発射した。
さぁ、喰らえ!
「ランス・チャージ!」
【グボォッ!?】
総攻撃を食らった巨人の顔は、断末魔も許されず爆炎の中へと消える。そして火が消えた時には、そこには真っ黒焦げの頭しか残されていなかった。
その頭も、地面に落ちる。
巨人の体が泡と消えた。
「「っしゃぁ!!」」
歓声。カリーダさん達だ。
彼らは仲間同士で肩を叩き合い、次いで俺の肩を叩いた。
「ナイスだ!クロード。完璧なタイミングだった」
「指示に合わせただけですよ」
「それが出来れば一流だ!」
バンバンと、遠慮なく叩くカリーダさん。他のみんなも笑い合い、互いを褒める。
それを、エルフ達が呆然と見つめる。「こんな…あっさり…」とショックを受けていた。
見たか?これが冒険者の実力よ。
彼らはその後も、ずっと戸惑ったままだった。
ボスを倒した我々は、ボスエリア後のセーフティーゾーンで休憩を取った。
急いでるとは言え、焦ったら負けだ。体調を万全にして進まないと、命を救う前に足を掬われる。
と言う事で、俺とシアさんは頑張った。預かった食料だけでなく、伯爵が持たせてくれた食料も使って精のつく料理を振舞った。
少しだけだが、ワインも開ける。魔力回復は寝るのが1番らしいので、エルフ達が休めるように配慮した。
ここに来てからずっと、ソワソワしているからね。余程、隊長さんが心配と見える。
なんでそんな人を、この作戦に組み込んだのだろうか?
「よしっ。お前ら、しっかり休めたか?」
「「おうっ!」」
「戦士団の奴らも良いか?」
「あ、ああ。休み過ぎたくらいだ。まさか、ダンジョンの中でこれ程の食事が出来るなんて…」
困惑するエルフに、カリーダさんがドヤ顔をする。そして、俺の背中を押す。
「礼なら、このクロードに言いな。こいつのスキルがなかったら、俺達は今頃、ダンジョンのシミになってた」
「この、人族が…」
彼らが驚いた顔をするので、俺は小さく頷く。
そして、シアさんを隣に立たせた。
「夕飯と朝食は彼女の功績です。美味しかったでしょ?」
「あ、ああ。あのハンバガ?とか言うのは、特に美味だった」
「片手で食べられたしな」
「間違いない」
おぉ。やったなシアさん。ハンバーガーが好評だぞ?
こりゃ、王都より前に大森林で支店がオープンするかも。
「よしよし。うんじゃあ、気合い入れて11階層に行くぞ!」
「「おうっ!」」
「クロード。階下の様子を教えてくれ」
「少々お待ちを…うん?」
俺は早速目を送ったが…そこで、目を疑った。
何せ、そこには…。
「どうした?クロード」
「はい。えぇ〜、魔物です。階段前に敵影多数」
見えるだけでも、ゴブリンメイジ、アサシン、シャーマン。オークジェネラルにトロール、オーガ、ブルーオーガ。奥にはサイクロプスとサラマンダーまで居る。
これは…。
「魔物の、巣です」
階段を降りてすぐ、特大のトラップが待ち構えていた。




