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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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35話〜こいつは、ひでぇ〜

「次で8階層だ。気を抜くなよ」


 5階層まで半日で降りた我々だったが、それからは攻略スピードが鈍化した。

 ワインを飲み過ぎて二日酔い…なんて事はなく、出てくる魔物のレベルが一段上がった事が原因だ。

 ただのゴブリンは居なくなり、代わりにゴブリンメイジやゴブリンアサシンなどの厄介な上位種や、オーガやサイクロプス等のパワー系が増えて来た。


「次、そこの角を曲がったらゴーレムが来ます」


 ただ、それでも危なげなく進めている。俺が事前に数と種類を告知しているので、彼らは接敵と同時に最適の魔法を放つ事が出来ている。最善のルートを極力選んでいるから、罠に掛かる頻度も抑える事が出来た。

 その道に罠があったとしても、優秀な斥候が見つけてくれるし。


「よし。罠外し成功だ。他には無いぜ」

「カルカ。何の罠だったんだ?」

「猛毒矢の罠だ。0.1mgで、オーガとか動けなくする奴だな」


 うわっ。それは…是非欲しいアイテムだ。

 っと、冗談はさておき。出現する魔物だけでなく、罠も強力になっていた。崩落の罠とか、ギロチンの罠とか、大型地雷の罠とか。

 特に注意しないといけないのが、転移の罠だ。こいつを踏むと、踏んだ人間をこのダンジョンのランダムな場所へ転移させてしまう。それが浅い階層ならまだ良いが、もしも深層へ送られた日には、一瞬で魔物の餌になるだろう。

 絶対に、シアさんが踏んではいけない罠だ。


 そんな不安もあったので、みんなの歩みは遅くなっていた。

 そこに、追い討ちが掛かる。先にその光景を見てしまった俺は、余りの衝撃につい、ナビゲーションを止めてしまった程だった。

 すると、カリーダさんが振り返る。


「どうした?クロード。何があった」

「えっと…左に曲がるのが最短で安全、なんですが…」

「何だ?何でも言え。俺が許す」


 俺はカリーダさんの言葉に甘え、彼に耳打ちするる。すると彼も表情を変えて「左だな」と重く頷き、先に進む。

 そして、その部屋の入口で立ち止まった。

 そこには…。


「こいつは、ひでぇ」

「ひいふうみぃ…数え切れねぇな」


 数多くの死体が、大広間中に散乱していた。

 全部、見覚えのある装備をしている。間違いなく、先を行っていたエルフ達の亡骸だった。

 

「戦士団の奴ら、魔物と刺し違えたか」


 カリーダさんがしゃがみ、魔石を拾う。それは、部屋中に転がっていた。

 戦士達の肉片と、同じように。


「こりゃ、魔物の巣にぶち当たったな」

「巣…ですか?」

「ああ」


 聞くと、カリーダさんが教えてくれる。

 魔物の巣とは、1つの部屋に大量の魔物が詰め込まれた状態を指す言葉だ。それが小さな部屋なら大した事はないが、ここみたいに大部屋となると戦うのは厳しいらしい。


「下手すると、ワンフロア全部が魔物の巣になっていたっていう事もあるらしいぞ」


 ひぇ。

 それ、なんてモンスターハウス?


「しかも、そういう部屋には罠も多い」


 いや、マジでモンスターハウスじゃないか。


 俺達は慎重に部屋の中を進む。罠が多いとは聞いていたが、その殆どは発動した後の物ばかりだった。

 つまり、先人達がそれを食らったと言う事だ。だから、戦士団の犠牲が増えたのだろう。彼らの亡骸の中には、背中を射抜かれ、首を切断された者も居た。

 無念だったろう。魔物に囲まれ、退こうとしたところで罠にかかって死ぬなんて。


「うぇっ。転移の罠まで発動してやがる」


 カルカさんが「恐ろしい」と首を振るので、俺もこっそり近付く。そこには、何処か見覚えのある魔法陣が描かれていた。

 何処で見たのか…そう、教室だ。こちらの世界に飛ばされた時に見た魔法陣。あの時に書かれていた文字とよく似ている。


「余り近付くなよ、カルカ」

「大丈夫だよ。もう発動した後だから」

「そうか…」


 カリーダさんが顔を顰める。

 きっと、転移してしまった兵士の無念を嘆いているのだろう。半端者と見下して来たエルフ達だが、それでもざまぁ見ろとは思えないみたい。

 分かるよ。そんな感情より先に、この惨たらしさに頭が下がるよな。


「行くぞ」

「あいよ」


 彼らの屍を超えて、俺達は先に進む。

 …っと。流石に放置は可哀想か。

 

 みんなが部屋から出たのを確認した後、俺は部屋の床に亜空間を開く。魔石や魔物の素材と共に、戦士達の亡骸も収める。

 無事にダンジョンをクリアしたら、里に帰してやろう。それが、遺された者達への手向けとなる筈。


「クロード…」


 シアさんがギュッと、俺の腕を掴む。

 さっきまで意気揚々と歩いていたのに、怖くなってしまったのか?

 そりゃ、そうだろう。普通なら、その場で座り込んでもおかしくないのだから。


「大丈夫?」

「うん。でも、次はあたし達かもって思ったら」


 …ああ。

 

「そうだな。そうならない様に、警戒しよう」


 亜空間も開いているけど、何があるか分からないからね。


 俺達は一部屋一部屋、慎重に進む。カルカさんだけでなく、俺達も罠が無いかを気にしながら歩いた。

 罠があると、周りと僅かに違うらしい。ちょっと浮いていたり、凹凸が変になっているんだとか。


「何故かは知らんが、魔物が踏んでも発動しないから、奴らの足跡に騙されんなよ」


 うわっ。なんか卑怯だな。

 罠が見える様になる盾とか、腕輪とか無いの?


 空想を広げながらも、俺達は8階層を抜け9階層に降り立つ。

 やっとスランプを抜け出せたとみんなが喜ぶ中、2番目を歩いていたカリーダさんが止まる。暗い部屋の向こうを、ジッと睨んだ。

 どうしました?


「…なんだろうな。何か、フロアの空気が張り詰めていやがる。何か、良くない事が起こるぞ」

「出た。カリーダの第六感」

「ここで出るのかよ。幸先悪いぜ」


 メンバーのみんなは軽口を叩くが、既に戦闘モードに移行していた。

 その勘、随分と信用性が高いみたいだね?俺も警戒するか。


 俺は片目を瞑り、彼らと共に進む。でもその最中に、カリーダさんが止まった。

 俺を振り返る。


「クロード。周囲の様子はどうだ?」

「異常なし。周囲に魔物の影はありません」

「そう…いや、探索範囲を広げてくれ。何か、嫌な感じがする…」


 カリーダさんに言われ、俺は両目を瞑って本気の探索をする。

 手前の部屋…クリア、次もクリア…隣もクリア。全て異常なし。その先もクリ…うん?

 部屋を1つ1つ確認していると、僅かな振動を感じた。耳も送って確認すると、僅かな足音が聞こえる。その方向に監視の目を送ると…。

 なっ!?


「敵影確認!かなりの大きさ!」

「デカい?サイクロプスか!?」

「それより巨体です!」


 サイクロプスも像並に大きかったが、それより一回りも二回りも大きい。広いダンジョンの天井に、頭を擦っているくらいだ。


「まさか…ギガンテスだと?」


 カリーダさんが絶望的な声を上げる。周りのみんなも「有り得ない」と口を揃える。


「最深階層の魔物じゃねえか」

「こんな所まで登ってくるのか?ボス部屋はどう通ったんだよ」

「こっちに来るのか?どうなんだ!?クロード!」

「接近しています!」


 ギガンテスは物凄い速さで、こちらへと爆走していた。

 まるで、何かを追いかけるように。

 いや、足元に何か居るな。あれは…。


「戦士団です。戦士団の生き残りを追って、こちらに近付いています!」

「なっ!…ちっ。あいつら、下層からトレインしてきやがったか」


 トレインとは、魔物にマークされた状態で逃げ、他の冒険者を巻き込む劣悪な行為だ。これが酷くなれば、スタンピードに発展する事もある。

 バンドンさん達がやってしまった奴だな。


「どうする!?カリーダ!」

「迎え撃つ!逃げてる最中に罠踏むのが1番ヤバい!」


 賛成だ。逃げて助かる保証はない。今なら、万全の状態で挑める。


「接敵まで、およそ60秒!…50、…40」


 少しでも優位に立つ為にと、俺は目算でカウントし続ける。それを聞きながら、カリーダさん達は詠唱に入った。

 こりゃ、しっかりと計算せねば。


「クロード!」


 シアさんも険しい顔で、弓を見せ付けて来る。

 OK。そういう事ね。俺の背中目掛けて、バンバン撃って来なさい。


「残り20秒!」

「来てる、来てるぞ。地響きがやべぇ」

「ミスるんじゃねぇぞ?カントル」

「お前もな、カルカ」


 ここまで近づくと、俺でなくとも感じる様になっていた。

 そして、現れる。

 先ず見えたのは、血だらけのエルフ達だった。


「たっ…助け!くれ…!」

「ギガ、ギガンテ…!」


 俺達を見たエルフは、必死な形相で助けを求めてくる。あれだけの大部隊が突入したのに、ここに居るのは10人にも満たない。

 そしてそれは、更に減る。後ろから現れた、山の様に大きな存在によって。

 それは、1つ目の巨人だった。


【ウガァア!】


 巨人は耳を覆いたくなるような叫び越えを上げ、手に持った巨大な棍棒を振り上げる。

 それを、力いっぱいに薙ぎ払った。


「ぎゃっ!」「がっ!」


 その一撃で、鮮血が舞う。エルフだった物が壁まで吹き飛び、ベチャベチャと嫌な音を立てて張り付いた。

 たった一撃で、半分のエルフが消えてしまった。

 なんて、規格外。


「今だ!撃てぇ!」


 カリーダさんの号令で、彼らの手から特大の魔法弾が放たれる。それらは見事着弾し、巨人が唸り声を上げた。

 歩みが、止まる。

 と、思ったが、再びゆっくりと歩き出した。

 体が蜂の巣になった巨人は、しかし、まだ生きていた。

 なんて生命力だ。腹に大穴が空いてるってのに。


「カルカ!時間を稼げ!もう1発かますぞ!」

「おうっ!」


 絶望的な状況に、カリーダさん達は諦めない。青くなった唇で詠唱を開始し、カルカさんも躊躇なく巨人へと向かって行った。

 素晴らしい信頼関係だ。

 俺も。


「俺も足止めします!」

「はぁ?おまっ、荷物持ちが何を言って…」


 カリーダさんが素っ頓狂な声を上げるが、説明している時間が惜しい。俺は巨人の足元に亜空間を開き、奈落へ落とそうとした。

 でも、足りない。開いた亜空間が小さくて、片足しか落とせなかった。だから、直ぐに抜け出してしまう巨人。

 こいつ、ちょっと闇属性の魔力を持っているのか?だったらこれだ。


「針千本!」


 作戦を切り替え、俺は亜空間から大量の槍を出現させる。それで、巨人の両足を貫いた。


【グガァアアア!!】


 絶叫。

 それだけで、鼓膜が破れそうな衝撃を受ける。

 でも、足は完全に止まった。伯爵の槍はかなり高性能らしく、巨人は膝を着いた。

 きたっ!


「今です!総攻撃チャンスッ!!」

「お、おうっ。やるぞ!お前ら!」

「「っしゃああ!」」


 カリーダさん達から魔法弾が飛び、巨人は大きく仰け反る。四肢を着いて、息も絶え絶えになった。

 巨大な1つ目が、俺達の目前に迫る。

 よし。弱点丸見えだ!


 俺は駆け出し、巨人に迫る。奴の目に向けて、腕を真っ直ぐに伸ばした。

 そこから、大量の矢を発射する。

 喰らえ、シアさんスペシャル!


「ショットガン・アロー!」


 至近距離で放った矢の拡散弾は、大きな巨人の目に全弾命中した。

 巨人は【グァッ!?】と短い断末魔を放った直後、前のめりになって倒れる。ビクンッと大きく跳ねた後、音もなく消えていった。

 残ったのは、手のひら程もある大きな魔石と、巨人の牙が数本落ちていた。

 やった。倒した。


「やりましたね!皆さん!」


 戦利品を拾って、俺はみんなの元に。

 でも、みんなは喜びの声を挙げず、ただ呆然と俺を見返していた。

 えっと…どうしました?


「クロード、お前…何者なんだ?」


 カリーダさんが、力なく尋ねてきた。

カリーダさん達にも、バレましたね。


「仕方なかろう」

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