34話〜見返してやりましょう〜
「思ったより楽ちんだなぁ」
「先に行かせて良かったぜ」
大森林のダンジョンに続く街道を、俺達は軽い足取りで進む。
周囲は背の高い木々が多く、木漏れ日が我々の先を照らしていた。そよぐ風は穏やかで、なんだかピクニックでもしている気分になってきた。
とは言え、それは上だけを見ればである。道沿いを見ると、そこには戦闘の痕や切り刻まれた魔物の死体が転がっていた。きっと、先行したエルフの戦士団が蹴散らしたのだろう。漂う臭いに、腐敗臭はない。フレッシュな死体ってことだ。
「しっかし、すげぇ魔物の量だな。前回より酷くなってねぇか?」
「そうなんですか?」
俺が話しかけると、メンバーの男性は「ああ…」と、ちょっと気まずそうに目を逸らして頷いた。
「街の柵も損耗が激しいし、確実に魔物は増えてる。ダンジョンが活性化している証拠だ」
「活性化」
ダンジョンコアの手入れをしていないと、ドンドン強い魔物を生んで到達出来なくなる。そうすると浸食が進んで、ダンジョンの階層も増えていく。すると更にコアの手入れは難しくなる。
悪循環だ。
これを断つ為に、誰かがコアに接触しなければならない。
でも…。
「その活性化を止めるためには、どうしたら良いんでしょう?コアを壊すとかでしょうか?」
学園では、タレイラン先生が管理していたから浸食は抑えられていた。でもどうやって管理していたかが分からない。何か、特別な魔法があるのだろうか?
そう思って聞いてみると、カリーダさんは手のひらを見せて来た。
なんです?
「触るだけだ。それだけで、コアの魔力が体内に吸収される。そんで、コアの暴走は収まるって事らしい。反対に、触れた奴の魔力は上がる。大した量じゃねぇけどな。そんでも、適正無しが有りになるのはデカイだろ」
「えっ?魔力適正が上がるって事です?」
俺は驚き、シアさんと顔を見合わせる。
俺達は学園ダンジョンをクリアした。なら、魔力適正が上がっているのか?
「どう?シアさん」
「そう言われても、何も変わってないよ?ほら、炎もこんなだし」
うん。いつものオレンジ炎だ。
「他は?」
「他は無いよ。あたし、炎しか取り柄ない…あっ!ちょっと砂っぽいのが出た!」
おぉ、本当だ。魔力が砂に変換されている。これって、土魔法の適性が上がっているってことか?同じくクリアした俺も?
試しにやってみたが、俺は全く変化なし。そもそも変換出来るだけの魔力が出せない。
ぐぬぬ…。流石は魔力適正Eランク。涙が出そう。
「大森林のコアは相当魔力をため込んでるだろうからな。あまり長く触っていると、破裂するかもしれねぇぞ?」
「はっ、破裂!?」
カリーダさんの脅しに、シアさんはブルブル震える。
破裂か。なら、その余った魔力は亜空間へ逃がすのが良いだろう。全てを呑み込む亜空間なら、それくらい訳なく呑み込める。
…あり過ぎて、俺の適正まで呑み込んじまってるし。
「おっ、あれが大森林のダンジョンだぜ」
メンバーの1人が前方を指さす。そちらを見ると、他の大樹よりも更に太く高い大木が見えた。
巨木を超えた大巨木だな。
「あの根元にダンジョンがあるんだぜ」
「そして、そこから漏れた魔力で、周囲の魔物が強化されて、数を増やしているんだ」
なるほどな。
カリーダの補足に、俺は口を結ぶ。
ダンジョンコアが魔力を貯めて、それが放出されてダンジョンが強化。それが飽和すると、今度は外に巻き散らす。いずれ世界は、魔力の波に吞まれるって訳か。
「うわっ。戦士団の奴ら、まだ入り口でもたついてやがるぞ」
本当だ。
騎獣で颯爽と駆け抜けたと思ったエルフ軍は、まだあんなところで屯っていた。どうも、狭いダンジョンで活動する為にと、部隊を細かく再編しているみたいだ。
面倒な事をしているな。やっぱりダンジョンって、数で攻めてもダメなんだ。
「おい、隊長さん。俺達も中に入りたいんだが?」
端の方に立っていた金髪美女に、カリーダさんが話しかける。すると、彼女は首だけこちらを振り向き、ムッとした表情となった。
「大人しく待って居ろ。お前達が入った所で、何も変わらんのだからな」
「なんだと?」
カリーダさんが低い声で唸ると、金髪エルフは体ごとこちらへ向けて腕を組んだ。
「事実だろう。お前達のような半端者が徒党を組んだところで、何が出来ると言うのだ」
「てめぇ…俺達の血を愚弄するんじゃねぇ!」
ヤバイ。カリーダさんがキレた。半端者って単語に過剰反応している。
きっと、ハーフエルフである彼らにとって禁句なんだろうな。メンバーの誰も、彼を止めようとしていないし。
でも、ここで軍と揉めるのは不味い。人間である俺は、あんたらが最後の希望なのだから。
「冷静になって!カリーダさん!」
俺は2人の間に割って入り、カリーダさんの突進を受け止める。
ぐっ…。なんてパワーだ。バンドンのおっさんより遥かに強いぞ。こりゃ、何か魔法を使っているな。強化魔法か?
筋力だけでは抑えきれなかったので、俺は亜空間を使って力を反射した。それで漸く、カリーダさんは止まる。
ふぅ、助かったと安心するのも束の間、俺の後ろで「ふっ」と嘲笑混じりの笑い声が起こる。
「落ちたものだな、半端者。まさか、人間の手を借りるとは」
「だったらなんだ!エルフだけで組めば、ここを攻略出来るって言うつもりか!?」
「出来る。私達は高潔なエルフの一族。そして、その中でも選りすぐったのが私の部隊だ。由緒正しきエルフである私達が、このダンジョンを攻略してみせよう」
隊長さんはそう言い切って、俺達に背を向ける。長く美しい金髪を靡かせながら、ダンジョンの入口へと入って行く。
いつの間にか、エルフの部隊は全員ダンジョンへ突入し終えていた。
「ちっ。親の七光りが」
隊長の消えた辺りを睨んで、カリーダさんが唸る。
七光り?
俺が目を瞬かせると、カリーダさんは「あぁ」と吐き捨てるように言った。
「あいつはカーシェ。カカルダン議長の孫娘だ。自分が良い所のお嬢様だからって、やれ血統がどうのとか一族の誉れが何だとか口うるさい女でよ」
「あぁ…そう言う感じですか」
居るよね。そういう、自分の地位を見せびらかして来る人。
「でしたら、見返してやりましょう。彼女達よりも早く、ダンジョンを攻略するんです」
「ああ…そりゃ、そうてやりたいけどよ。あいつらは人数も多いし、使える魔法も魔力も多い。だから、あいつらより先に到達するのは難しいだろ」
「途中までだが、このダンジョンの地図を持ってるって噂もあるぞ」
カリーダさん達は、悔しそうに顔を顰める。
なので、俺は胸を叩いた。
「ご安心を。俺も、似たような方法を持っています」
そう言うと、彼らは「本当か?」と疑わしい目を向けてい来た。
まぁ、そんな目をしないで見ていて下さいよ。共通の敵を見返す為、俺もちょっと本気出しますから。
「この道は右折しましょう。その方が近道です」
「こっちの道は直進です。左はエルフ部隊がトラップに引っかかって、立ち往生しています」
「今度は左折を。少々大回りになりますが、魔物が少ないルートですので」
ダンジョンに入ると、俺は率先してカリーダさん達に道を示した。最初は疑っていた彼らだったが、入って1時間もしない内に2階層への階段に着いてからは、その色も引っ込めた。逆に、「なんで分かるんだよ?」と俺の秘密を知りたがった。
まぁ、その気持ちは分かるけどね。
「こればかりは教えられません。私の数少ない特技ですので」
「ああ…いや、俺こそ済まない。冒険者として、マナー違反だった」
「いえいえ。ですが、精度は保証します。ご安心を」
「分かってら。こんな短時間での2階層、冒険者になって初めてだからな」
それは良かった。
安心する俺に、他のメンバーも「そうそう」と相槌を打つ。
「それに、トラップに一度も引っかかってないしな」
「それな。カリーダだったら、1回は引っかかるもんな」
「3回の間違いだろ?」
「おまえら!」
ワイワイと楽し気に騒ぐカリーダさん達。
でも、いざ魔物が現れたら表情が変わる。一言も発する事なく前衛と後衛に別れ、次の瞬間には攻撃に転じていた。
ほぉ…これが熟練冒険者のパーティーか。
余りに早い展開で、俺とシアさんは構えるだけで終わってしまった。
「すっごい早い!」
シアさんが手を叩いて賞賛すると、彼らは満更でも無い顔で照れる。手を振って「止せよ」と謙遜する。
「こんだけ身軽なら、そりゃ早くもなるって」
「寧ろこれでモタ付いてたら、俺らはとっくに魔物のオヤツだ」
「それよりお前ら、ちゃんと食料は有るんだろうな?アイテムボックスに穴が空いていて、全部漏れてましたとかやめてくれよ?」
そんな事があるの?
聞いてみると、出来損ないや壊れたアイテムボックスはそう言う事があるそうだ。容量以上に詰め込み過ぎて、無くなったり壊れたりする時もあるとか。
「お前、随分と詰め込んでたもんな。食料は大丈夫か?」
「ええ。何なら、次の大部屋で確認がてら昼食にしますか?エルフ軍が使った焚き火跡がありますよ?」
俺が提案すると、「それが本当ならな」と了承するカリーダさん。
そして、部屋に入って焚き火跡を見つけると、「マジで有りやがる…」と固まっていた。
ほら、ほら。突っ立ってないで、昼食にしますよ。
「シアさん」
「おっけー!」
俺はシアさんと手分けして、簡単な料理をする。
シアさんが下処理をしている間に、俺はそこらの石を組んで竈門を作り、亜空間から薪を取り出しそこに組む。それに、シアさんの火魔法で着火する。
後はちゃちゃっと焼いて完成だ。途中でゴブリンの群れが近付いて来たけど、亜空間を出す前にカリーダさん達が倒してくれた。
察知能力も高いな、彼ら。見えてないのに勘付いていたぞ?
何か魔法を使っていたのか?
「うめぇ…こりゃうめぇぜ」
「ダンジョン内で温かい飯に有りつけるなんて、なんて贅沢だよ」
みんなはシアさんの料理に大満足だ。長年レストランで働いていただけあって、彼女の料理スキルはなかなかの物。
流石は、人気店の看板娘だね。
「お前のアイテムボックスもすげぇぜ」
「そうだ!薪とかフライパンまで入ってるとか、どんだけデカイアイテムボックスなんだよ」
俺の亜空間も見直された。まだまだ入ると言うと、ドロップした魔石と魔物の素材も入れて欲しいとお願いされた。
でも、
「まぁ、それも5階層のボスを超えてからで良いぞ。それまでは、雑魚ばかりだからな」
カリーダさん達からしたら、ここら辺の魔物は眼中にも無いらしい。
その言葉通り、5階層までは何の問題もなく降りる事が出来た。3階層はオープン型のダンジョンだったが、彼らがグイグイ引っ張ってくれたから苦戦せずに突破出来た。
助かった。さっきの昼食で炭は手に入れられたけど、炭ボールを作るのは結構手間だから。
そして、肝心のボスはと言うと。
「おらぁ!」
カリーダさん達の見事な連携の前に、ブルーオーガは呆気なく沈んだ。何時でも亜空間を出す準備だけはしていたけど、その出番は一度もなかった。
不味いな。マジでニート状態だ。シアさんも弓で援護射撃したって言うのに。
「やるな、嬢ちゃん。正直、クロードのオマケくらいにしか思ってなかったぜ」
カリーダさんに褒められ、シアさんは「ひっどーい!」と頬を膨らませる。でもそれは、どうやら照れ隠しみたいだ。空気が抜けたあと、ニヤニヤが抑えられてなかった。
「良い動きだったぜ、嬢ちゃん。俺らのパーティーに入らねぇか?」
「おっ、良いねぇ。男ばかりで嫌気が差してたとこなんだ」
おいおい。それは本当に、弓の腕だけで誘っているのか?
俺が眉を上げると、シアさんも警戒したのか「あ、あたしは、クロードとチームだから」と俺の後ろに隠れてしまった。
ほら。幼気な少女を相手に、悪ノリし過ぎだぞ?おっさん達。
俺は彼らの誘いが冗談だと思った。ハーフだけど、エルフには違わない彼らだから、本気で人間をパーティーに入れようとするとは思えなかった。
でも、そうではないと直ぐに理解する。
ボス部屋を過ぎた後には、セーフティゾーンと言う魔物が来ないエリアが広がっており、俺達はそこで夕飯と休憩を取る事となった。そこで、少し凝った夕食と作戦で余ったワインを出したのだが、予想以上に好評過ぎた。
「いやぁ。こんな美味い飯と良いワインまで飲めるなんて…最高過ぎるぜ!お前ら」
「探知魔法も極級以上だし、どんだけ優秀なんだ?クロードお前」
「ようこそ、お2人さん!俺達のチーム・シルヴァンへ!」
ちょい、ちょい、ちょい!強引過ぎるぞ酔っ払い!
余ったワインまで出すんじゃなかったと、俺はちょっぴり反省した。
ダンジョン…これは楽勝でしょうか?
「それは、フラグか?」




