33話〜素顔を見せなさい〜
勇者が聖獣までダメにして、エルフ族からの信用を地に叩き落とした。
そんな中、イリーナが長老会なるところに直談判をしに来たらしい。
その情報を得た俺は、急いで行動に移す。再びシアさんと別れ、エルフ族の最高決定権を持つ長老会とやらを見る為に、議会場へと急いだ。
冒険者達からザックリとした場所は教えて貰ったが、彼らも施設に入った事がないらしい。近付けるのは長老と、その血筋の人間だけらしいのだ。
言わば、人間側の王宮みたいなところ。
そう言えば聞こえは良いが、着いてみるとそこは、見上げる程に巨大な大樹で作られた木の館だった。他の家よりは大きいけど、王都の冒険者ギルドより小さい建物だ。
その大樹の前に、見覚えのある馬車が1台停まっていた。
イリーナ達のだ。
俺は亜空間に潜り、内部に潜入する。
外からは小さいと思った館だったが、中は思いの外広く、イリーナが何処にいるのか探し回る羽目になった。
そして、漸く見つけた。大きな会議室に、木の長机が床から生えて円を作っており、その上座に5人のエルフがどっしりと座り、下座でイリーナと神官達が立たされていた。
壮年のエルフが、机に頬杖を着きながら爪で叩く。
「ではイリーナ様は、次こそ勇者がダンジョンを攻略すると仰るのですね?その判断は、神託を受けての事でしょうか?」
「女神様のお手間を煩わせるまでもありません。私達には確実な作戦があります。それで、今度こそ大森林のダンジョンを攻略…」
「神託は無いのですね?それでは、我々も許可を出せません。風の聖獣様を失った今、次に犠牲となるのはこの街かも知れないのですから」
「そんなっ…!」
イリーナは絶句するも、すぐに弁明しようとする。
「お待ち下さい!今度こそ、確実に攻略する方法があるのです!」
「聖獣様以上の手札を、お持ちだったと言うことですか?」
「うっ…」
イリーナは黙る。
それを見て、年老いたエルフがため息を吐いた。
「イリーナ殿。我々は貴女に恩がある。10年前の赤龍急襲の予言。それに3年前の大飢饉の予言。どちらも、貴女からもたらされた神託によって難を逃れる事が出来た」
「でしたら!」
手を叩いて喜ぶイリーナ。
でも、老人はゆっくりと首を振った。
「それ故に、我々は3度の失敗を許し、勇者マエカワの要望を叶えた。そして、聖獣様消失の責も街からの追放のみとしたのじゃ。これ以上の温情、我々は持ち合わせておらんのよ」
「それは…ですがそれでは、ダンジョンはどうされるのです?勇者も入れず、どう攻略を…」
「それは我々エルフだけで行いますじゃ。人族に頼らずとも、我らにも優秀な戦士がおります故」
「ですが…」
言いかけたイリーナだったが、結局言葉は出てこなかった。
長老達はもう何も言うことは無いと言うように、席を立って退出し始める。
最後に退出しようとした壮年のエルフが「ああ、そうだ」と立ち尽くすイリーナを振り返った。
「先ほど、勇者の仲間を囚えたそうです。帰る際に引き取って頂き、二度と侵入しないよ教育して下さい」
「仲間?その者の名は?」
「さて、クラドだったかクロドだったか。人族の名前はどうにも難しくて覚えていられません」
おっと、不味い。
俺は慌てて亜空間を閉じ、シアさんの元に戻る。彼女を適当な宿に退避させ、俺は急いで檻に戻った。
幸い、まだイリーナ達は来て居らず、誰も俺の不在に気付いてはいなかった。
でも、すぐに声がかかる。
「おい、そこの…腹痛冒険者。起きろ。面会だ」
「(低音)へい。あっしですかい?」
俺は喉に亜空間を開き、声を低くする。加えて黒コートと黒仮面を被り、布を剥いだ。
案の定、そこにはイリーナが立っていた。俺を見て、怪しむ様に目を細めた。
「素顔を見せなさい」
「(低音)へぇ?あっしのですかい?だども、みんなに気持ち悪るがられるんで、あんまり見せとうないんで…」
「良いから、早く仮面を取りなさい!」
苛立つイリーナの命令に、俺は「(低音)面倒だのぉ」とブツブツ言いながら仮面に手を掛ける。
そうして仮面を外す直前、俺は首から上を亜空間に送る。その代わりに、取り込んだ盗賊の首をそこに出現させた。
死人の首を、イリーナの方に向けた。
どうよ?
「うっ…もう、良いです」
「(低音)ほら、言ったでねぇですかい」
俺は仮面を付けながら、力無く言う。
イリーナはその言葉も聞かずに「我々の関係者ではありません」と言って、早々に帰っていった。
ふぅ。助かった。
「勇者じゃ、ない?」
警備員がポカンと口を開き、去っていくイリーナの背を見る。そして、慌てた様子で何処かへ走り去ってしまった。
次に彼が帰ってきた時には、別のエルフを連れて来た。
そのエルフが、俺の檻を開けた。
「出ろ。釈放だ」
どうやら、俺が勇者と無関係だと思ってくれたみたい。
まさかイリーナが役立つとはな。何とかとハサミは使い用ってことだろうか?
釈放された俺は、粛々と街を歩いて宿屋まで行く。首を長くして待っていたシアさんと合流し、これまでの経緯を事細かに話して聞かせた。
シアさんが手を叩く。
「やったね!クロード。これで堂々と街を歩けるよ!」
「ああ、だがダンジョンには行けない。長老達はエルフだけで攻略するつもりみたいだ」
動ける様にはなったが、振り出しに戻っただけだ。
どうにかせねば…。
「じゃあさ、さっきの冒険者さん達に頼むのはどうかな?他の人達より、お話聞いてくれたし」
「ふむ…そうだな」
シアさんの言う通りだ。彼らが今のところ、1番可能性がある。
「行くか」
「うん!行こう、行こう!」
善は急げと言うことで、俺はコートを羽織ってフードを被る。そして、先程の店に赴く。すると、丁度出口で彼らとばったり鉢合わせした。
リーダーっぽい人が「おう」と手を挙げて挨拶してくれる。
「なんだお前ら、また来たのか?腕の包帯も、もう良いのか?」
「はい。回復薬で完治させました」
俺は頷き、亜空間から高級回復薬の瓶を何本も取り出す。
すると、彼らは目を開いた。
「驚いた…お前、アイテムボックス持ちなのか」
「はい。それなりの容量が持てます」
俺がそう言うと、彼らは顔を顰め、見合わせた。
ああ、分かっているよ。アイテムボックスなんて希少な物を見せびらかして、危機感が無さすぎるって思っているんだろ?
リスクは承知の上だ。こうしないと、話にならないから。
俺はフードを少しズラし、顔と耳を見せる。すると、冒険者達は目を少し大きくして驚いた。
「黒髪…勇者か?」
「いえ。勇者ではありません。ですが人間です」
俺はフードを被り直し、深々と頭を下げる。
「お願いします。貴方達と一緒に、ダンジョンへ潜らせて下さい。荷物持ちでも雑用でも、何でもしますので」
「ああ…そう言う事か」
リーダーが納得する。
そうだよ。だから貴方達に、異能を見せたんだ。
「どうするよ、カリーダ。黒髪は縁起が悪いぜ?」
「だけど、アイテムボックス持ちだぞ?ダンジョンで欲しいスキルの筆頭じゃねぇか」
お仲間さんの中でも意見が割れる。
それを、リーダー…カリーダさんが吟味する。腕を組み、タレ目を閉じて「うーん」と唸った。
そして、長い銀髪をボリボリ掻来ながらため息を吐いた。
「正直、気乗りはしねぇ。新しい風を入れりゃ、何かしら起きるからな。不幸か幸福かはわからねぇが、そのリスクは正直、負いたくねぇ。だが、俺達が行き詰まってんのは確かだ。ここ最近、8階層以下に潜れなくなってる。それを打開するのに、新しい風を入れるのは良いチャンスなのかも知れねぇ」
「では…」
俺が期待して聞くと、カリーダさんは大きく頷く。
「ああ。お前らの同行を認める。但し、荷物持ちだがな」
「ありがとうございます!」
カリーダさんはその後、ダンジョン攻略の詳細について話してくれた。
スタートは明後日の昼から。パーティーメンバーは今居る3名の他に、あと2人追加されるらしい。
「本来なら、荷物持ちであと5人は雇うんだがな。今回は、お前ら2人にそれを頼む」
アイテムボックス持ちだからなと、彼はニヒルに笑う。
俺は今借りている宿の名前を教えて、冒険者達と別れた。次に会うのは、出発の日の朝だ。
そう思っていたが、次の日の早朝、彼らの名前で呼び出された。
何かと思って冒険者ギルドに行ってみると、そこには少し興奮気味なカリーダさん達が居た。
なんだろう?冷静なエルフが珍しい。
「おう、来たか」
「おはようございます。何かありましたか?」
「ああ、出発を早める。直ぐに準備しろ」
なに?急にどうした?
聞いてみると、彼はボードに貼られた紙を指さす。そこには、〈緊急クエスト:大森林ダンジョン攻略〉と書かれていた。
緊急?
「ダンジョン攻略の報酬が跳ね上がったんだよ。魔石や討伐報酬の値段も桁違いだし、攻略を成功させりゃ市民権を得られる」
「やるっきゃねぇぜ、カリーダ。誰かに攻略される前によ」
市民権と言う単語に、メンバーは過剰に反応する。
何故だ?
「ああ、お前らには話してなかったな。俺達は…こう言う者でな」
カリーダさんが銀髪を掻き上げると、そこには俺と似た耳が付いていた。
ああ、ハーフエルフか。
「俺達もお前らと同じ、根無し草だ。だから冒険者なんてやってるし、市民権は是が非でも欲しい」
「これでやっと、里に定住出来るんだ」
「行こうぜ、カリーダ。里の戦士団も動き出してるって噂じゃねぇか」
今にも飛び出しそうなメンバーに、カリーダさんは装備を取ってくる様に指示する。
そして俺達を連れて、ギルドの倉庫へと赴いた。
そこには、
「取り敢えず、これが1週間分の食料だ」
木箱が10個程積み上げられていた。
カリーダさんが振り返る。
「どれくらい収容出来る?」
「全部行けます」
俺はコートを脱いで、箱の上に乗せる。そして、瞬時に亜空間送りにすると、カリーダさんは「ヒュ」と短い口笛を吹いた。
「すげぇな。まだ入るのか?」
「ええ。余裕はありますよ」
「マジか。じゃあ水も頼む」
そうして、俺は自分の役割を果たす。ついでに、ついでにと渡された物も全て収納すると、みんなから拍手をされた。
いやぁ、ただ亜空間の中に突っ込んでいるだけなんだけどな。あとで整理しないと、青狸の四次元ポケットみたいになってしまう。
そうしているうちに、メンバーの準備も整って、我々はダンジョンへと出発することとなった。
大森林のダンジョンは、街から少し離れているそうだ。徒歩で3時間と言うから、なかなかなもの。
「つっても、今回はもっと早いだろうぜ。何せ、荷物は全部お前が持ってるからな」
カリーダさん達はニッコニコだ。何時もはリュックを背負っているらしいが、今回は空身だからだそうだ。魔物と戦うのが楽だと喜んでいる。
大荷物を抱えた状態で襲われるとか、地獄だもんな。
テンションが高いまま、俺達は街を出ようとする。でも門の所まで来ると、そこには見た事もない大きな鳥の魔物が整列していた。
えっ!?魔物が入ってきた?
「クロード!魔物だよ!いっぱい居るよ!」
「魔物じゃねぇよ、嬢ちゃん。あれはジドゥ。エルフの戦士だけが許された乗り物だ」
乗り物…確かに、何処かチ〇コボみたいな見た目をしている。森の中だと、馬よりもダチョウみたいな動物の方が動きやすいんだろうな。
黄色じゃなくて黒い鳥だったら、俺も欲しかった。
「全員!整列!」
ジドゥに見とれていると、その奥で声がした。見ると、そこには完全武装のエルフ達が整列しており、前には金髪の女性エルフが声を拳を挙げていた。
「我々はこれより、大森林のダンジョンを攻略する!人族では出来ぬ事でも、我らエルフの力を持ってすれば容易い事を示すのだ!」
「「おぉおお!!」」
「騎鳥!」
「「「はっ!」」」
金髪エルフの号令で、エルフ兵士達は一斉にジドゥへ乗る。そして、次々と門の外へと駆け出した。
凄いな。国の軍隊でダンジョン攻略をするつもりなのか。
でも、ボスって10人しか参戦出来ないんだよね?どうするつもりなんだろう?
「よし。俺達も行くぞ!」
おっと。そうだった。他所は他所だな。
遅ればせながら、俺達も街の門を出るのだった。




