32話〜勇者の仲間だ!〜
「今日にも大森林に到着しますよ、英雄様」
王都を立って数日が経った朝、ちょっと親しくなった騎士がそう教えてくれる。
護衛してくれた彼らの存在は、かなり有難かった。好意的に接してくれて、ここまで何のトラブルもなく連れてきてくれたから。
でも、あまり英雄、英雄と言わないで欲しい。ダンジョンに近付いたと言うことは、イリーナ達も近くに居るってことだろう。あいつらに目を付けられたら厄介だ。
今もあいつらが、諦めずにダンジョン攻略をしているのかは分からないが。
そんな不安を持ちながらも、我々は無事に自治区前の大きな門の前に立った。
森の中の大きな門だ。大樹が何本も連なって、壁のように森を分断している。その隙間に、これまた木の枝が絡まった門が作られていた。
木々を門の形になる様に育てたのか?それとも、そういう魔法か?
「止まれ!」
門を見る為に馬車から顔を出していると、騎士団の先頭で声が上がる。
見ると、武装した険しい顔のエルフが数人、騎士団の方へ駆け寄った。何か話し込んでいるみたいだ。
何だろう?
俺は片耳を亜空間へ飛ばし、先頭の馬車付近で聞き耳を立てる。
少し苛立った騎士の声が聞こえた。
「許可とはどう言う事だ?我々はネルトーク卿の命を受け、ダンジョン攻略者を送迎中である。今すぐここを通せ」
「ならん。族長命令だ。エルフ族以外は、許可が無ければ通すことは出来ない。即刻立ち去れ」
「馬鹿な。そんな話、王都では一切聞いた事ないぞ。責任者を呼べ!」
おっと。なんだか揉めているな。ちょっと様子を見に行くか。
俺は馬車を降り、フードをすっぽり被って先頭へ行く。シアさんも不思議そうな顔で付いてきた。
到着すると、そこには顔を真っ赤にする騎士達と、それを冷たく見下ろすエルフが対立していた。
おうおう。一触即発だな。
「済みません。私は冒険者のクロードと申します。冒険者である私も、入場不可なのでしょうか?」
「許可が無い者は、誰も同じだ」
突き放す様に言う門番に、俺は首を傾げる。
「おかしいですね。冒険者は、特別な理由が無い限り入場を阻まれない筈ですよ?少なくとも、このグランディール王国ではね」
「…族長の許可が必要だと言っているのだ」
「それがおかしいんですよ。国王陛下がお許しになっているのに、何故あなた達がそれを拒むのでしょう?」
外交問題になるぞ?
暗にそう匂わせると、門番は「ぐっ」と詰まって俺達に待つよう言う。そして、すぐに門を開いた。
「許可が降りた。だが、通れるのは冒険者だけだ」
「ありがとうございます」
俺は振り返り、騎士の皆さんに頭を下げる。
「お世話になりました、皆さん。お陰様で、楽しい旅となりました」
「英雄様…ご武運を」
騎士団はビシッとポーズを決めて、去っていく。
同じ教会騎士でも、こうも違うんだな。やっぱイリーナが関わると、悪くなる気がする。
「英雄?」
うん?
門番の誰かが、ポツリと言葉を漏らした。
誰だ?
「早く行こ!クロード」
気になったが、シアさんに腕を引っ張られたので門の中へと入る。
気のせいか、背後に刺さる門番達の目が、強くなっている気がした。
「見て!クロード。エルフがいっぱいだよ!」
門を超えて暫くすると、周囲には多くのお店や建物が増えてきた。
建物と言っても、木々の中をくり抜いて作った家や、木の上に吊るしたツリーハウスばかりだ。王都みたいな石造りの家は殆どない。
これがエルフの国か。森の中なのに快適なのは、何か魔法を使っているからなのかな?
「何か美味しそうな匂いがするね」
シアさんはそう言って、フラフラ〜っと出店の方へ近付く。そして、屋台で何かを焼いている綺麗なお姉さんに声を掛ける。
「その美味しそうなの、1つ下さい!」
「…森カゲロウの串焼きよ。1本銅貨5枚…」
「はいっ!ありがとう!」
「…ええ」
お姉さんは殆どこちらを見ず、粛々と串を渡して来た。
随分とよそよそしいな。俺達が人間だからだろうか?
そう思ったが、どうも違う様だった。
エルフの街を歩いてみたが、非常に静かだった。店先の喧騒も殆ど無いし、笑い声もしない。木の葉の擦れる音が聞こえそうなくらいに静かな街だった。
これがエルフなのか?
「なんか静かだね。みんな、下を向いてるし」
「シャイな一族なのかもね、エルフって」
「そうかな?クリオールの街に住んでたエルフは、みんな明るい人ばかりだったよ?」
そうなの?
という事は、この街の雰囲気かも知れないね。森の中だから、魔物を刺激しないようにとか?
「なぁ、あんたら」
周囲を見回しながら歩いていると、眉間に皺を寄せた男性エルフが話し掛けて来た。
この人も美形だな。やっぱりエルフは、美形しか居ないのかな?
「さっきからエルフがどうのとか言ってるけど、あんたら人族だろ?だったら、早くここから出て行ってくれよ」
男性は、シアさんの耳を見て顔を顰める。
それに、シアさんは目を丸くした。
「えっ!?なんで?あたし達、門番さんに入れて貰ったんだよ?」
「なんでって…そりゃ、また面倒な事が起きて欲しくないからだよ。もう沢山なんだ。お前ら人族のせいで、俺達が苦しむのは」
面倒、か。
俺はシアさんを後ろに下がらせて、男性に向き合う。
「詳しく教えて頂けませんか?人族が、皆さんにどのようなご不便をおかけしているのかを」
「…なんだよ、お前。なんで、フードなんて被っているんだ?」
おっと、失礼。人と話すときは、被り物を外さないとな。
俺はコートを外し、こっそり亜空間の中に仕舞う。そうして、怪しまれないように両手を上げた。
上げたのだが、男性は俺を見ると目を見開き、目には怒りを滲ませた。
そして、
「黒髪だ!黒髪の人族。勇者の仲間だ!」
怒りに満ちた声で叫んだ。
その声は、静かな街中に良く響き、店の陰から武装したエルフが瞬時に駆け寄って来た。そのエルフは、門の所で見たエルフだ。
こいつら、俺を付けてやがったな。
「やはり勇者の一味か」
「怪しいと思っていたのだ」
武装エルフは問答無用で俺を組み伏せ、地面に押し付けた。
そのまま、シアさんの方に厳しい視線を向ける。
「貴様も勇者の仲間か?」
「えっ?あ、あたしは…」
「その子は関係ない!」
シアさんの言葉を遮り、俺は叫ぶ。
「道中で一緒になっただけの冒険者だ!名前も知らない!」
「えっ…」
ショックを受けた顔をするシアさん。このままだと、反論しそうだな。
俺は顔を伏せ、それで出来た陰で口を亜空間に飛ばす。彼女の耳元に出口を作り、囁いた。
「今は静かに、俺に合わせて。最初の串焼きの店前で合流しよう」
「う、うん…」
よし。取り敢えず彼女は大丈夫そう。
問題は、俺の方だ。
「立て。勇者の残党」
俺は後ろ手に縄をかけられ、2人の兵士に両脇を固められる。そのまま、何処かへ連れていかれた。
何処に行くか…まぁ、想像は付くがな。
「入れ」
案の定、俺は鳥籠のような牢屋にぶち込まれる。周りは目の死んだエルフや、人間の老人、こちらを睨みつけて来るアウトローなエルフだ。
随分な扱いだな。
「大人しくしていろ。暴れたら、その檻の付け根を切り落とすぞ?」
付け根…どうやらこの檻は、木の枝が変形した物らしい。付け根を切られたら、下まで真っ逆さま。
牢屋と処刑台を兼ねてるのか。なんと効率的なんでしょ。
「済みません。何時まで入っていたらよろしいのでしょうか?」
聞いてみたが、警備員は「汚らわしい」と言いたげな顔で俺を睨み、無視して行ってしまった。
相当な人間嫌いみたい。他の人に当たるか。
そう思って話しかけてみるが、囚人のエルフ達には無視され、人間の老人には「知らん」と言われてしまった。
老人が睨んでくる。
「お前が、何でぶち込まれたかで変わるだろうが」
あ、そっか。
「勇者と間違われただけなんですけど…」
「そんな掟は知らん。俺はかれこれ、20年はここに居るからな。外がどうなってるか、もう何も分からん」
えっ!?20年も?
そりゃ、知らないよな。だってこの掟、きっと前川達のせいで出来た掟だろうから。あいつらは普通に攻略出来ていたんだろうし、人間嫌いもあいつらが作り出した流れだと思う。
マジであいつら、何をやらかした?
これは、調べる必要があるな。
「うっ…腹が…」
俺は腹を押さえ、腹痛のフリをする。手を上げて、警備員を呼ぶ。
そして、
「済みません…体調が悪いので、毛布を、毛布を一枚いただけないでしょうか?」
「毛布だと?」
「はい。腹が、痛くて。このままだと皆さんにご迷惑を…」
そう言うと、警備員は心底嫌そうな顔をして、その場で魔法を使う。木の枝を練り合わせ、1枚の布にしてしまった。
おお、巧みな魔法捌き。流石はエルフ。
「ほら。汚すなよ」
「ありがとう、ございます」
俺は布を受け取り、頭からすっぽり包まって横になる。
暫くそのままで耐えて、周りの視線が外れたところで亜空間を発動。俺の代わりにダミー人形と入れ替え。俺本体は亜空間へと逃げ込んだ。
そして、最初に立ち寄った串焼き屋の近くに出た。
さて、シアさんは…おっ、居た。
「ごめーん。待った?」
「あっ!」
パタパタパタと、シアさんが駆け寄って来る。彼女が何か言う前に「静かに」とジェスチャーしたので、何とか叫ぶのは回避出来た。
でも、凄い心配そうな顔で睨まれてしまった。
「大丈夫なの?クロード。もう、釈放された?」
「いや、絶賛囚われ中だ」
「ダメじゃん!」
どうどう。シアさん落ち着いて。
「バレないようにはして来たさ。向こうの音も拾っているし」
俺は、亜空間に飛ばしている左耳を指さす。
シアさんは首を振る。
「でも、ダメだよ。早く誤解を解かないと」
「その意見には、俺も同意だ」
色々と事情もありそうだったからね。その蟠りを解決しないと、ダンジョンにすら入れない。
と言う事で、俺達は聞き込みをする事にする。人間とバレると不味いので、包帯で顔と腕をグルグル巻きにした。
これで、負傷兵みたいに見えるだろう。耳だけでなく、平凡な顔も隠せるし。
「あたしはしなくて良いの?」
「良いよ。君は美人さんだからね」
「そ、そうかな?」
シアさんなら、耳さえ出さなきゃバレないだろう。あとは、さっきの男に鉢合わせないよう、遠くの酒場に行こう。
俺達は移動し、一軒の酒場に入る。
外から見て繁盛している様に見えて入ったけど…静かだな。確かにアルコールを飲んでいるのに、まるでオシャレなカフェみたいだ。
美男美女ばかりだし。
俺は何組かの客に話し掛ける。でも、みんな見知らぬ者には冷たく、ただ手をかざして拒否されてしまった。
エルフって、内向的なんだな。
「くははは」
おっと。そうでもない人達も居る。態度がエルフっぽくない人も居るし、あそこにアタックしてみるか。
「こんにちは。ちょっと教えて頂けませんか?」
「なんだ?お前は。衛兵か?」
「いえ、冒険者でして。ダンジョン攻略中に負傷して、戻ってきたら街の様子が変わっていたので」
「そうか、冒険者か。俺達もだ。まぁ、座れよ」
「ありがとうございます。1杯ご馳走させて下さい」
「おっ、悪いな」
最初は俺を警戒していた彼らだったが、お酒を頼むと表情が緩む。そして口も緩んだ。
俺が知りたかった情報を、ポロポロ落としてくれた。
「勇者が来たのは知ってるか?黒髪の、まだ成人もしてなさそうな子供だ」
「勇者と言う単語はちょくちょく。そいつらが何かしたんです?」
「何かってレベルじゃない。奴ら、とんでもない事をしでかした犯罪者だ」
男性は、怒りで口調を荒らげながらも教えてくれる。
前川達は到着して早々、エルフの街で騒ぎ散らしたそうだ。初めて見るエルフに対して、耳が長いとか美人ばかりだと大声ではしゃぎ、バカ笑いした。
それだけでも、彼らは侮辱を受けたと思ったらしい。奴らの悪ふざけも、他人からしたら嘲笑や罵倒に囚われた。
「店でも騒ぐし、汚すし、ツケにしようとするしでな。人族ってのは、こんなにもマナーが悪いのかと舌を巻いたぞ」
「しかも、それだけやってダンジョンからは逃げ帰る」
「挙句、聖獣様を失いやがった」
うん?聖獣様?
気になったワードを聞くと、こう言う事らしい。
エルフの里には、エルフと友好的に接する精霊が居るらしい。その中でも強力な個体を聖獣様と呼び、敬っていたそうだ。そして、その精霊はかなり強く、前川達は彼らの同行を強く望んだらしい。
勝てないのは仲間が弱いからだ!と前川が駄々を捏ねて、それをイリーナが甘やかしたってところだろうな。
だが、
「5階のボスに挑んだ時、奴らは怖気付いて逃げ出したんだよ。聖獣様を置き去りにしてな」
「お陰で、他の精霊もみんな怒っちまった。俺達が今、風の精霊魔法を使えないのはそのせい」
「思い出すだけで腹が立つ。あいつらに責任者を取らせて、外に溢れる魔物どもを狩らせりゃ良いんだよ」
なるほど。そりゃ、俺を捕まえる訳だ。
元クラスメイトの蛮行に、俺は顔から火が出そうな程に恥ずかしかった。
と、そこに、新たな情報が。
「それでも奴ら、懲りてないらしいぞ?ついさっきもイリーナ様がやって来てた。きっと今頃、勇者をダンジョンに入れろって、長老達に懇願してるんじゃないか?」
なに?
それは…是非とも、見に行かないとな。




