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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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30/38

30話〜すぐに終わらせます〜

「明るい…広〜い…影がな〜い…」


 3階層に降りてすぐ、クロードは立ち止まってか細い声を漏らす。さっきまで真っ直ぐだった背中も、少しだけ不安げに丸まっていた。

 明るいもんね、ここ。クロードの魔法は暗くないと力を発揮出来ないから、不安なんだよね?

 よし。まっかせて!


「クロード、あのポンポン貸して。もしもの時は投げるから」

「うん?ああ…助かるよ」


 クロードは少しだけ表情を緩め、沢山のポンポンボールを渡してくる。

 そんなに持てないんだけど…それだけ不安って事だよね?

 あたしは腰袋に入るだけ受け取り、彼から黒マントも受け継ぐ。これで完璧。イザって時は、彼が守ってくれる。

 …どうやっているのかは、まだよく分かってないんだけどさ。


「2人は俺の後に付いて来てくれ。なるべく俺と同じ足跡を辿るようにな」


 緊張気味に指示を出すクロード。それに、マルガレーテちゃんが「あの…」と遠慮気味に手を挙げる。


「オープン型のダンジョンでしたら、罠はありませんわよ?」

「なぬ。そうなのか」


 へぇー。あたしも知らなかった。1回授業に出ただけじゃ、まだまだ知らない事がいっぱいなんだなぁ。


 罠が無いと分かったクロードは、少しだけ歩幅を広げて進む。時々立ち止まって片目を瞑るけど、これは周りの様子を見ている時にやる奴だ。上の階層でもやってたけど、今はあれより時間が掛かっている。

 きっと周りに影が少ないから、確認に時間が掛かっているんだ。鳥も飛んで無いし、上から見えなくて苦労しているみたい。

 何か、役に立つのは無いかな?


 あたしも一緒になって、周囲を見回す。すると、空に何か浮いているのが見えた。目を凝らすと、それが翼をはためかせているのが見えた。

 鳥かな?あれは使えそう!


「クロード!鳥みたいのが上に居るよ!」

「上?何処だ?」


 クロードも見上げるけど、見えないみたい。

 不思議だよね。壁の向こうも見えちゃうクロードだけど、こう言う時はあたしの方が先に発見するんだもん。

 明るいと目が見えなくなるの?フクロウかな?

 

 あたしは「そこ、そこ」と指をさし、クロードに場所を教えようとする。

 その時、マルガレーテちゃんが硬い声を出す。


「ダンジョンに鳥なんて居ませんわ。居るのは、魔物だけ」


 えっ?


「じゃあ、あれ…」


 あたしが驚くと同時、


【キャキャキャ!】


 甲高い笑い声が響き、そいつが急降下してきた。

 それは、ゴブリンが羽を生やした様な姿をしていた。コウモリの羽。


「インプか!」


 クロードは素早くあたし達の前に出て、片手を空に構える。次の瞬間、その手のひらから槍が飛び出し、インプの胴体を突き刺した。

 やった!


「まだ来ますわ!」


 マルガレーテちゃんに言われて、反対側の空を見る。すると、そこには沢山のインプが羽ばたいているのが見えた。あまりに多くて、空が黒く見える程だ。

 マルガレーテちゃんが悲鳴を上げる。


「早く森の中へ!」

「いや、間に合わない!」


 クロードがそちらに構える。そして、あたしに手を差し出す。


「シアさん!俺に向かって射れ!撃ちまくれ!」

「えっ」


 一瞬、あたしは考えそうになった。どう言うことだろうって。

 でも、すぐに考えるのをやめた。あたしが考えたって、何も分からない。クロードが言うんだもん。そっちが正解だよ。


「分かった!いっくよー!」


 あたしはクロードの背中に向かって、いっぱい矢を射る。矢はクロードの背中に刺さらず、何処かに消えてしまった。

 そうしている間にも、インプ達がこちらに迫る。甲高い声であたし達を笑い、一斉に降下してきた。その鋭い爪を向けて、あたし達を狙う。

 その直前、クロードが両手をインプに向けた。

 そこから、沢山の矢が飛び出す。


「ショットガン・アロー!」


 矢は広がる様に飛んでいき、迫っていたインプに次々と刺さって行く。

 頭に、翼に、胴体に。

 矢を受けたインプは、為す術もなく落ちてくる。地面に叩きつけられると同時に、魔石と翼を残して消えていった。


【キキィー!】


 生き残ったインプが、慌てた様子で逃げて行く。

 ふぅ。何とか助かったみたい。


「助かったよ、シアさん。ナイスショット」

「えへへ。そうかな?」


 クロードに褒められると、なんか嬉しい。あたしでも彼の役に立てるんだって、安心する。

 でもさ、あたしが輝けるのは、クロードのお陰なんだよ?君があたしを引っ張ってくれたから、ダンジョンでも怖くないんだ。

 中途半端な魔法しか出来ないあたしでも、君は大丈夫なんだって教えてくれた。この魔法が、役立つって言ってくれた。

 だから、あたし…。


「もっと頑張るから。だから、どんどん進もう!」

「ああ、そうだな」


 怖くても、難しくても、君について行くから。

 もう、何も出来ないあたしに戻りたくないもん。


 〈◆〉


「いっくよー!えいっ!とりゃ!」

「いいぞぉ!シアさん」

「えへへ」


 3階層の魔物を、尽く返り討ちにする2人。その姿を、私はただ呆然と見ていた。

 いえ、サボっている訳ではありませんわ。私だって覚悟を決めたんだから、2人の役に立ちたい。でも出来ない。ここの魔物は、尽く空を飛んでいるから。


「また来たよ!今度はクラゲ!」

「スターゲイザーだ。ええっと…触手から雷魔法を落とす為、真下に入らない様に注意しましょう…だそうだ!」

「分かったー!」


 クロードさんは魔物の知識も豊富で、私が何か言う前に的確な指示を飛ばしていた。

 何かを読んでいるみたいな言い方は気になりますが…シアさんは気にする素振りも見せず、素直にそれに従っている。


「えいっ!それっ!」

「良し!そのまま、前面は頼む。側面は俺が受け持とう」


 あれだけの数が浮遊していたのに、見る見る内に消えてしまうクラゲ達。私が手を出す間もなく、戦闘が終わってしまった。

 とてもスムーズな攻略。だと言うのに、2人に慢心する様子もない。特に、クロードさんは緊張した面持ちで、周囲の警戒に当たっていた。

 

「良いか?2人とも。戦闘を終えた今が一番危険だ。集中力が途切れやすく、奇襲を受けやすい。疲れたら早めに申告してくれ」


 確かにそうなんですけど…不思議ね。普通なら、暗くて罠もある2階層の方が緊張するのに、彼はこの階層の方が慎重だ。

 魔物の危険度が高いから?それとも…やっぱり、彼の能力に関係しているの?


「あっ、また何か来たよー!」

「よし。良いぞ、シアさん。俺の後ろに下がって」


 そして、これも不思議な事の1つ。クロードさんは過剰な程、シアさんを大切にしている。まるで恋人…いえ、子供や孫のように、身を挺して守ろうとしている。

 もしかしてご兄妹?ですが、髪色も違うし顔も似ていない。そもそもクロード様の髪色は、ここら辺では珍しい黒。まるで、先日いらした勇者様達みたいに…。


「あっ!あっちに階段発見!」

「えぇっ!」


 うそっ!?

 もう?


「ふぅ、やっとか。長かった」

「長くない!長くないですわ!」


 私はつい、感情のままクロードさんに反論してしまった。

 でも…仕方ありませんわ。何せ、兄達ですら攻略するのに1年を要した3階層を、初見でクリアしてしまったんですもの。飛行型魔物という厄介なのを相手に、無傷どころか近付けることすら許さないなんて…。

 この人達、異常過ぎますわ…。


「この下がボス?」


 シアさんが階段を覗き込み、今にも降りそうな姿勢を見せる。

 私は慌てて、彼女の腕を掴んだ。


「お待ちなさい!この下は、卒業生でも殆どの人がクリア出来なかったボスが居ます。十分に準備をしなければ、怪我だけでは済みませんわ!」


 実際に、ボスへ挑んで大怪我を負う生徒ばかりだ。中には、すぐ逃げ帰って、二度とダンジョンへ入れなくなる生徒もいるくらい。

 試験だから、中に何が居るかは分からない。けれど、先輩方をそうさせるだけの脅威が待ち構えている筈だ。


「ここまで来るだけで十分過ぎます。学科の単位が10個も貰えるんですから」

「だが、俺達の目標は卒業じゃない。大森林だ」


 クロードさんは私の横を通り過ぎ、階段へ足を踏み出す。


「行こう。休憩と準備は、扉前の方が取りやすい」

「分かったー!」


 2人はスタスタと階段を降りてしまう。

 ああ、もうっ。

 渋々彼らについて行くと、目の前には大きな赤い扉が立ち塞がった。最終ボス前の扉。話に聞いていたより、何倍も禍々しい。

 

 私達はそこで、暫しの休憩を取る。

 私はずっと気が張っていたから、倒れるみたいに階段へ座り込んでしまった。だと言うのに、2人は弓の練習を初めてしまう。何度も暗闇に向かって矢を射って、休憩する素振りも見せない。

 疲れていませんの?あれだけの魔物を倒したのに。


「よし。そろそろ行こうか」


 結局、休憩は軽い食事だけで終わらせて、2人は扉の前に立つ。私もそれに従うと、扉が勝手に開いた。

 クロードさんが私を振り返る。


「この状態なら、入って良いんですよね?」

「ええ。10人までなら入れますわ」


 10人入ると、扉は自動的に閉まる。そうなったら、外からは開かない。中の人が攻略を諦めるか、魔王を倒すまでは。


 私達が中に入って暫くすると、扉は勝手に閉まる。目の前には、1,2階層と似た薄暗い洞窟が広がる。端が何処まで続いているか分からないくらい広い空間内の先に、金色の光が見えた。

 そちらへと行くと、それは巨大な魔石だと分かる。

 小高い岡の上で、宙に浮いたひし形の魔石。それが、ダンジョンの中を淡く照らしていた。

 これが…。


「ダンジョンコアですわ」

「ほぉ、これが」

「キレイだねぇ〜」


 呑気に呟くシアさん。でも、その通りですわ。不思議と、見ているだけで吸い込まれそうな魅力がある。

 そうして、宝石の様なそれに目を奪われていると、その宝石の前に小さな影が生まれる。子供の様な体型に長い耳。そして、こちらを見る黄色い目。

 ゴブリンですわ。


【ギョグギガ。ギンゲン】


 ゴブリンが笑う。

 岡の上で座り、私達を見下ろす。そして、頭に帽子を乗せた。

 …違うわ、帽子じゃない。あれは…。


「王冠みたいだね?」

「ああ、その様だな」


 王冠を被るゴブリン。

 ゴブリンロード。


【ジョグン!グガゲノジガンダ!ジバヅリニジド!!】

【【【ギャハハハハ!!】】】


 突然、幾つもの笑い声が生まれる。

 右から左から、前から奥から、幾つも幾つも影が生まれ、目の前の空間を埋めていく。

 あっという間に、ゴブリンの大群が目の前でひしめいた。

 なんて…数…。


「退きましょう、クロードさん!一旦退いて、体勢を立て直すんです。囲まれたらお終いですわ!」


 向こうの数は優に100を超える。しかも、広範囲に広がっていた。魔法で倒すにしても、上級の更に上、極級魔法でないと対処出来ない。

 扉前に陣取って、少しずつ減らすしかない。

 そう思って彼に手を伸ばしたのに、


「いえ、すぐに終わらせます」


 彼はそう言って、軽く手を上げた。

 そのまま、天井へと手を伸ばす。すると、そこに生えていたヒカリゴケが暗闇の中へと消えた。天井に、大きな穴が出現した。

 真っ暗な、奈落の底の様な大穴。

 そこから、


「降り注げ。アロー・レイン」


 矢が降ってきた。

 何本も、何十本も、何百本も。

 まるで主戦場の最前線のような矢の大雨が、ゴブリン軍団の頭上へと降り注いだ。


【【【ギィヤァァア!】】】


 笑い声が、悲鳴に塗り替えられる。あれだけいたゴブリン達は、たった数秒の間に消え去ってしまった。

 残ったのは、大量の魔石。それと、


【グギギ…ギンゲンガァ…】


 そこに取り残された、孤独なロードだけ。

 その王に向かって、クロードさんが右手を真っ直ぐに向ける。

 静かに、宣言する。


「チェックメイト」


 直後、その手から槍が飛び出し、ロードの眉間を撃ち抜く。

 ロードが、ガクッと倒れた。

  

 えっ…。

 ええっ!?

 お、終わったん…ですの?


「さて、このコアを触れば良いんでしたっけ?マルガレーテさん」

「いえいえいえ!ちょっとお待ちになって!」


 お願いだから、ちょっと整理する時間を下さいまし!

 あまりの非常識に、私は悲鳴を上げた。

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― 新着の感想 ―
オープン型ダンジョンの罠の不在… 難度が低く研究もしやすい学園ダンジョンのみの事例や、既知の低階層 ダンジョンにおける経験則のみを当て嵌めているようだと危ういが…ダンジョン構造学の「深み」次第かな? …
神聖タイプのボス、神々しいボス部屋なら苦戦もしましょうが、 薄暗い部屋で、数でゴリ押しタイプなら余裕っすね。吸い込むも良し、蜂の巣も良しでさぁ。 給弾要員のシアちゃん、マジ天使w
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