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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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3/41

3話〜貰うぞ〜

『よぉ。目が覚めたか?』


 そんな声が聞こえて、俺は目を開ける。

 開けたと思う。でもそこは、真っ暗闇だった。夜とか、そう言うレベルじゃない。何も見えない真っ暗闇。

 でも不思議と、自分の手はハッキリ見える。起き上がると足も見えるし、その先でこちらを見る黒子服の男も見えた。

 水晶の中に居た男だ。


『おはよう、黒井君。気分はどうかな?』

誰だ?お前。


 そう言ったつもりだった。でも、声が出ない。

 なっ、何が起きてる?


 俺は怖くなり、自分の首を押さえる。すると男は『ははっ』と声を上げて笑った。

 …笑ったと思う。何せ、顔に黒いベールを被っているから表情が見えない。

 見えなくても、何故か分かる。

 何故だ?


『声が出なくて当然さ。ここは、君の夢の中だからね』


 言われて思い出す、あの時の光景を。あの時の声を。何者にも成れず、何も得ず。ただただ無能と蔑む、みんなの嘲笑が。

 ああ、そうか。俺はまた…失った。


『確かに、君にスキルは無かった。勇者足り得る資格もな。だが力はある』


 男の声。甘い響き。

 それに、俺は自然と顔を上げていた。

 見えない筈の男の笑みが、俺の心を鷲掴みにする。


『思い出せ、心の傷を。思い描け、嘗(かつ)ての己を』

 

 思い、出す?

 俺は暗闇の中に、記憶を投影する。

 真っ先に浮かぶ傷は、教室での事。便器に頭をぶつけて入院した時の事だった。

 次は、中学で志望校に落ちた場面。小学校の林間学校。小さい頃、親父に殴られたあの日。

 

 でも、もっと前にも記憶がある。仲間を食い殺され、左腕を斬り飛ばされた記憶。救った住人から石を投げられた場面。犬畜生と罵られ、黒騎士と絶賛された日々。

 そして、あの子を救えなかった過去。手を伸ばしても、その子は二度と目を開けなかった。

 ああ…そうだ。これは、俺の記憶。全部、全部俺のもの。

 俺は…。俺の、名前は…。


『それがお前の”力”だ』


 気付けば、俺の前に大きな穴が開いていた。

 ぽっかりと空いた、俺の心のような穴だ。

 何もない。故に、何でも呑み込む。

 この世の全て。無限の可能性。

 無限の、力。


『おめでとう。これで君は、誰にも”負けない”。あの勇者の小僧にもね』

勇者…前川の事か。

『ああ、そうだ。ワクワクするだろ?』


 問われ、胸に手を当てる。

 でも、何も起きない。まるで無風の水面のように、心境は酷く静かだった。あれだけ望んだ力なのに。前川に仕返しが出来るチャンスなのに。

 

 ああ、そうか。

 俺は理解する。

 もう、そう言う次元じゃない。

 前川に構っている時間の方が、勿体ないんだ。


『くっふっふ。言うじゃないか、黒井君。君の持つ力の前では、もう勇者など敵にもならない』

いや、そこまで言うつもりはないけど。

『本当の事だ。その異能の力…亜空間は全てを呑み込む。恐らく、君がこの世界で得る筈だったスキルも適正も、全てそいつが呑み込んでしまった。そう考えるのが妥当だろう』

ああ、なるほどね。きっとそれだ。


 俺は大きく頷く。

 もしかして便器に頭をぶつけたのも、こいつで運気を吸い取られたから?

 考えながらも、俺は亜空間を開いたり閉じたりする。自由に使える異能に、しかし、俺は何処か安心感を感じていた。

 なんか、実家に帰って来た感じがする。 


 そんな事を考えていると、周囲の闇がグワンと大きく揺らめいた気がした。

 いや、実際に揺れている。世界が大きく歪みだしていた。

 ああ…。


『どうやら、目覚めの時みたいだな』

そうみたいだな。もうちょっとここで、練習したかったんだが。

『なに、向こうでも出来るさ。君には、多くの時間が残されている』


 そう言って、男は手を差し出して来た。

 俺がそれに応じると、彼は笑った。

 優しく、温かく。


『済まんが、ここからは俺も手伝えない。君の成功を、ここから願わせてもらうよ』

充分だ。俺に、俺を思い出させてくれた。それだけで。

『これくらいお安い御用だ。大変だろうが、体に気を付けろよ?』

ああ、ありがとう。行ってくるよ、俺。

『おう。頑張れよ、俺』


 そう言って男が…嘗ての俺が、闇に消える。そして、周囲が明るくなり始めた。

 やがて、闇が明けた。


 〈◆〉


 目が覚めるとそこは、従業員用の小部屋みたいな場所だった。

 俺はそこの2段ベッドで寝かされていて、目の前は汚い板で塞がっていた。

 

 身体中が痛いな。倒れてそのまま運ばれたのか?指の傷も治って無いし、回復魔法も掛けて貰えなかったみたいだ。

 おいおい。無能は魔法を使う価値も無いって事か?随分と見切りが早いな。


 俺は頭を当てない様に這い出て、体を調べる。特におかしな所はないけど…スマホを取られいた。

 別に、異世界じゃ無用のハイテク機械だから、どうでも良いけど。

 

 俺は外に出ようとして、部屋のドアに手を掛ける。でも、鍵が掛かっていた。鍵穴はこっちに無い。

 ふむ。閉じ込められたか。俺が出歩くと、何か不味い事でもあるのか?

 まぁ、この程度の障害は、無いに等しいけど。


 俺は早速、亜空間を開く。人1人分の裂け目を開き、その中に入る。

 ふむ。中に誰も居ませんよ…じゃなくて、中身は空っぽか。戦車の1台でも残っていれば無双出来たのに、ちょっと残念だ。

 仕方ない。それもボチボチ、補充しますか。


 夢と同じ真っ暗な空間で、俺は適当な場所に小さな隙間を作る。そこから、片目だけ覗く。

 ふむ。ここは厨房か。テーブルにある料理は俺達が食い残した残飯だな。まだ食えそうだけど…頂くか。

 俺は周囲を確認し、亜空間を開いて厨房に入る。食べ残しに加え、立て掛けてあったワインを数本頂く。

 綺麗な水を確保するまでは、こいつをストックしておこう。出来れば未成年だから、飲みたくは無いんだがね。


「だっ、誰だ!」


 他にも何か無いかと物色していると、向こうの方で声がした。顔は見えないが、明かりと包丁を持つ1人の男。

 スタッフさんが来てしまったか。なら、移動しよう。


「盗人め。これでも喰らえ!」


 随分と血の気の多いスタッフみたいで、俺に向けて包丁を投げつけて来た。

 包丁か。武器としてはイマイチだが…。


「貰うぞ」


 俺は目の前に亜空間を開き、飛んできた包丁をその中にしまう。そして、その空間を更に割いて中に入った。


「あ、あれ?どこ行った?包丁も…無いぞ?」


 残されたスタッフが、キョロキョロと周囲を探している。

 悪いな。だが、俺を閉じ込めたのはそっちだ。相応の対価は頂いて行くぞ。


 俺は再び亜空間に戻り、施設内を探索する。

 残飯で分かっていたが、やはりここは教会みたいだ。俺達が召喚された大聖堂も、食堂もあった。

 でも、生徒達が居ない。まさか、もう戦闘に駆り出されていたりしないよな?


 俺は心配になり、亜空間を開けたり閉じたりして探し回る。

 そして、見つけた。教会の裏庭だ。


「ではこれより、魔法の実技に移る。よく見ておく様に」


 そこでは、神父らしき人が先生となり、生徒達に魔法の実践授業をしていた。

 彼女達は随分と楽しそうに授業を受けており、特に酷い扱いを受けている様子は無かった。

 

 …お気楽過ぎないか?こいつら。遠足にでも来たつもりなのか。

 まぁ、こいつらの事は良い。それより教会の奴らだ。こいつらが子供を異世界へと拉致って、魔物と戦わせようとしている事実は変わらない。

 何故、こんなことをするのか。この世界、そこまで切羽詰まった状況なのか?あのイリーナとか言う女性を張っていれば、何か分かるんじゃないだろうか?


 子供らの安全を確認した俺は、教会の真意を確かめるべく最高指導者を探した。

 そして、ものの5分程度で見つけた。

 随分と豪華な部屋で、彼女はふんぞり返って座っていた。その前には枢機卿が立たされ、汗をかいていた。


「勇者様達はつつがなく、訓練を開始致しました。異世界から呼んだからか、魔法にも大変ご興味がおありのご様子で…」

「そんな事はどうでも良いのです。早く実践に移りなさい。もうすぐ大森林のダンジョンは飽和状態になります。バザル鉱山のダンジョンも、いつスタンピードが起こるか分からない状況。一刻も早くダンジョンを攻略し、正常化させるのです」


 ふむ。大森林にバザル鉱山ね。そこにダンジョンがあると。

 それで、そこで異常が起きていると。その異常がバグによるものであり、女神様とやらが俺達を呼んだ理由なのかもしれんな。

 であれば、俺の当面の目標は、そのダンジョンの攻略だな。

  

 …でも、魔法のある世界なんだから、冒険者を雇ってダンジョンクリアさせれば良いと思うんだが…そんなに異世界勇者って強いのか?


「良いですか?大事にしなければいけないのは、魔力適正Sランクの勇者や聖女のみ。Sランク未満の奴らは使い潰して構いません。すぐにも実践授業に移り、経験を積ませなさい」

「わっ、分かりました。急ぎ、手配致します」


 おいおい。やっぱりこいつら、とんでもない犯罪者集団だな。

 俺が敵認定していると、強烈な殺気を感じた。

 飛ばしたのはイリーナ。奴の魔力が膨れ上がり、鋭い目がこちらを向く。

 やっば。


「そこっ!」


 光線が飛んできたので、俺は一旦亜空間を閉じる。そして、別の影から亜空間を開くと、先程まで開いていた場所が真っ黒焦げになっていた。

 ふむ。ただ権力に溺れたお嬢ちゃんではなかったか。


「いっ、イリーナ様。どうされました?」

「視線を感じました。ちゃんと結界は張っているのでしょうね?ギヨーム」

「勿論でございます。防音と遮断魔法の3重魔法。如何に王宮魔道士であっても、これを突破するのは不可能でございます」


 おっ。なら、俺の亜空間は王宮魔道士以上の能力なんだな。

 まぁ、空間を操っているから、幾ら強力な魔法も無意味って事だろうけど。

 とは言え、もう見るのは止めとこ。耳だけお邪魔してと。


「そうですか。ですが気をつけなさい。異世界勇者の中には、稀に我々の知らぬ力を持つ個体が居ると聞きます」

「それは…あの適正Eの少年もでしょうか?」


 うん?俺の事か?


「可能性はあります。低くともBの適正はある異世界人の中で、あれだけ平民レベルとは考え辛い。引き続き、監視の目を光らせるのです」

「はっ!」


 ははぁ〜ん。それで俺だけ、別隔離だったのね。

 これで亜空間能力の事を教えれば、俺は他の人と同じくらいの待遇を得られるだろう。

 でも…。


「お前らに使わせる亜空間はねぇ!」


 亜空間の中で、俺は固く腕を組んだ。

本日はここまで。


「明日は何時に投稿するのだ?」


明日からは18時に1話投稿します。


「いつ、ざまぁが来るのだ?」


それは、読んでからのお楽しみという事で。

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