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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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27/42

27話〜マントを売ってはくれないか?〜

「あの子達、すっごい驚いてたね」


 冒険者ギルドを出ると、シアさんが堪らずに吹き出す。

 あの子とは、絡んできた学生達の事だろう。イチャモンを付けられて相当怒っていたシアさんだから、彼らの情けない姿に溜飲を下げた様子だ。

 まぁ俺も、粘着されないのは助かる。

 

 シアさんが覗き込んでくる。


「次はどうするの?」

「うん。まぁ、色々と行きたい所はあるけれど…取り敢えず今日は休もう」

「さんせー!」


 シアさんも疲れていたみたいだ。

 俺はそれなりに大きなホテルに入って、部屋を2つ頼んだ。シアさんは「えぇっ!?2つも?」と驚いていたけど…そりゃそうだろ。年頃の男女が同じ屋根の下は、色々と不味い。


 幸い、ホテルもすんなり取る事が出来て、その夜は安眠する事が出来た。

 

 そして翌朝、俺達は頼んでもいないホテルのルームサービスに叩き起される。

 なんだ?なんだ?朝食の時間か?


「失礼します。冒険者クロード様。ネルトーク家から使いの方がいらしております。至急、玄関までお越し下さい」


 アメトーク?ホトちゃんが来てるの?

 瞑想していた俺は、思考まで迷走してしまった。でもすぐに、それがマルガレーテさんの家名だと気付いてロビーに向かう。

 そこには、既に来ていたシアさんと、執事服を着た男性が立っていた。

 彼は俺を見ると、深々とお辞儀をした。


「クロード様でございますね?お迎えに上がりました。さぁ、どうぞ。こちらへ」

「迎えですか。マルガレーテ様がお呼びとの認識で、相違ありませんか?」


 俺は慎重になって聞く。誰かに嵌められている可能性もあるから。

 例えば、昨日のお坊ちゃん達とかね。

 俺の懸念に、男性は少し驚いた顔をした後に、大きく頷いた。


「はい。マルガレーテお嬢様と、ご当主のマリノス様が貴方様をお呼びです。お嬢様を救って頂いたお礼をなさりたいとの事で」


 うん。要件も合ってる。

 

「承知致しました」


 彼に促されるままに、俺達は外に停めてあった馬車に乗り込む。

 うん。あのお母さんが乗っていた馬車と同じ家紋が入っている。亜空間で馭者と執事の会話を盗み聞きしたけど、特に怪しい会話じゃないし。

 大丈夫そうだな。


「到着致しました」


 それから少しして、馬車は停まる。降りると、目の前には大豪邸がそびえ立っていた。

 まるでベルマン商会のデパートみたいな大きさだ。

 ネルトーク家って、かなり力のある家なのでは?


「おっきいね、クロード。教会より大きいんじゃないかな?」


 教会って、街の支部のことかな?


「そうだね。教会と似た感じもするね」


 家紋に十字架が入っていたし、廊下に飾られている絵画も似ている。

 敬虔な女神教徒なのかな?ネルトーク家は。

 そこは、気を付けないとな。


「こちらで、先ずはお召し物をお着替え下さい」


 最初に通されたのは、衣装部屋。そこで、俺とシアさんは身支度を整えられる。

 服装だけでなく、髪や全身までだ。水と風の魔法で洗われて、絹で出来た高級な服を着せられた。

 なんでもかんでもやって貰っちゃって、なんだか殿様にでもなった気分だ。


「うわぁ!クロードが貴族様みたいになってるー!」


 暫く廊下で待っていたら、別室で着替えていたシアさんが出て来た。そして、開口一番で俺の服装を褒めて…褒めてくれていると思う。

 それに、俺は首を振る。


「君の方こそ、何処かのお嬢様みたいだよ」


 髪を整え、淡いピンクのドレスに着替えたシアさんは、貴族のご令嬢と言っても過言ではない変身っぷりを遂げていた。彼女の赤い髪色に、ドレスの色がとてもマッチしている。

 素材が良いんだろうな。それに比べて俺は、精々執事見習い程度だろう。

 

「そ、そうかな?こんな感じ?」


 褒められたシアさんは、まんざらでもない顔でクルリと回る。

 いいね。そのまま舞踏会にでも出られそうだ。


「ようこそ、お2人とも」


 廊下でファッションショーをしていたら、向こうの方からマルガレーテさんがやって来た。彼女は優雅に一礼して、「こちらです」と俺達を次の会場へと導いた。

 随分と態度が落ち着いている。昨日の慌てていた人と同一人物とは思えない。

 一晩寝て、気持ちが落ち着いたのだろうか?

 

 彼女の背に付き従って廊下を進んでいると、前を向きながらマルガレーテさんが話しかけて来た。


「昨日、お父様にクロードさんの事をお話いたしましたところ、改めてお礼がしたいとおっしゃっていただきました。そこで本日は、こうしてお2人を本館にお招きさせて頂いたのです」


 やっぱり、そう言う事だよな。

 面倒ごとは勘弁だぞ?


「マルガレーテ様。そのお言葉だけで、身に余る光栄でございます。これ以上を望めば、女神様がお許しにならないでしょう」


 だからこれ以上、与えようとしないでくれよ?

 

「とんでもありませんわ、クロードさん。貴方の働きに報いねば、それこそアルテシア様から天罰を受けてしまいます」


 マルガレーテさんは動じない。俺達を連れて、突き当りの扉を堂々と開いた。

 

「お父様。お2人をお連れしました」

「おぉ!漸く来たか!さぁ、早くこちらへ」


 長机に座っていた男性が立ち上がり、俺達を手招きする。細身ながらも体幹がしっかりした男性で、髪色はマルガレーテさんと違って、茶色っぽい金髪だった。

 マルガレーテさんは、母親似なのかな?

 

「君が冒険者のクロードであーるな?良くぞ妻と娘を救ってくれた!ファンタスティコ!」


 お父上は俺の手を取り、ブンブンと上下に振る。

 俺は驚いてしまい「え、ええ…」と曖昧な反応しか出来なかった。

 かなり力のある貴族な筈なのに、全く偉そうにしていない。普通なら「平民め、頭が高い!」とか言いそうなものなのに。


「申し遅れた。私は、マリノス・フォン・ネルトーク伯爵であーる。我が家は代々、女神様を守る聖騎士を排出している家なのだ。ボロックの討伐にも、何度か手を貸していた。だが、奴らはそれを恨んでいたのであろう。まさか妻や娘を狙うとは…」


 なるほど。恨まれていたから、貴族相手でも誘拐なんて真似をしたのか。

 普通なら、貴族の馬車を狙ったりしないものな。


 握手を終えると、マリノス伯爵は俺達に椅子を勧め、座ると満面の笑みを向けて来た。

 怖いんですけど。


「君には感謝してもしきれないのであーる。2人を無事に救ってくれただけでなく、ボロックも始末したそうじゃないか」

「ええ。遺体もあります。ご覧になりますか?」


 あわよくば、この人に処理をお願い出来ないだろうか?

 そんな思惑も混じえて聞くと、伯爵は「是非に」と頷く。なので、俺達は庭に移動し、そこでマントを広げた。そして、ボロックの死体をそこに出す。

 それを見て、伯爵が驚く。


「やや!これはまさに、あの憎き奴の顔であーる!遠目でチラリと見ただけだが、この頬の傷は忘れないのね。間違いなく、本人であーる」


 伯爵は顔をマジマジと見たあと、腹に刺さった剣に注目する。躊躇なく腹に着いた血を触り、うーむと唸った。


「まだ乾いてないのよ。この剣は、君のかね?」

「違うわよ、あなた。それはボロックのよ」


 いつの間にか奥様までいらしていた。

 ガッツリ死体を見ちゃってるけど、大丈夫なの?シアさんもそうだけど、この世界の女性は強いのね。


「ボロックがこの剣でクロード君を斬ろうとしたら、いつの間にかお腹に刺さっていたのよ」

「マンマ・ミーア!それは本当かね?」


 伯爵は驚き、また剣を調べる。そして、俺のマントを見上げた。


「それは魔道具なのかな?それとも、君のスキル?」

「特殊なマントにございます。恥ずかしながら、私はスキル無しでして」


 嘘ではない。マントは亜空間が使い易い様にと真っ黒な布を使った特別製。そして俺はスキル無しだ。

 ただ、異能の力があるだけ。


「なるほど、なるほど。ではクロード、そのマントを売ってはくれないか?」


 まぁ、そう来るわな。

 俺は背筋を伸ばし、静かに首を振る。


「申し訳ございませんが、これはスキル無しの私にしか使えません。伯爵様に差し上げても、ただの布にしかならないのです」

「であーるか」


 伯爵は残念そうだ。

 でもすぐに顔を上げて、その鋭い目を向けて来た。

 何か来るぞ。


「では、聖騎士団に入団してはくれないだろうか。勿論、君の功績を考慮し、騎士階級の、それも第一騎士団の副隊長に推薦するつもりであーる」


 ほらキタ。

 俺は内心でため息を吐く。

 何かしらの役職を与えて、囲い込みをすると思った。まさか準貴族の位を与えて、副隊長にしてくるとは思わなかったけど。

 これは、相当ヤバい状態だな。イザとなったら、シアさんを連れて逃走しないと。

 でも、先ずは口で逃げてみよう。


「伯爵様。私には任務があり、それにお応えする事が出来ません」

「任務?誰のであーるか?」

「天の声です」


 俺は手を胸に当て、空を見上げる。


「夢で声をお聞きしたのです。ダンジョンに行くようにと。この世界の危機を取り除く様にと、その声に言われたのです」

「まさかそれは、アルテシア様のお声!?」

「私では判断が着きません」


 俺は首を振り、明言を避ける。ここで女神を出汁にして、不敬だ!と罰せられないようにした。

 でも、それで十分だった。敬虔な女神教徒である伯爵は「福音であーる!」と興奮気味に叫んだ。


「ブラーヴォ!素晴らしい!すぐにも君は、大森林のダンジョンに行くべきであーる!」

「はい。準備ができ次第、向かうつもりです」


 俺が頷くと、伯爵はまた「ブラーヴォ!」と拍手をする。

 そして、


「であーるなら、私も協力してしんぜよう。騎士団お抱えの職人に、君達の装備を作らせる事を許可するのであーる」


 おぉ!そいつは有難い。


「クロード。君の獲物は何であーるか?剣でも槍でも、好きな物を選ぶと良いぞ?」

「その事なのですが、伯爵様。1つお話をお聞き願えないでしょうか?」

「ふむ。交渉事か?なんなりと申すがよい」


 許可を得たので、俺はボロックの死体を手で指し示す。


「私めに、なるべく多くの武器をお与えください。その代わり、こちらのボロックをお渡し致します」

「なに?ボロックを?つまりそれは…」

「はい。ボロック盗賊団に掛けられた懸賞金と名誉も含め、伯爵様に全て献上致します」


 伯爵は長い間、このボロックを追っていた。ならば、その名誉は他の人より大きな意味を持つ。俺に先を越された不名誉を塗り替えて、大きな功績を得ることとなるのだ。

 騎士団の格が、一段上がるだろう。

 それを伯爵も理解している様子で、ボロックの死体に目を輝かせていた。

 でもすぐに、冷静になる。


「良いのか?クロード。ボロックを倒した功績は、とても大きい。多額の懸賞金は勿論、陛下からの覚えも良くなるのは間違いない。家を起こす事もお許しになるだろう」

「承知の上でございます」


 爵位を貰うって事だろ?ダメダメ。絶対にダメ。そんな面倒な物を貰ったら、自由に動けなくなる。貴族同士の厄介事に、首を突っ込む気はサラサラないんだ。

 内心では全力で首を振る俺だが、表向きは重々しく頷いた。


「元々、私1人で賊を始末した訳ではございません。伯爵様の騎士様達のご活躍があったらこそ、なし得た事でございます。故にこれは、当然の事。私はただ、伯爵様に名誉をお返しするだけでございます」

「うむ。そう言ってくれるか、クロード君」


 伯爵はうんうんと噛み締める様に頷く。俺の言葉が詭弁だと分かっていながら、何とか飲み込もうとしているみたいだ。

 そして、


「うむ。分かった。では、君が望むままの物を用意しよう。最高級の武具を、好きなだけ注文するのであーる」

「有り難き幸せ。私をサポートしているシアの装備も…」

「無論であーる。他に必要な物も、遠慮なく申すと良いのよ」


 なんと太っ腹。

 なら、もうちょっと黒い服を頼もうかな?ダミー人形に着せる服とかね。


 俺が欲しいものリストを考えていると、後ろでパチンッと手を叩く音がした。

 マルガレーテさんだ。


「そうですわ。武具が揃うまでの時間、お2人を学園にご招待するのは如何でしょう?」

「おお!それは名案であーる!」


 うん?学園?

 俺が首を傾げると、マルガレーテさんはドヤ顔をする。


「王国随一の学び舎、レガリス・グリモワール学園に、お2人をご招待致しますわ!」

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― 新着の感想 ―
ネルトーク家の女性達(騎士団長も?)が、必死に事実関係の説明と粗相の無いよう伯爵へ念押しをした?w 奥様がテントでの一幕を盗賊団の手下らが「消された」のではなく、単に奥へ下がっただけと解釈してた場合…
言葉も名誉もいらん、金を出せ。先触れで予定も聞かんとは舐めとるな。 ん?伯爵?子爵じゃなかったか? そんなコロコロ変わる爵位なんぞいらんわ。
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