26話~これが、王都なんだ…~
「あっ、マルガレーテちゃんがこっち見てるよ。やっほー!こっちおいでよ!」
夕食の席で、シアさんが楽しそうに手を振る。
でも、それを受けた側は微妙な表情だ。苦笑いを浮かべ、断る様に小さく手を上げていた。
まぁ、その反応になるだろう。あれだけ亜空間の力を目の当たりにしたから、怖がられて当然。彼女達から見れば、いつの間にか俺が現れ、気付いたら盗賊が消えていた様に見えただろうから。
こうして言語化するだけで…軽くホラーだな。
「来ないね。やっぱり、まだ盗賊が怖いのかな?」
釣れなかったマルガレーテさんの態度に、シアさんが残念そうに手を下げる。
悪いな。怖いのは俺だ。王都に着いた途端、通報されたりしないかな?
「ねぇ、クロード。ボロック盗賊団は、全員倒したんだよね?」
うん?
「ああ、多分ね。少なくとも、団長は倒した。証拠もある」
証拠と言うか、本人を収納している。他の組員もみんな一緒だ。
これは思わぬ報酬だった。大量の死体はダミーに最適だし、流れた血も怪我の偽装に使える。
ゴブリンや訓練用カカシだと、どうしても近くで見られたらバレる。今後は、よりリアルなダミー人形を作れることだろう。
「おっ、証拠もあるのか。なら、儲けが倍増するな」
ラルスさんがワイン片手に、俺の隣へドカッと座った。
そして、俺の肩を叩く。
「ボロック盗賊団には長年、手を焼かされて来たらしいからな、かなりの額の賞金が掛けられている筈だぜ」
おお。やはりそうなのか。
「賞金だけじゃねぇ。きっと、名前も売れるぞ。大盗賊を倒した英雄って、吟遊詩人が歌い出すかもしんねぇな!ガハハハ!」
そいつは困る。あまり名前が売れると、面倒事に巻き込まれるから。
お金だけ貰う方法は無いものか…。
「何はともあれ、明日には王都に着くだろうよ。誰も死なず、商品も全て無事。こりゃ、ベルマン子爵からの報酬も期待出来るぞ」
「ベルマンさんって、お貴族様だったんですね」
接点の多いフランツさんがトップな気がしていたから、ちょっと意外。
きっと王都が本店で、子爵はそこを切り盛りしているのだろう。もしくは、経営権だけ持って誰かにやらせているか。
その経営者から、少なくない褒賞を得られるとラルスさんは言う。長旅で全てが無事と言うのは珍しく、しかも盗賊団と接触してそれだから、かなり期待出来るらしい。
盗賊の件は別にしても、やっぱり魔物の襲撃増加は顕著らしい。
それと言うのも、大森林のダンジョンが不安定だからだ。
「具体的に、どう不安定なんですか?」
「ダンジョン内の魔力がいっぱいらしいぞ。冒険者の攻略は停滞してるから、深階層で魔物が増えてるって話だ」
うわっ。ダンジョンの魔物って、無限増殖するのか。そりゃ、放っておいたら大変な事になる。
大森林、早めに向かった方が良さそうだ。
この時の俺は、そう思っていた。
でも王都を見たら、その考えも揺らいでしまった。
「ほぇえ…これが、王都なんだ…」
「ああ…そうみたいだね」
クリオールよりも立派な外壁を超えると、そこには大都会が広がっていた。
石畳が綺麗に敷き詰められ、レンガ調の建物が規則正しく並び建っている。その上を、何台もの馬車が行き交い、途切れぬ人波から笑い声や怒号が飛び交う。その馬車が引いている商品だろうか、薬草や香辛料などの様々な匂いがここまで漂って来ていた。
そんな雑多な街並みを越えると、3階建てや4階建ての建物が続いており、更に奥には白亜の王城がそびえ立っていた。
これが王都。クリオールの何倍あるんだ?
「クロードさん」
この世界の文明に目を張っていると、マルガレーテさんが馬を降りて貴族の礼をする。
「私達は屋敷に戻ります。後日、使いの者を向かわせますので、お礼はその時に」
「お礼ですか?もう散々貰いましたよ?」
助けた皆さんから、沢山感謝された。盗賊の死体もたんまりだし、あいつらの財宝も独り占めさせて貰っている。
あっ…財宝はダメか。盗品だから、衛兵に届けないと。
それでも十分な収集なのに、マルガレーテさんは「とんでもない」と言って、俺の辞退を受け取ってくれなかった。
面倒なんだよな。貴族のお礼って。
「では皆様。ご機嫌よう」
マルガレーテさん達は大通りに消えていく。
それを見送ると、我々は違う道でベルマン商会本店へと向かう。そこが、我々のゴールだ。
「よく戻ったな、フランツ」
そのゴールに到着すると、なかなかに大きな商館がそびえ立っていた。4階建てで、端から端までが1区画を使い切る程の大きさ。
その商館の裏手に、大量の荷物と馬車が並んでおり、そこにいた従業員が我々のキャラバンに手を振っていた。
フランツさんも手を上げて、指揮していた人に近付く。
「おう、グンター。今、クリオールから戻った。色々と報告があるぞ」
「ああ、だがその前に、商品を見せてくれ。どれくらいやられた?」
「聞いて驚くな?被害ゼロだ。商品どころか、誰1人死んじゃいねぇ」
得意げに語るフランツさんに、グンターさんが眉を少しだけ寄せる。
「ゼロだと?魔物に遭わなかったのか?」
「うんにゃ。毎晩のように襲って来た。なんなら、ボロックの一味にも出くわしたぞ」
「なにっ?それで被害なしだと?何をしたんだ、フランツ」
「そう怖い顔をしなさんな。なんて事はねぇ。ただ、雇った冒険者が優秀だっただけだよ」
そう言うと、フランツさんは「おい!」と俺達を呼ぶ。それに従い彼の後ろに並ぶと、フランツさんはラルスさんと俺の肩を叩き、1歩前に出るよう促した。
「こっちの大きいのが、Bランク冒険者のラルス。マビノギオンのリーダーだ」
「ああ。そこは良く、他の商隊も護衛してくれるチームだな。だがそれでも最近は、少なくない被害が出ているんだぞ」
「慌てなさんな。俺達が無事だったのは、こっちの力がデカイ」
俺の肩が叩かれ、グンターさんの顔が一層険しくなる。
それに、フランツさんが満足そうな笑みを浮かべる。
「クロードだ。かなり特殊な"技"を使う」
「技?まだ少年だろ。冒険者ランクは?」
「Eだ。だが侮るなよ?独りでボロック盗賊団を壊滅させたからな」
「ははっ。そいつはまるで、童話の勇者様だな。……本当なのか?」
冗談と思って軽口を吐いたグンターさん。でも、全く笑わないフランツさんとラルスさんを見て、目を見開いた。
信じられないと首を振るが、積んでいたオークの死体と、傷1つない商品の数々を見て低く唸る。
そして、俺達全員に追加報酬を約束してくれた。
おぉ!ラルスさんの言った通りだ。
「おい、クロード」
次は冒険者ギルドへ報告に行こうとすると、フランツさんが呼び止める。俺に向かって、手を差し出してきた。
「今回も助かった。お前を雇って正解だったぞ」
「そう言って貰えて良かったです。また、お呼び下さい」
握手に応じてそう言うと、フランツさんは「それなんだが…」と言い含む。
「お前さん、ここで働く気は無いか?お前の技はきっと、商業に向いている。必ず、大成功するだろう」
おっと。勧誘か。やっぱりこの人、亜空間の性質に気付いているな。
流石は商人と感心するも、俺は首を横に振る。
それだけで、フランツさんは「そうか」と手を離し、また頼むぞと去っていった。
初めから、勧誘は無理と分かっていたのか?
「凄いね、クロード。色んな人から誘われるじゃん」
ギルドへの道すがら、シアさんが興奮気味に声を掛けてくる。
そうだな。確かに、ありがたい事だ。でも、先ずはダンジョン攻略が先だから。
そうして、我々は目的地に到着する。
冒険者ギルドだ。
「王都の冒険者ギルドは、やっぱり立派だね」
シアさんの言う通り、ギルドは貴族の屋敷みたいに綺麗な建物だった。出入りする人も多く、中には貴族みたいな格好をした人もいた。
依頼かな?まさか、貴族が冒険者をやってる訳ないよな?
不安に思いながらも、ギルドに入る。
すると、
「それでこいつ、2階層のホブゴブリンにやられて追試になってさ」
「うわっ、ざっこ」
そこには、俺と同い年くらいの少年少女が、同じ制服を着て談笑していた。
彼らは学生さんかな?王都だから、何処かに貴族院みたいのがあるのかも。
そう思いながらカウンターの前に並ぶと、受付のお姉さんが困った顔で向こうの方を手で指した。
「番号でお呼びしているので、番号札をお求めになって下さい」
おっと。そういうシステムなのね。道理で誰も並んでいない訳だ。
俺は言われた通りに番号札を貰う。すると、蔑む様な視線を背中に感じた。
そちらの方を向くと。
「うわっ。こっち見た」
「やっぱ、服装もだせぇな」
さっきの学生さんだ。男女2人づつの4人パーティーで、持つ武器からして剣士が1人の魔術師3人パーティーみたいだ。
バランス悪いな。
「おい、田舎者。お前ら何処から来たんだよ?」
うわっ。絡まれてしまった。
「番号札も知らないなんて、きっと山奥から出てきた野蛮人よ」
「うわっ、くっさ〜。だから変な臭いがするんだわ」
キャッキャ騒ぐ学生達。
それに、シアさんが「なによ!」と食ってかかろうとするから、俺は慌てて止める。
ダメだよ、シアさん。こいつら、貴族の子供かも知れないんだ。下手に関わると大変なことになる。
俺は1歩前に出て、頭を下げる。
「我々はクリオールから来ました。長旅でしたので、臭いについてはご容赦ください」
一応謝ったが、実際はただのイチャモンだろう。旅の最中は毎夜体を拭いたし、川辺では風呂にも入った。
狼系の魔物は臭いに敏感だからね。キャラバンのみんなが注意していた。
「クリオールって言ったら、勇者達が言ってた街か?」
「えっ?勇者が?」
立ち去ろうとした俺だったが、つい足を止めて少年を見る。すると、少年は片頬を上げる。
「ああ。なんか、バンガーかなんかって美味い物があるって言ってたな。本当か怪しいけど」
「あんな小さな街に、そんな美味い物がある訳ないだろ?」
「そうよ。薬品が異常に高い街だって、お父様も言ってたわ」
ああ。トドの悪政は、王都にまで響いていたのか。
「まぁ、あんなみすぼらしい勇者達だからな。きっと、舌も大したことないんだろ」
「大森林のダンジョンに向かったらしいけど、クリア出来るかな?」
「無理でしょ?勇者のアルカイオス様だって11階層で引き返したらしいじゃない。きっと、5階層のボスにも勝てないわ」
おぉ。なんか、重要なことをポロポロ零してくれるな、この子達。
俺は必死になって彼らの話を聞き取る。
そうしていると、俺の番号が呼ばれた。
後ろ髪を引かれる思いで、カウンターに並ぶ。
「いらっしゃいませ。クエストの精算と、素材の売却と伺っておりますが?」
流石は王都ギルドの受付。言葉遣いがヴィクトールさん並だ。
俺は頷く。
「はい。それと、クエスト以外の懸賞金も、こちらで処理出来ませんか?」
「申し訳ございません。それは役場でお願い致します」
まぁ、そうか。一気に終われたらと思ったんだけど。
「ぷぷっ。懸賞金だって」
「そんなのも知らないのかよ」
何だこいつら。まだ付いてきていたのか。
俺は振り返りそうになったが、グッと堪える。
「それでは、ギルドカードを拝見致します……はい。Eランク冒険者のクロード様ですね。割符をご提出願います」
フランツさんにサインしてもらった紙切れを、カウンターに乗せる。
クリオールでは疑われたけど、ここでは淡々と処理されて「少々お待ちください」と受理された。
流石は王都。無駄がない。
「くふふふ。Eランクだって」
「学業メインの私達でも、Dランクなのに」
…前言撤回。無駄はあるみたいだ。
俺は何とかシアさんを抑えながら、お姉さんを待つ。
そして、帰ってきたお姉さんは、カウンターに袋をドサッと置いた。
「基本報酬の大銀貨10と、追加報酬の30枚でございます」
おお。追加の方が多い。被害ゼロって大きいんだな。
「だっ、大銀貨40!?」
「こいつら、何したの?」
後ろのギャラリーが驚いている。貴族でも、このレベルの報酬は破格らしい。
驚く彼らに気分を良くしていると、お姉さんが手を差し出してくる。
うん?握手ですか?
「素材をお見せ頂けますか?」
「ここで?」
「はい。ここで対応致します」
さっすが王都。節穴とはエラい違いだ。
俺はお姉さんに感謝し、カウンターから離れる。お姉さんが「はて?」みたいな顔をしているけど、構わずマントを外して床に広げる。
そして、
「では、買い取りをお願いします」
亜空間から、魔物の素材を大量放出する。
ゴブリン、森狼、コボルト、オーガ、レッドボア、ブラックベア。
積み上げてみたら、魔物のタワーが出来上がっていた。これは、スタンピード並の量だな。
「ぎゃぁああ!」
「ひぃい!」
そのタワーを見て、学生達が腰を抜かす。目の前に転がってきたオーガを指さす。
「こ、これ、オーガよ。Cランクの魔物じゃない…」
「こっちはレッドボアだ。前の演習で、俺達が全滅した魔物だ」
「こんな…これが、Eランクなの?」
そう言われてもなぁ。
縋る様に見上げてくる彼らから、俺はスーッと視線を外した。




