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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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25/40

25話~さぁ、まだまだありますよ~

「お願い…なんとか振り切って…」


 掴む手綱から伝わる激しい鼓動に、私はただ祈るしか出来なかった。

 後ろからは、恐ろしい男達の笑い声が響き続け、それが徐々に近づいて来ているのが分かる。このまま走っても、いずれ捕まってしまうのだと理解してしまう。

 お母様や、護衛騎士達のように。


「なんでこんな事に…」


 私達が何かした訳じゃない。ただ、お父様の代わりにコートヤードの街まで外遊して来ただけ。それだけなのに、帰り道で盗賊に出くわしてしまった。まるで軍隊のような馬の数で迫って来て、私達はなすすべもなく捕らえられてしまった。

 でも、私は抜け出せた。母が私の背を押してくれて、騎士団が最後の抵抗をしてくれたから。

 『生きて』と言ってくれた母の声が、まだ耳に残っている。


 でも私は、その声に答えられない。追手との距離が徐々に近づいているし、あいつらの顔には余裕が見える。

 楽しんでいるんだ。この状況を。私が王都まで辿り着けないと知っているから。

 悔しい。でも、その通りだ。馬の息が上がってる。もう直ぐ止まってしまう。そしたら私は捕まって、後ろの奴らに好き放題されるんだわ。


「嫌よ、そんなの、嫌…」


 いっそ、この馬から落ちて死のうかとも考えた。でもその度に、恐怖で凍り付いてしまう。その痛みを想像して、どうしても手綱に縋ってしまう。

 生きようとしてしまう。


「…おーい…」

「えっ?」


 何か聞こえた。盗賊達の笑い声ではない、女性の声。幻聴かと思って顔を上げると、遠くにキャラバンが見えた。

 助かった!王都の巡回兵かも。

 そう思って近付くと、次第にそれが商人の馬車である事が分かる。 


 ああ、ダメだわ。商人のキャラバンでは、この盗賊達に勝てない。我が家の護衛騎士でも勝てなかったのだから、冒険者じゃ無理よ。

 寧ろ、彼らにも被害が出てしまう。私は逃げられるかもしれないけど…そんな事、出来ないわ。


 私は綱を引いて、馬の行く先を変えようとした。その時、再び女性の声が聞こえた。

 見ると、馬車の最後尾で手を振る少女の姿があった。


「おーい!こっち、こっち!」


 そこに来いと言う事?何か秘策があるの?

 分からなかったけど、受け入れられたことが嬉しかった。僅かな希望が見えた気がして、私はその少女の元へと馬を走らせる。

 私が近づいて来ると、少女は手を振るのを止めて肩を回し始めた。そして、こちらに向かって何かを放り投げた。

 布切れ?随分と汚らしいボロ布が、放物線を描いてこちらへと迫って来る。

 そして、私の少し手前の地面に落ちる。途端に、その布の中から黒い粉塵が舞い上がった。


 えっ!?


 驚き手綱を捌こうとしたけど、間に合わなくて黒煙の中に突っ込む。何だか焦げっぽい臭いがして、視界が一気に悪くなった。

 でも、それだけだ。何か体に異常が出る訳では無く、私と馬は黒煙を抜け出した。

 今のは、何だったの?

 訳が分からず、私は後ろを振り向く。あの黒煙が何なのか、もう一度見ようとした。

 でも、


「えっ!?」


 見えなかった。

 振り返ったら、馬のお知りに男が立っていたから。

 真っ黒なスーツに黒いマントを付けた、不思議な恰好の男性。背丈からして、同い年くらいの少年だと思う。

 なんで?いつの間に?


「貴方、誰なの?」

「ああ、お尻に失礼してますよ。私はクロード。冒険者です」


 少年は振り返って、深々とお辞儀をした。馬のお尻という不安定な場所なのに、凄いバランス感覚。

 それに、その顔は思ったよりも幼い。この辺では珍しい黒髪に、紫色の瞳がキラリと光った。

 彼は、盗賊達を振り返って手で指した。


「一応確認しますが、あちらは貴女のお連れさんではありませんよね?」

「…違うわよ。どう見ても盗賊でしょ」


 まさか、私の仲間だと思っているの?それはかなり、失礼じゃない?

 私が密かに憤慨していると、少年は背を向けて「そうでしょうね」と両手を広げた。


「万が一ですよ。万が一、貴女のお連れさんを消したりしたら、大変でしょ?」

「消す?貴方が?」


 見たところ、何か武器を持っている風でもない。魔法の詠唱もしていないし、この子は何を言っているの?

 私の疑念に、彼は広げていた両手に何かを持つ。それは、私に投げつけられたのと同じ、ボロ布の玉だった。

 彼はそれを、ポイッと放り投げる。真後ろに投げた筈なのに、何故か大きくズレて着弾する。

 盗賊達の一部が、舞い上がった黒煙に包まれた。


「なんだァ?」

「構うな、ハッタリだぁ!」


 でも、その程度で怯む様な奴らじゃない。奴らは馬の速度を上げて、その黒煙の中に突っ込む。そして、何事も無かったかの様に飛び出してきた。

 飛び出した様に見えた。でも、

 

 飛び出して来たのは、盗賊が乗っていた馬だけだった。

 馬上には、誰も居ない。


「はぁっ!?」

「なんだっ?」

「ザール達はどこ行きやがった!?」


 黒煙を回避した盗賊達が、目を見開いて驚く。

 私も驚く。

 だって、一瞬の出来事だったから。何か爆発が起きた訳でもないし、あの粉に魔力が宿っている風でもない。なのに、人だけが消えた。黒煙にビックリして落馬したのかと思ったけど、黒煙が去った後には何も残っていなかった。

 

「一体、何が起きたの?」


 余りの事で、私は手綱を手放してしまっていた。そのせいで、馬もその場に立ち止まる。

 その馬上で1人、楽し気な声が上がる。

 少年だ。


「さぁ、まだまだありますよ」


 彼はそう言って、また両手を広げる。そこには、ボロ布ボールが何個も握られていた。

 それを、盗賊達に向けて放る。ボールはあっちこっちに散らばり、黒煙が幾つも沸き上がる。


「うわぁっ!」「触るなっ!避けろ!」


 黒煙を回避しきれなかった盗賊達は、次々に消えていく。黒煙をギリギリ回避した者も、その中から伸びてきた腕によって引き戻され、黒煙の中に消えてしまった。

 

 何が、起きてるの?

 私は、目の前で起きる奇々怪々な出来事に動けないでいた。何が起きているのか理解できず、恐怖を感じる。


「やべぇ!ありゃ、なんかの魔術だ!お前ら、退くぞ!」


 盗賊達も恐怖に駆られ、馬を急停止させる。弱者を散々痛めつける彼らは、強者相手には尻尾を巻いて逃げる。

 プライドも誇りも無い。まるで獣の様に、本能のまま逃げ出した。

 それを見た少年が、マントを広げた。そのマントの中から、剣先が幾本も顔を見せる。


「逃がしませんよ」


 少年が言葉を放つと同時に、剣が放たれる。逃げようとした盗賊の背に、次々と突き刺さる。

 そうして、瞬く間に殆どの盗賊を始末してしまった。

 残ったのは、最後尾にいた2人の盗賊だけ。その2人は、この惨状に悲鳴を上げて逃げ出した。

 その背中を、少年は冷たい目で見ていた。


「あっ、貴方…貴方は一体、何者なの?」


 全てこの少年がやったことなのは明確。でも、どうやっているのか全く分からない。

 魔法?いいえ、彼は一度も詠唱をしていなかった。無詠唱だったとしても、魔法の流れは感じる筈。

 じゃあ、精霊魔法?でも、どう見ても彼はエルフじゃないわ。

 なら…何なの?


 私が問うと、少年が振り返る。何故か片目を瞑って、ウィンクをしてくる。


「先に申し上げた通り、冒険者のクロードですよ。なんのスキルも持たない、Eランクでございます」

「Eランク!?」


 そんな訳ないじゃない。こんな実力でEランクだったら、そこらの冒険者なんてランクが付かないわ。

 騎士団長だって、きっと勝てないもの…。


「クロードォ!」


 あまりに衝撃的な出来事に立ち止まっていると、キャラバンから男達が近付いて来た。その先頭の少女は、最初に手を振っていた子だ。

 少年…クロードは馬から降りて、少女に答える。


「ありがとう、シアさん。作戦は大成功だ」

「凄かったね!盗賊みんな消えちゃった。何処行ったの?」

「さて?地獄じゃないかな?かなり悪い事をした人達だと思うから」


 クロード少年がこちらを振り返る。それに釣られて、みんなこちらを見た。

 私は慌てて、馬から降りる。気持ちを正して、背筋を伸ばす。


「助けて頂いて、ありがとうございます。私の名はマルガレーテ。ネルトーク伯爵家の三女ですわ」


 私が自己紹介すると、後ろの男性達が驚いた顔をする。きっと、私の家名を聞いて驚いているんだわ。

 当然よね。我が家は伯爵家。王都でも大きな力を持つ家だから。

 でも、今はそんな事関係無いわ。


 私は、驚く人達をすり抜けて、クロード少年の目の前に出る。そして、彼の手を両手で取る。周囲の目があるのも構わず、彼に懇願した。


クロード少年の前に立ち、彼の手を取る。なりふり構わず、懇願する。


「お願い…。母とみんなを助けて」


 王都の騎士団に頼み込もうとしていたことを、クロード少年に託す。

 彼なら、やってくれると思ったから。組員300人以上の大盗賊を相手でも、彼なら母を救えると思った。

 仮令、何を要求されようとも。


 その覚悟を持って彼を見上げると、


「ええ、良いですよ」


 あっさりと断られてしまった。

 そうよね。そんな無謀な事をいきなり頼んだら…って、ええっ!?


「いっ!良いの?相手はボロック盗賊団よ?王都の騎士団でも手を焼いてる、極悪非道な奴らよ?」

「ええ、生きている方を助け出すのは、問題ありません。死んでいたら…無理ですけど」


 それは、そうでしょ。

 いえ、そんな事より。


「場所も分からないわ。ボロックの拠点は、山奥に隠されてるって噂で、騎士団も探しているところよ」

「それも、大丈夫ですよ」


 そう言ってクロードは、ずっと閉じている右目を指さす。

 そして、


「私には、全て見えていますから」 



 全てが見えている。

 そう言った途端に姿を消したクロードさんは、まだ戻ってこない。もう、日が落ちる頃だと言うのに、彼は何処にいるのかしら。

 …いえ、分かっているわ。私の難題に、逃げ出してしまったのね。幾ら彼でも、やっぱり無理だったのよ。

 

 そう落ち込んでいた矢先、


「みんなぁ~!誰か来るよぉ~!」


 シアさんが声を上げて、手を振る。そちらを見ると、何頭もの馬がこちらに駆けているのが見えた。軽く100頭は超える数。

 これは…。


「大変…ボロック盗賊団よ!」


 私はみんなに、逃げるように声を上げた。

 すると、シアさんが「え~?」と首を傾げる。


「盗賊って、あんな立派な鎧を着るのかなぁ?」

「えっ?」


 驚き、私は振り返って目を凝らす。すると、馬達が見覚えのある馬車を引いてるのが目に入った。

 その窓から、誰かが手を振っている。

 それは…


「メグー!」

「お母様!?」


 間違いなく、母だった。馬に乗っているのも、囚われた筈の我が家の騎士達。

 みんなが平然と、私に向かって手を振っていた。



「お母様、良くご無事で」

「ええ。もう本当に、何が何だか分からないことだらけだったわ…」


 夕食の席で、母は何があったのかをポツリポツリと語ってくれた。


「盗賊のアジトに連れて来られてね。そこで、お父様宛に手紙を書くように強要されたのよ」


 団長のボロックは、母と騎士団を引き渡す代わりに身代金を要求しようとしたらしい。それで、母に手紙でその旨を伝えろと言って来た。


「その手紙を書いている最中に、貴女を追っていた盗賊が戻ってきたの。2人だけで、酷く怯えていたわ」


 取り逃した2人だ。

 そいつらがボロックに『全員殺された!』と報告している最中、2人に異変が起きた。


「背中からね。こう、影がニョキニョキ生えてきて、少年になったのよ」


 クロードさんだ。

 彼はその場に降り立つと、平然と交渉を持ち掛けたらしい。

 盗品は半分くれてやる。残りと人質を置いて失せろと。

 

 それを聞いた途端、盗賊達は大笑い。お母様達も唖然としてしまい、騎士団長と顔を見合わせたそうだ。

 たった1人の少年が、武器も持たずに何をしに来たのだろうと。

 

 それはボロックも一緒だった。突然現れた魔法には驚いたが、たった1人で何が出来るのかと。お前が魔法を放つ前に、ハリネズミみたいにしてやるぞと笑った。

 そして、仲間に命令する。世間知らずの魔術師様に、世の中の厳しさを教えてやれと。

 でも、


「誰も答えなかったわ。いえ…誰も居なかったのよ、その時には既に」


 あれだけ大声で笑っていた盗賊達は、次の瞬間には消えていた。残ったのはお母様達と、ボロックだけ。

 ボロックは顔を真っ赤にして怒った。この奇術師が!と、鉈(マチューテ)を振り回して威嚇したらしい。


「それでも、クロードさんは一歩も退かなかった。相変わらず微笑んでいて、それで更に怒ったボロックが斬りかかったわ。でも次の瞬間、何故かその刃がボロックのお腹に突き刺さっていたの」


 そう言ってお母様がこちらを見詰めて来るけど…私にも分からないわよ。彼がどうやって、ボロックを倒したのか。300人を超える大盗賊団を、一瞬に消したのか。

 本当に、彼は何者なの?

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― 新着の感想 ―
完全武装の騎士100騎を300程度で拘束とか、めっちゃ手際良い(真っ先に母娘の馬車を押さえられでもしたか) 盗賊団であるw騎士も売れそうな甲冑だけ剥いで始末といった処置をされていない辺り、警告代わりの…
ありゃ本当に貴族のお嬢様でしたかい、えらくオテンバ姫ですなぁ。 と・こ・ろ・で 「お知りの上」「子爵?侯爵?」 今回ミスが多いですよ?
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