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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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22/41

22話〜こちら…でぇっ!?〜

「おいっ、あれが勇者様一行らしいぞ」「勇者?」「どれが勇者だ?」


 東門を潜り抜けた一団は、そのまま真っ直ぐ大通りを通る。それを見て、人々が噂する。手を振る者もいた。

 だが、勇者達は誰も振り返さない。随分と疲れているのか、先頭で馬に乗る前川達一軍と馬車から手を振るイリーナ以外は、姿も見せなかった。

 

 騎士団の奴らとクラスメイト達は、随分とヤツれているな。こうして日の下で見ると、よく分かる。顔もそうだが、目が濁っている。物資だけじゃなくて、待遇も悪い様子。


「まぁ、俺の預かり知らぬ事だ」


 彼らには一度、手を差し伸べた。それを振ったのは彼ら自身。それに俺は、一度殺された。それに歓喜を上げたお前らとは、もう縁も何もない。

 助かりたければ、自分で這い上がれ。

 

「皆さん!先ずは支部に急ぎます!歓迎のパレードは、その後に!」


 集まる町民に、イリーナは嘘くさい笑みを浮かべる。

 でも、疲労が滲み出ている。早く支部で休みたいと、そんな思いが透けて見える。

 

 どうぞ勇者ご一行様。心ばかりのおもてなしを準備致しました。存分に、お楽しみ下さい。

 

 ついつい浮かんでしまった笑みを抑え、俺は勇者達の馬車を見送る。そして、始まるだろう最高の劇を見る為、特等席へと移動する。

 亜空間。それで、教会支部の天井から見下ろす。

 教会はさっきよりも、カオスな状況に陥っていた。


「ヤバい!ヤバい!飾り付けが間に合わない!」

「買い出し組はどうした!?なんで戻って来ない!?」

「不味いよ!ワインもパンもない!お香もだ!」

 

 走り回る修道士達。でも、その成果は見えない。飾りつけは中途半端だし、厨房に並ぶ料理にワインも白パンもない。

 並ばない様に、俺は苦労した。お香を買い占め、高級ワインも大半を男爵名義で買い付けた。そのワインをギルドやレストランに無償で配り、みんながワインを飲むように誘導した。白パンまで買うお金が無かったが、そっちはブームが来るように異世界のレシピを教えた。

 結果はご覧の通り。みんなはエールの代わりにワインを飲むようになり、お供に白パンを食す様になった。バーガーなんて、今やオリジナルレシピが考案され始めている。果物を使ったり、魔物肉を挟んだりと。

 その結果、作戦は大成功だ。歓迎の食事会で、イリーナがブチ切れるのは必至。

 

 大混乱の会場に、のっしのっしとトドが現れる。いつものド派手な服装ではなく、質素な修道士の服装だ。指輪も金の扇子も持っていない。

 イリーナが来るんで、猫を被るつもりらしい。

 でも、会場の様子を見てふっつと顔を真っ赤にする。開口一番で、怒号を飛ばす。


「貴様ら!なんだこの体たらくは!」

「もっ、申し訳ありません!あとちょっとで…」

「もう良い!それより、誰かイリーナ様をお出迎えに向かっているんだろうな?」

「えっ?」「あっ…」

「バカモンがぁあ!!」


 馬鹿はお前だ。こうなることを予想せず、人員を外に割いてしまったのだからな。

 まぁ、そうやって誘い出したのも、俺の作戦。街の隅々に男爵を出現させたから、随分と混乱した様子だった。

 だがまさか、当日までイリーナ達の事を察知できないとは…元々のアンテナが低すぎなんだよ。


 トドが「早く行け!」と指示を出した丁度その時、教会の大扉が音を立てて開く。そこには、異様に大きな笑みを浮かべたイリーナが居た。

 トドが驚くべき速さで駆け寄り、ペコペコし始めた。


「これは、これは。イリーナ様。それに、勇者の皆様も。ようこそお越しくださいました。このブルトッド、心よりお待ち申し上げておりました」

「あら?そう?私にはとても、そうは見えないのだけど?」


 イリーナは素早く、会場の様子に目を配る。飾りつけを見て、テーブルに並ぶ水と黒パンを見て、こめかみをヒク付かせる。

 それを見て、トドが頬を震わせる。


「これは、その…支部もかなりの資金難でして。げみ…街の者達に奉仕する為、身を割いているのでございます。街の治安を守る為にと、騎士団や修道士を派遣しておりました。その為、皆様のご到着に間に合わず、私は…」


「うぅ…」と、嘆く演技をするトド。

 流石は支部長にまでのし上がった男。悪知恵だけじゃなく、顔の皮もぶ厚い。

 

 でも、それだけでイリーナは信じない。冷めた目で、震えるトドの贅肉を見下ろす。


「身を割く、ですか」

「うっ…そ、そうです!イリーナ様。長旅でお疲れでしょう。会場の準備はすぐに終わらせますので、それまで私の部屋でお休み下さい」


 ほぉ。あの成金部屋に誘うか。

 俺は意外に感じたが、イリーナは「では」と言って、前川達一軍を連れてトドの背に従った。

 これは好都合。


 俺は一旦亜空間を閉じ、トドの部屋へと繋ぐ。

 そこには、随分と片付いた部屋が広がる。悪趣味な金ピカ調度品は無くなり、絵画も取り外されている。残るのは、隠し金庫へ繋がるカラクリ絵だけだった。

 なるほど。最初から、イリーナを招いても良いようにしていたのか。隠した調度品は、ここに入れたのか?

 俺は出口から出て、絵画のカラクリを起動させようとする。でも、俺が手をかざしてもビクともしなかった。

 

 ふむ。指紋認証…みたいのがあるのかも。

 そんな魔法もあるのかと感心しながら、俺は黒マントを取り出す。それを仕掛けの上に被せ、扉だけ亜空間に送る。そして、少しだけ移動させる。それだけで、ロックが外れた。

 蓋を開けると、やはり調度品達も詰め込まれていた。


 ビンゴ。隠し扉を、押し入れみたいに使っちゃって。

 呆れながら、俺は中身を床一面にぶちまける。金庫も鍵が掛かっていたが、亜空間で蓋を外して金貨もばら撒く。

 そうしていると、扉の鍵が開く音がする。俺はマントを被り、急いで亜空間に退避した。

 その直後、扉が開いた。


「さぁ、どうぞイリーナ様。すぐに紅茶を持って来させますので、こちら…でぇっ!?」

「どうしました?支部ちょ…これは…」


 部屋に入ってきたトドは、目が飛び出そうなほど大きく開き、反対にイリーナは目を細めた。

 後ろから入ってきた前川達が「金だ!金だ!」と騒ぐ度、部屋の温度が下がっていく。

 イリーナがニコリと微笑んだ。


「ブルトッド。これはどう言う事ですか?私達を迎える資金も無いと、先程お聞きしましたが?」

「イリーナ様…これは…違うのです。誰かが私を嵌めようとしているようで…」

「あら?じゃあこれは、貴方のお金では無いのね?あの隠し金庫も知らないということ?」

「隠し…あっ!金庫が空いてる。誰がロックを…あっ」


 あーあ。そんな事言ったら、自分の物だと言っている様なものだぞ?

 まぁ、どちらにせよ逃げられない。ここまで届く程、イリーナは怒りのオーラを纏っているから。


「ブルトッド」

「はいっ!」


 まるでサンダーレイに撃たれた様に、トドは全身を震わせて直立する。

 そこに、沙汰(さた)が下る。


「お前を支部長の任から解きます。最果ての地パラスにおいて、神父からやり直しなさい」

「そ、そんな!あんな何も無い場所に…私のような者が行くなど」

「最適の人選です。あそこならもう、悪さは出来ないでしょ?」


 今度のイリーナの笑みは、本物だった。

 本物の嘲笑にトドは崩れ落ち、ただただ嗚咽を上げるだけだった。



「全く、何をやっているんです。あの男は」


 トドを左遷させたイリーナは、それまでの帳簿を見て呆れた声を吐く。

 きっと、違法に収集した税について言っているのだろう。修道士に命じて、すぐに税を戻す様にと指示を出していた。

 まぁ、そうだろうな。もう勇者の顔見せまでしたんだから、同じ手法は取れない。勇者に対する感情が悪くなるだけだ。


 そこまで馬鹿じゃなかったかと、俺は胸を撫で下ろす。でも、またイリーナが微笑み始めたので不安が過ぎる。

 イリーナは金貨を手に取り、付き人に命令する。


「この勇者資金を回収しなさい。私達の旅費にします」

「はっ!」


 おいおい。それじゃ、トドと同じじゃねぇか。

 やっぱりこの組織、土台から腐ってやがるな。


 俺は何処か安心しながらも、支部を出ようとするイリーナの背を睨む。

 このまま持ち逃げは許さん。それは、みんなの血税だぞ。


 俺は亜空間の中を進み、1つの出口を作る。そこを出ると、目の前には冒険者ギルドが。

 縋る思いで中に入ると、みんなはまだテラスで飲み会の最中だった。

 助かった。


「みんな!」

「おう、クロード。どこ行ってた?」

「追加のバーガーが来てるぞ。今度はオーク肉を使ったんだとよ」


 赤ら顔のフィンさんが、両手にバーガーを掴んでご満悦だ。

 済まん、みんな。協力してくれ。


「みんな!もうすぐ勇者様が出てくる!パレードが始まるぞ!」

「おお!パレード!」

「お祭りか、久しぶりだぜ!」


 流石は冒険者。楽しそうな事に敏感だ。

 もう一声。


「他の人にも声掛けて、盛大なパレードにしよう!」

「「「おおぉ!!」」」


 みんなは嬉々として、ギルドを飛び出す。「パレードだ!勇者パレードだ!」と触れ回って、支部へと向かってくれる。

 よしよし。ここは完了と。

 俺は亜空間を開いて、次の場所へ赴く。


「えっ!勇者がパレード?」

「そうなんだ。シアさんも見てみたいよね?」

「うん!みんなで行くね!」


「勇者パレードだぁ?」

「そうです、フランツさん。勇者様達は支部長の資産を抑えました。今なら気が大きくなっているので、なんでも買い付けてくれますよ」

「ほぉ。そいつは吉報。野郎ども!急いで出店の準備だ!」

「「「へい!大将!」」」


 レストラン・デボンとベルマン商会に声掛けし終えた俺は、イリーナの様子を見に行く。

 そこでは既に、大勢の人が詰めかけており、イリーナ達の馬車に喝采を送っていた。


「「勇者万歳!」」「「ようこそイリーナ様!!」」


 その大歓迎に、流石のイリーナも無下には出来ない。馬車を止めて、みんなに手を振る。


「皆さん!ありがとう!ありがとう!」

「サンキュー!」


 前川も調子に乗って、馬上から手を振っている。

 良いぞ、前川。もっと調子に乗れ。

 俺は亜空間から出て、町民の列に紛れる。そして、後ろから大声を上げる。


「おい!みんな!あれが勇者だ!勇者前川だ!」

「えっ?あれが勇者?」

「まだ子供じゃないか」


 ふむ。やっぱりみんな、後ろの聖騎士を勇者と勘違いしていたみたい。

 俺は声を張る。


「子供じゃない、勇者だ!きっとこれから、幾つもダンジョンを攻略して、世界を救ってくれるぞ!」

「「おぉおお!」」


 人々に勇者の役割が伝わったみたいで、より大きな声で勇者を称え始めた。


「勇者マエカワ!世界を救ってくれ!」

「素敵よ!勇者様!」

「「勇者!マエカワ!」」


 みんなに名前を呼ばれ、前川の顔は酒を飲んだみたいに真っ赤になる。テンションが最高潮に達したみたいで、拳をブンブン振り回した。

 良いぞ。そのリビドー、解放させてやる。


 俺は亜空間の中に戻り、再び小さな出口を作り出す。

 そこは、パレードの中心。前川のすぐ後ろだった。

 そこから口だけ出して、周囲の歓声に負けないよう声を張る。


「おい!前川。こんなにみんなから期待されてんだ。感謝の印に、誠意を見せてやろうぜ!」

「あっ!?誠意ってなんだよ!倉橋」

「金だよ、金!悪代官が溜め込んだ金を、みんなに返してやろうぜ!それが、正義のヒーローだろ!?」

「おっ!いいじゃん、それ!」


 前川がこちらを振り返りそうだったので、俺は急いで亜空間を閉じる。

 すぐに別の亜空間から彼らを見下ろすと、前川は傍付きから金貨の袋を奪い取り、それをみんなに向かってぶち撒けた。


「この街の悪は、俺が捌いた!魔物もダンジョンも、任せろぉ!」

「「「わぁあああ!!」」」


 聴衆は大喜びで、それを見た前川は空を飛びそうな程に興奮していた。

 そこに、馬車の窓からイリーナが身を乗り出して来る。


「何をしているんです!勇者マエカワ!」

「何って、ヒーローが期待に答えてるだけじゃんよ」 

「だけって…これは大切な旅の資金です!早く回収しなさ…」

「うるせぇ!」


 前川が歯を剥き出しにする。


「みんなが喜んでるんだ!俺に恥をかかせんじゃねぇ!」

「なっ…何を、言って…」


 怒る前川に、イリーナは訳が分からないと首を振る。

 さっすが前川さん。プライドだけは一人前。そのちっぽけなプライドを守る為に、俺を蹴落としただけはある。


 どうだ?イリーナ。お前が頼る勇者様は、その任を背負える器だと思うか? 

 絶望するイリーナの顔を見て、俺は大きな笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
薬草特需が終わった後で、クリオールの人々の生活水準を元のレベルへ落とせるの?内政知識チートとか、 めっちゃ(町の冒険者のテリトリー外から)モンスター狩って市場を刺激し続けるとか、仕事増えないか心配w …
前川ちょろい、猿も煽てりゃ金を撒くってか?w その調子でGoToダンジョン(強制)だ、己の未熟を身を以って知るがよい。 正直、ノウハウ無しの初心者ではどうにもならんと思うのよね。
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