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前世の記憶が蘇ったので、異能の力で全てを飲み込む  作者: イノセス


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21/38

21話~無い訳ないだろ!~

「ねぇ、ねぇ。知ってる?クロード」


 支部長の野望をどう打ち砕くべきか。

 昨晩からそれを悩んでいた俺に、シアさんが待ちきれないという顔で問い掛けてきた。

 何か良い情報でも入ったのかな?


「なんかね、この街に女神教の偉い人が来るかもなんだって」

「教会の偉い人?」

「うん。なんかね、東から来た商人さんが、教会の馬車が沢山こっちに向かって来てたって言ってたよ?」


 教会の馬車…東側?そっちは俺が来た方角だよな。って事は、その馬車の中身はクラスメイト達じゃないか?

 勇者一行がこの街に来る?もしもそうなら…。


「こいつは使えるな」



 シアさんからもたらされた情報を、俺はその夜に確かめる。亜空間で短距離ワープを繰り返し、東街道を遡る。

 すると、丁度半分くらいの距離でそれを見つける。俺が乗せられたのと同じ馬車。それが何台も連なって停泊していた。そして、その周辺で火を囲んでいるのは、間違いなく前川達だった。

 あいつのバカ笑い声は忘れんからな。


「ぎゃははは…」

「「……」」


 久しぶりな同郷諸君。だが、前川以外は大人しい。夕食も早々に終えて、馬車の中へと戻っていた。

 何かあるのか?

 気になって馬車の中を見てみると…なるほど。随分と物資が足りていない様子。俺が全部接収したから、資金繰りに苦労しているみたいだ。

 悪いとは思わん。それが、人を虐げた報いだ。

 

 しかし、これは好都合。これだけ貧困しているなら、必ずクリオールの街に寄るだろう。教会の支部があるあそこで、物資を調達する筈だ。

 そこで、仕掛けるか。


 俺は馬車団から離れ、街に戻る。

 勇者達の距離は、馬車で10日といったところ。大勢での移動だから、もっと掛かるかもしれない。

 その間に準備をせねば。彼らを迎える、最高のおもてなしを整えるんだ。


 

 次の日から、俺は動き出す。

 先ずは行きつけのデボラで、シアさんに相談だ。


「えっ?教会の行事に必要な物?」

「うん。偉い人を出迎えるのに、何を揃える必要があるだろう?食事とか、道具とか」

「ええっと……ご飯で言うと、白いパンかな?白は女神教の色だから、お祭りとかでは黒パンはダメって言われてる。あとはワインとか」

「なるほど」


 白パンにワイン。本当に、キリスト教みたいな宗派だな。

 心の中でメモっていると、厨房から出てきたマダムが「ああ、それなら」と付け足す。


「お香も大事さね。魔物避けの効果があるルミナの葉を使ったお香は、祭事の時に欠かせない物だよ」

「あっ、あの甘い匂いの奴だよね?あたしアレ好き!」


 なるほど。お香ね。

 大きな宗教だから、必要な物もハッキリしている。それなら、俺の作戦も上手くいくだろう。

 見てろよ、トド。お前が街を苦しめていた分、今度はお前が苦しむんだ。


 〈◆〉


「なにぃ!また取り逃しただと!」


 ブルトッド支部長の声が、彼の部屋の中でこだまする。顔を真っ赤にした支部長は、今日2本目となる扇子を折り曲げてしまった。

 それだけ怒るのも無理はない。何せ、今日で3日連続、クロヴィス男爵を取り逃したのだから。


 聖騎士団のマッテオが、青い顔を振る。


「完璧に追い込んだと思ったのです。ですが、路地に着いた途端に消えており…」

「ええぃ。騎士団は何をやっとるか!」


 支部長の小さな目が、こちらを向いた。


「お前達も行くのだ!ベルナール」

「わっ、私もですか!?」


 全くの部署違いだぞ?


「当然だ!聖騎士だけで捕まえられんのなら、教会の総力を持って奴を捕まえろ。そしてここにふんじばって来い!捕まえた奴には金貨30枚をやる」

「30…」


 そいつは美味しい。3年は遊んで暮らせるぞ。


「分かりました。直ぐに捕まえて見せます」


 俺は嬉々として教会中の修道士を伴い、市井に向かう。下民共と同じ空気を吸うのは癪だが、金貨の為だ。

 そう思って歩き回るが、それも直ぐに終わる。近くで男爵発見の知らせを聞いたからだ。


「急げ!」


 俺は同僚と共に路地を駆け抜ける。

 段々と怒号が近付いて来るけど…大丈夫だよな?支部長の前に奴を引っ張っていくのは、俺の役目だからな?

 そう思って路地を抜けると、そこにタキシード姿の男が立っていた。

 目深に被ったシルクハット。全身が真っ黒の男。

 間違いない。こいつがクロヴィスだ。


「降伏しろ!男爵。貴様に逃げ場はない!」

「おや?”今度”は修道士か」


 今度?

 俺は引っかかり、男爵の後ろを見る。

 そこには、先に着いていたであろう騎士団の面々が床に寝ていた。

 なっ!?


「お、おまえ…」

「何時までも鬼ごっこは飽きたからな。今度はこちらから攻めさせて貰うぞ?」

「何を、生意気な!」


 俺は構え、詠唱する。

 多少腕に覚えがあっても、俺たちには勝てない。俺たちは神の御業を得た聖職者。選ばれた者だからだ。

 俺のスキルにひれ伏せ!


「ボルト!」


 俺の手からイナズマが走り、男爵に直撃する。

 これで、暫くは動けない筈。

 そう思ったが、


「おや。マッサージのつもりか?これでは肩のコリも解せんぞ」

「なにをっ!」


 こいつ、手加減してやったら調子こきやがって。

 もういい。支部長には、死体で我慢して貰う。


「全員、構えろ!全力で行くぞ」

「「はっ!」」


 男爵を中心に、俺たちは一斉に構える。そして、詠唱する。省略無しの完全詠唱。

 喰らえ!最大出力!


「「「サンダー・レイ!!」」」


 無数の光線が一直線に飛び、男爵へと降り注ぐ。着弾と同時に地面が揺らぎ、粉塵が濛々と沸き上がる。

 少々やり過ぎたかもしれん。これでは、肉片1つ残っていないぞ。どうやって男爵の死亡を証明するか…。

 俺は、何か残っていないかと爆心地へ歩み出す。でも、直ぐに足を止める。もうもうと上がる土煙の中を、何かが動いているからだ。

 それは、


「やれやれ。服が汚れてしまったぞ」


 男爵だった。

 肩に乗った埃を払い、コツコツとステッキを着いて煙の中から出てきた。

 無傷。体どころか、服にも一切焦げ跡がない。


「なっ、なに…」

「無傷だと…?」


 同僚も驚きの声を漏らす。

 それに、男爵は笑みを浮かべる。次いで、ステッキをこちらに向けてきた。


「やられたらやり返す。0.8倍返しだ」


 そう言った途端、ステッキの先が光った。閃光が、俺たちを貫く。

 衝撃。脳が焼き切れる程の激痛。


「「がぁあああああ!!」」


 全身に強力な電流が走り、目の前が真っ白になる。

 何も、見えない…。

 ただ、男爵の着くステッキの音だけが頭の中に響いた。

 コツ…コツ…。


 

「はっ!?」


 気付いたら、俺はベッドに寝かされていた。見ると、隣には同僚達も一緒だ。

 ここは、治癒院か?


「しまった」


 俺は飛び起き、上着を羽織る。

 気絶して、運ばれたみたいだ。

 男爵が放ったのは、俺たちと同じ雷魔法。俺たちのより数段劣るが、それでも詠唱無しであの威力。

 きっと、魔道具の類いだ。


「くそっ。やられた」


 知っていれば、警戒したものを。卑怯な奴め。

 俺は高額な医療費を支払い、院を出る。男爵を追おうかとも思ったが、一度教会に戻る事にした。

 相手が魔道具持ちなら、こちらも武器が必要だろう。ついでに、仲間も集め直す。

 俺は意気込んで教会の戸を開いた。だがそこでは、修道士達が慌ただしく走り回っていた。

 なんだ?何が起きている?


「何を突っ立っているんだ!ベルナール!」


 通りかかった同僚が、俺を見て目を釣り上げた。

 何の事だと聞いたら、彼は「勇者様だよ」と捲し立てて来た。

 勇者?


「勇者様とイリーナ様が、この街に向かっているそうなんだ。今日の夕方にも到着されるって言うんで、みんな慌てて準備しているんだよ」

「きょっ、今日!?」


 なんでそんな…そんな急に…。

 あっ、男爵か。男爵を追う為に出払ったから、情報を得るのが遅れたんだ。

 神の代弁者であるイリーナ様を迎えるなら、1週間も前から準備する必要があるのに。


「兎に角だ、みんな急いで準備してるけど、人手が足りない。お前と一緒に出ていった連中はどうした?」

「…それは…」


 くっ。男爵め…。全部、奴のせいだ。

 俺は悔しくて、奴に復讐したい気持ちに駆られる。

 でも抑える。今は先ず、イリーナ様を迎える準備が最優先だ。


「俺は何をしたら良い?」

「買い出しに行ってくれ。もう何人か行かせたんだが、全然帰って来ないんだ。兎に角、お前はワインを買ってきてくれ」

「分かった」


 ブルトッド支部長め。こう言う時の為に、ワインセラーを作っていた筈だろ。男爵が捕まらない腹いせに、毎晩飲んでやがったな。

 いつかあのトドも殴ってやろうと、俺は心のノートに書き記す。

 だが、そんなものは直ぐに忘れてしまった。何時もの店に行くと、ワインが無いと言われしまったからだ。

 はぁあ!?


「無い訳ないだろ!早く出せ!」

「本当に無いんですよ。街は今、空前のワインブームでね。何とか男爵って人を始め、色んな企業が買い漁ってるんで」

「だっ!」


 男爵。

 またあいつがぁ!

 俺は壁を殴りつけ、怒りを逃がす。そして次の店に行くが、そこも在庫切れだった。

 あるのは精々、安いワインだけ。それも、何時もより何倍も高い値段だった。


「どうするよ?もうここいらじゃ手に入らないぞ?買うか?」

「買うわけないだろ!そんな劣悪品!」


 イリーナ様にそんな物をお出しした日には、天罰を落とされてしまう。何としても最高級ワインを手に入れなければ。

 

 俺は大通りを走り続ける。だけど、どの店も似たような物だ。

 そうして走っていると、ボロボロの屋敷が見えてきた。冒険者ギルドだ。

 そのテラスで、冒険者共が騒いでいた。昼間からボトルをラッパ飲みして…って、それはワインじゃないか!


「お前ら!それを何処で手に入れた!」

「あん?そりゃ、買ったんだよ。数日前に、そこの店でな」

「馬鹿な。お前達の様な者が、それを買える訳がない!」


 あのラベルは、バーガンディ地方の名品だ。こんな盗賊紛いの貧民が買える品ではない。

 きっと盗んだのだろうと指を立てると、冒険者達はニヤニヤ笑う。そして、懐から金貨を数枚見せびらかして来た。

 なっ!?


「ところがよぉ、今の俺たちなら買えるんだなぁ、これが」

「薬草クエを受けたからな。もうウハウハよ」

「ワインには肉がよく合うぜ!」


 冒険者達はそう言って、高級なワインを浴びるように飲む。そして、片手に持った何かを齧る。

 何だ?それは。


「ああっ!?白パンがぁ!」


 謎の食べ物に目を凝らしていると、後ろで悲鳴が響いた。見ると、同僚のマッテオがガクガクと震えていた。

 どうしたんだ?


「どうしたもこうしたもないよ!あいつらが食ってるのは白パンだ!俺が今、必死に探していた物なんだ!」

「お前もか」


 白パンが無くても、出迎えは成立しない。それなのに、マッテオは十分な量の白パンを確保出来ないでいるらしい。

 それと言うのも…。


「何だ?お前らこれが欲しいのか?」

「デボラの店で売ってるぞ。バンガーだっけ?」

「違いますよ、フィンさん。ハンバーガーです。デボラ以外にも、フランツさんのお店でも売っています」


 そう説明したのは、黒髪の少年冒険者。

 あれ?こいつ、何処かで会った気がするけど…。

 よく見ようと目を凝らすと、その少年にハゲが管を巻く。


「おう。そうだったな、クロード。お前が考えたんだっけ?」

「いえ、僕ではなく。故郷の名物料理でして」

「片手で食えて最高だぜ、クロード。ワイン片手に楽しめるからなぁ」

「ちげぇねぇ!」

「「「ガハハハハ!」」」


 ぐっ。片手で料理を食すとは、何と野蛮な。高貴な我々では、死んでも真似したくない。

 でも、今はそれが流行っている様子。街の至る所で、それを手に持ち食べる庶民の姿があった。

 

 下民の姿に嫌気を覚えていると、マッテオが嘆いた。


「ダメだ。どこもこの料理で白パンを使ってて、在庫が無くなっているんだ。このままじゃ、イリーナ様には黒パンを出さなきゃならなくなる。そうなったら、僕は破門だ」

「お前らはまだ良いぜ」


 今度は、先輩のヴィサンが足音荒く近付いてきた。


「香がねぇんだ。何処を探してもな。ベルマン商会も、ルミナのは全部売れたの一点張りで」

「先輩もですか」


 慰める様に言うと、先輩はキッと睨んできた。


「お前らと一緒にするな!香がなけりゃ、歓迎の儀式が始められねぇ」

「白パンだって一緒ですよ!」

「うるせぇ!先ずは俺を手伝いやがれ!」

「先輩こそ!」


 2人が取っ組み合いの喧嘩を始める。

 こんな事をしていたから、誰も買い出しから帰って来なかったんだ。

 こんな事をしている場合じゃないのに。


 頭を抱えて絶望していると、それに追い打ちをかける声が響いた。


「勇者様だぞ!勇者様とイリーナ様が、東門からいらっしゃったぞぉ!」


 ああ、終わった。

 俺は、その場で崩れ落ちた。

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Bランクの勇者生徒まで馬車に乗せてもらえてるのは厚遇なのか、飢民集団的な恥を晒されると迷惑なのか… これは…正しき心?を持った貴族・クロヴィス男爵がロビン・フッド的象徴として声望を集めるパターン?w…
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