20話~これがその結果です!~
回復薬の値段を下げる為に、俺は多額の資金を投じた。全てイリーナ達が溜め込んでいた金で、相当な額になる。
それを全額投じたので、クエスト報酬も破格の物にすることが出来た。だから、今朝にはクエストの奪い合いが起きているだろう。
そんな期待を込めてギルドに来ると、薬草採取クエは1つも受注されていないと聞かされた。
なっ、なんで…?
俺は立ち尽くす。
まさか、教会の圧力が掛かったか?
そんな不安が頭の中を過った時、後ろから声を掛けられた。
「そのクエストは受けるな、クロード」
誰かと思って振り返ると、白っぽい簡素な布を着た男が立っていた。
一瞬、修道士かと思ったが…。
「フィンさん」
その人は、冒険者仲間のフィンさん。スタンピードで大怪我を負って、それからは暫く顔を見ていなかった。けど、歩けるくらいには回復したみたいだ。
そんな彼は、自分の腹に手を当てて首を振った。
「薬草が多く生えているのは東の森だが、あそこは危険だ。生息しているのはゴブリンだけじゃねぇ、オークや、オーガの鳴き声も聞いた。実際に入った俺達だからよ~く分かんだよ」
「あっ…」
そうか。フィンさん達はそこで、魔物に襲われスタンピードを起こしてしまった。ここに居るみんなは、それを知っている人達だ。
あの森がそれだけ危険だという認識で、止まってしまっているんだ。
あそこは既に、俺が全部討伐した後だけど、それはギルドに報告していないからな。脅威が消えた事は、俺しか知らない。だから、みんなクエストを受けてくれないのか。
やっちまった。俺の尺度で計画を組んでしまった。
考えが至らなかった事を反省していると、フィンさんが俺の肩に手を置く。
「俺はお前が居たから、命を救われた。けど、こんな奇跡は二度と起こらない。その恩に報いる為にも、俺は全力でこの危険な任務を阻止するぜ」
「あぁ…」
フィンさん、変な使命感を持っちゃってる。余計にみんな、採取クエを嫌煙する訳だ。
どうするか…。
俺は考える。
どうやって、みんなにクエストを受けて貰う?もっと金を詰んだとしても、危険に飛び込むとは思えない。
となると、危険では無いことを証明するしかないが…。
「どうすんの?何か、別のクエストを受ける?」
カウンター前で固まる俺に、クレールさんが問いかけてくる。彼女の後ろには、薬草クエの発注書が山積みで放置されていた。
くっ…背に腹は代えられないか。
俺は覚悟を決め、背を伸ばした。
「クレールさん。魔物素材の清算をお願い致します」
「清算?何か狩ってきたの?」
「はいっ!」
俺はハキハキと答え、マントをバサリッ!とはためかせる。そうやって、周囲の注目を集めた。
そうだ。見てくれ。今だけは、俺のすることをしっかりと見届けてくれ。
普段は目立たないように立ち回るので、背に刺さる視線が気持ち悪い。でも止めない。俺は腰に下げていた袋に手を突っ込み、そこに亜空間を開く。次に手を引き抜いた時、そこには大量の魔石が掴まれていた。
それを、カウンターの上に降らせる。魔石のシャワーに、クレールさんが眉を上げる。
「あんた…これ…」
「森で狩ってきました。魔物の魔石です」
「「「えっ!?」」」
クレールさんだけでなく、周囲の冒険者も驚き声を上げる。近づいて来て、カウンターから転がった魔石を拾い上げて光に翳す。
本物かどうかの、鑑定が始まる。
そして、
「本物だ。本物の魔石だ!」
「血がこびり付いてる。こりゃ、どっかで買ってきたもんじゃねぇぞ…」
「おい!こっちの濃いのはCランクの魔石だ!ゴブリンやオークじゃねぇ。こいつはオーガのだ!」
ガヤガヤと、冒険者達の声は時間が経つにつれて大きくなり、酒場で飲んだくれていた奴らまで集まり出した。
そんな中、クレールさんが鋭い目で俺を見て来る。彼女の手には、一層濃い色の魔石が握られていた。
「あんた…これをどうやって手に入れたのよ。本当に森の中に入ったっていうの?」
「はい。東の森へ入り、全て狩りました。またスタンピードが起きるのは懲り懲りでしたので、やられる前にやってやろうかと」
そう言いながら、俺はマントを外す。それを、床の上に広げた。
魔石だけでは疑われると言うのは、前回で学んだからね。ここまで来たら、しっかりとみんなには理解してもらおう。
俺が森の魔物を狩り尽くしたことを。もう森が安全であることを、広く知らしめてもらうんだ。
その為の、アピールだ!
「そして、これがその結果です!」
俺は、マントの中に亜空間を開く。そこから、あの日狩った全てを吐き出す。
ゴブリン、オーク、オーガの死体を山と積む。仕上げとばかりに、その山頂にはオーガの亜種を添えた。
目と口を大きく開けたみんなが、それを見上げる。
「ゴブリン、オーガ、ブルーオーガまで…」
「この、ゴブリンの足に付いてる赤土。確かにこれは森の土だ」
「この量を、どうやって…」
みんながこっちを見て来る。なので、俺は大きく頷き、魔物の山を手で示す。
「はいっ!これが、東の森に居た魔物の全部です!もうあそこに、脅威はありません!これがその証拠です!」
「「おぉおお!!」」
冒険者達は歓声を上げた。確かな証拠を見て、目の色が変わる。
そして、踏み出す。危険と思って踏んでいた二の足を、前へと進める。
「クエストを受けさせてくれ!薬草の奴だ!」
「俺も受けるぞ!」
「俺も!俺も!」
カウンターに殺到する冒険者達。一度流れが出来てしまえば、みんながそれに乗っかる。さっきまで俺の方に「どうやって倒した?」という疑念の目を向けていた冒険者も、損をしたくないと波に乗る。
そして、見事クエストを受注した冒険者は脱兎のごとく駆け出した。
「急げ、急げ!」
「月光草で大金持ちだ!」
あっという間だった。気付けば、ギルドはもぬけの殻。なんとフィンさんまで、受注書を引っ掴んで行ってしまった。さっきまで「阻止するぜ」ってドヤ顔してたのに…現金な人だ。
まぁでも、これでやっと作戦が始まる。後は彼らが帰って来るのを待つだけ…。
「ちょっと、あんた」
俺も帰ろうとすると、呼び止められる。振り返ると、クレールさんがジト目でこちらを見ていた。
そのまま、魔物の山を指さす。
「これ、ちゃんと説明しなさい」
「…はい」
やっぱり、見逃してはくれないよな。
それから暫く、俺は詰問を受けることとなった。
「そっかぁ。大変だったね」
数日後のお昼。俺はまた、マダムのレストランに来ていた。そこで昼食を取っていると、シアさんが駆け寄って来た。
一緒に変装した仲だからね。俺の作戦が気になったらしい。
なのでギルドの話をしたら、シアさんが労いの言葉を掛けてくれた。
そいつは有難いんだけど、座っていて大丈夫?まだお仕事中でしょ?
「それで、どうなったの?」
「ああ。まぁ、ギルドの方は、比較的直ぐに解放されたよ。ブルーオーガ以外の素材も、買い取ってくれたし」
亜空間の事を聞かれるかと思ったけど、結局再鑑定するだけで終わった。そこで無能である事を再認識すると、クレールさんもギルド職員達も渋々引き下がった。
冒険者は実力主義だからね。狩りのやり方とかまでは、追求しない様にしているらしい。それが最大の商売道具だからと。
「それじゃあ、薬草は集まったの?」
「ああ…(小声)随分と集まってきた。順調だよ」
気合いの入った冒険者達は、日夜薬草採取に励んでいる。長年冒険者をやっているからか、採取状態はとても良い。月光草を何株も採ってくる猛者もいた。
そうして集められた薬草は、クロヴィス男爵に変装した俺が回収し、ベルマン商会に卸している。卸すと言っても、殆どお金は取らない。その分、回復薬の価格を下げる様に言っている。
「もう少ししたら、格安の回復薬が出回るよ。最初は冒険者や衛兵を中心に売らせて貰うけど」
ベルマン商会にはお抱えの薬剤師も居るからね。トドに搾取されずに回復薬を市場に流せる。
医療費が高くとも、取り敢えず回復薬が出回れば冒険者も衛兵も動ける様になる。街も正常に動き出すだろう。
「そっか。でもやっぱり、お医者さんは高いままなんだね…」
シアさんが俯く。
うん。確かにそうだ。医者の方も下げないといけない。そもそも、このままトドが黙っているとも思えないから。
こちらから何か、仕掛ける必要があるだろう。あいつがまた何か、良からぬ事を働く前に。
「俺も、何か良い手が無いかは考えているんだがね…」
「そっか。分かった!」
シアさんが胸を叩く。
「あたしも考えるよ!お客さんから、いっぱいお話聞いて」
「おお。そいつは助かる」
飲食店は様々な人が集まるからね、酒場並に情報を得やすいだろう。ここは酒の提供もしていることだし。
「なら俺も、本腰を入れるか」
「こし?」
不思議そうに聞いてくるシアさんに、俺は「こっちの事」と誤魔化して仕事へ戻るように促す。
そして、その日の深夜。
俺は亜空間の中に居た。そこから、教会の支部を覗く。夜遅くと言うのに、煌々と灯りが灯るその部屋の隅で目を光らせていた。
そこは、
「なんだ!この報告書は!」
トドの部屋だった。
トドは怒って、部下の修道士に向かって羊皮紙を投げ付けていた。
何が書かれているんだろう?流石にここからだと読めないな。
中身が見えないかと目を凝らしていると、それを修道士が拾ってしまう。
震える声で、彼は弁明する。
「ですが、ブルトッド支部長。これが現状なのです。医者に掛かる者がめっきり減ってしまい、今月の収益は大幅に下がる予測でして…」
「バカ者が!儂は、その理由を聞いておるのだ!」
「理由としては…その…安い薬草が出回っているようで…」
「なんだとぉ!?!」
トドは真っ赤になって怒鳴り散らす。どうしてそうなった、誰の差し金だと、矢継ぎ早に修道士を詰問する。
そうして全てを聞き出すと、持っていた金ぴかの扇子をグギギと折り曲げる。椅子から降りて、たるんだ頬を震わせながら指を振る。
「今すぐその、クロ何とかという男爵をここに呼び出せ!神の名のもとに、儂が処刑してやる!」
「それが、そんな人物は街の何処にも居なくて…」
「だったら、それを売買している商会を潰せ!神を冒涜したとかなんとか言って、この街から排除するのだ!」
「そんなことしたら、街から何もかも無くなってしまいます!街の流通の大半を、あそこが担っているのです」
ほぉ。そんなに大手だったのか、フランツさん。
俺が胸を撫で下ろしていると、トドは脂肪だらけの頬を引き上げる。
「ならば、冒険者から税金を取るのだ。商人と同じ様に、採取した薬草にも多額の税を掛けろ」
「ええっ!?冒険者にですか?そんな事をしたら、この街の冒険者は居なくなってしま…」
「それがどうした!」
トドが吠える。
「冒険者などと言うゴミ屑は、居ても居なくても同じだ!それより金だ。金が無くなる方が問題だ!奴らが違法に手にしているのは、儂の金だ。儂が得る筈だったものが、下民共に流れておるのだ…」
「支部長…分かりました。ですが、かなり時間は掛かるかと。冒険者ギルドも大きな組織。そこの仕組みを変えるとなると、先ずはギルド本部と領主、それから国王陛下の許可が必要に…」
「これを使え」
トドはドシドシと絵画に近付き、その一部に手を添える。すると、そこがガコッと奥に押し込まれ、壁の一部が空いた。そこに入っていた宝箱を空けると、中からは金貨が溢れんばかりに入っていた。
そんな所に隠し金庫が。
「こいつで領主と役人を買収しろ。外まで手を回す必要は無い。それで、一月の内に法を変えるのだ」
「そんな…バレたら大変なことになりますよ?ギルドにも。それに、イリーナ様にも…」
「大丈夫だ。儂に考えがある」
トドはそう言い張って、修道士を下げさせる。
彼が出て行った扉を見て、トドはニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「もしもバレたら、お前がやったことにすればよい」
…どうやらそれが、トドの秘策らしい。
呆れる俺の前で、トドは隠し金庫の金貨を掬い上げる。
「お前ら下民の代わりなど幾らでもいる。お前らは勝手に沸いて来る蛆虫だからな。だが儂は違う。儂はこのような下賤な世に居てはならん。もっと高みへ行かねば。正しい世界に。その為の金だ」
ほぉ。こいつの目的は、ただの金集めじゃないのか。
俺は、出そうになっていた手を引っ込める。見つけた金貨を全て奪ってやろうと思っていたが、止めた。
それでは同じだ。こいつは、また金集めに奔走する。今より酷い仕打ちを、街の人達に強いるだろう。
別の方法が必要だ。何かもっと別の方法で、こいつを陥れなければならない。




