10話~荷物はあちらです~
依頼主の元に来たら、スキルも筋力も無い奴は帰れと言われてしまった。
一瞬、本当に帰っても良いのでは?と考えてしまう。
亜空間には物資も金貨も大量にあるからね。正直、働かなくても遊んで暮らせるレベルだと思う。
でも、それで良いのだろうか?社会的に繋がりを持たねば、動き辛いことも多々ある。人と繋がらねば、得られぬ情報もあるだろう。
俺はこの世界に来たばかりなんだ。教会の偏った書物だけでは、この世界は見えてこない。しっかりと仕事をして、アンテナを立てないと。
そう言う意味で、冒険者を続けるべきだろう。色々な仕事を通して、世界と人と繋がれる。
そう考えた俺は、ギルドから渡された紙切れを両手で持って、お兄さんに差し出した。しっかりと、頭も下げる。
「お願いします!一度、私を試して下さい。それでお眼鏡に適いませんでしたら、私も引き下がります。勿論、お代は頂きません」
「タダで?あ〜…それならなぁ」
青年は腕を組み、唸り出す。どうするべきか考えている様子だった。
そして、閉じていた目を開ける。「よしっ」と小さく頷いて、俺を手招きする。
「なら良いけど…マジで使えないと思ったら、速攻で叩き出すぞ。あと、商品壊したら弁償な」
「承知しました!」
お兄さんに連れられて、俺は倉庫へ入る。随分と埃っぽいその場所には、大量の木箱が積まれていた。
「この木箱に、そこの商品を詰め込んで、入口の前に積む。それの繰り返しだ。商品は重いから気を付けろ?地面に落としても弁償だし、お前が怪我しても俺は知らねぇからな」
「了解です!」
返事をすると、お兄さんは「んじゃ、頑張れよ」と言って出て行ってしまった。亜空間を開いて見てみると、彼はまた路上で喫煙を始めていた。
この人、依頼主じゃないかもな。俺の仕事ぶりも見ずに放置するなんて。
でも、ベルマン商会の人に間違いなさそう。胸に商会のロゴバッチが付いてるし。
現場の社員って感じかな?
俺は監視用の亜空間を閉じ、倉庫を見回す。入口や間口から太陽光が入ってきているけど、それ以外は比較的薄暗い。これなら、亜空間も開きやすいだろう。
そうは思うも、俺は念のため頂いて来たカーテンを取り出し、それを商品に掛ける。カーテンで日を遮断し、裏側に完全な闇を作り出す。
さて、やりますか。
俺はカーテンの中に亜空間を開き、商品を次々に呑み込んでいく。
物の数秒で全てを呑み込み終わると、今度は木箱の上にも同じ様にカーテンを被せる。次は逆で、木箱の中へと商品を吐き出して行く。
そうして、1分もしない内に、商品の移動は完了した。木箱の移動も、同じ様に亜空間を使ってちゃっちゃと終わらせた。
「先ずは1つ、完了だな」
忘れ物は無いかを確認してから、倉庫を出る。そして、馬とにらめっこしていたお兄さんに近付く。
すると、お兄さんが振り返って、ニヤリと笑った。
「どうだ、分かったか?社会の厳しさってのがよ。まぁスキルも無いんじゃ、この先は冒険者すらやっていけねぇだろ。諦めて家の手伝いでもして…」
「あの、済みません。次の任務を頂けませんでしょうか?」
「……えっ?次?」
ポカンと口を開けたお兄さんに、仕事が終わったことを報告する。すると、彼は嘲笑を浮かべて首を振る。
「嘘はいけねぇな。嘘は。そんなバレバレな嘘、見たら一発で分かっちまうんだからよぉ」
そうヘラヘラ笑いながら、倉庫の方へ向かうお兄さん。そのまま、入口で固まる。
口をあんぐり開けた。
「はぁっ!?おまっ、商品を何処へやった!」
怒りの形相で振り返る青年。
それに、俺は入口の横を指さす。そこには、木箱が綺麗に積み上げられていた。
青年が慌てて木箱に駆け寄り、中を確認する。そこに商品が格納されているのを見て、目を点にした。
「嘘だろ…?これ…全部もう…終わって…?」
いつまでも帰って来ない青年。
俺は痺れを切らし、彼の肩を叩く。青い顔の青年を急かす。
「それで?次は何をしたらいいんです?」
「あっ、えっと……こっちだ」
そうして次に案内されたのは、更に大きな倉庫。麻袋に入った商品が積まれており、これを全部荷馬車に移すんだとか。
荷馬車は面倒だな。幌が掛かっているけど、もう太陽も上がっちゃったし。
それに…。
「ほら、早くやってみろよ」
今回は青年も監視するつもりらしい。俺の背後で腕を組み、目を皿のように開いていた。
やり難いな。異能を見せても良いんだけど、どんな人か分からないから怖いな。利用しようとして来たり、亜空間の弱点に気付かれたら困る。
ここは…なんとか欺くか。
「よっと。おもっ…」
俺は麻袋を素手で持とうとしたが、かなりの重量だ。ゴロッとした感触は、根菜類っぽい気がした。
食料か。慎重に扱おう。
俺は袋の下に小さな亜空間を開き、直ぐ近くに出口を作る。腕相撲と同じ要領で、出口は入口と同じ方向に付ける。そうすると、袋の自重で袋が押される。
そうして、俺は袋を5つほど重ねて馬車へと向かった。
青年はまた、顎が外れそうな程に口を開けた。
「おまっ…なんちゅう馬鹿力してんだよ。1袋で俺と同じくらいの重さだぞ?それを、5つって…」
「ええ。ですので、先ほども手早く仕事を終えることが出来たのです」
「ああ、なるほ…いや、それにしても早すぎじゃね?」
青年は首を傾げ、俺を凝視する。まるで鴨のヒナの様に、俺の背にピッタリくっ付いてくる。
良い食い付きだ。そのまま、振り返るなよ?
俺は彼が見ていない内に、倉庫の中に亜空間を開く。その中へと、麻袋のタワーを次々と飲み込んでいった。
俺達が倉庫の入口を出る頃には、倉庫内はスッカラカンになっていた。
搬出作業終了。次は積み込み作業だ。
「お兄さん。ここに乗せていけば良いんですよね?」
「ああ、そうそう。そうやって、偏りが出来ない様にしてくれ。偏ると馬車の車輪がダメになる」
偏荷重って奴だな?重い荷物だし、気を付けよう。
俺は麻袋を置くと、荷台の上にマントを広げる。それを、他の荷台にも行う。
お兄さんが首を傾げる。
「何やってんだ?」
「荷台が傷付かない様にと思いまして」
俺が嘘を付くと、青年は「はぁ…」と理解できない様子だった。
引越しとかでやらないのかな?この世界。
それは置いておくとして…。
「さぁ、最後の仕上げです!」
俺はそう言って、小走りで倉庫へ戻る。青年も慌てて付いてくるが、空の倉庫を見て飛び上がった。
「はぁ!?無くなってる?!」
倉庫の中へ飛び込み、荷物があった場所を調べる青年。
その間に、俺は置いてきた各マントの下に亜空間を開く。麻袋を積み、マントを収納する。
積み込み、完了。
「荷物はあちらです」
俺が手で荷台を示すと、青年は口を開けたまま外へ飛び出す。
そして、
「えぇええぇええ!?」
早朝だと言うのに、大絶叫するのだった。
「ある…ある、ある。全部、中身がある」
それから暫く、青年は荷台の上のチェックに明け暮れていた。あまりの超常現象に、俺が何かズルをしているんじゃないかと疑っているのだ。
でも、何処を調べても荷物は積まれている。青年は何も言えなくなっていた。
そんな時、
「おい、ロイド!馬は準備出来てるのか!」
大声がして、見ると大勢の男がこちらへと歩いてきていた。先頭に立つ男は身なりも良く、胸には青年よりも大きく立派なロゴバッチが輝いていた。
現場のボスかな?後ろのゴツイ男性達は、荷運びの労働者っぽい。
「フランツさん!」
ロイド青年が荷馬車から飛び降り、青い顔でフランツと呼ばれた男性に駆け寄る。
「あの、実は…」
「何だ?何をやらかした?」
フランツさんが拳を摩る。
それに、ロイドがブンブン首を振る。こちらを…荷馬車を指さす。
「やらかしてないっすよ!寧ろ、もう荷積みまで終わってるんです!」
「何が終わっているだ。寝ぼけるのも大概にしやがれ。大の大人が10人がかりで、昼までかかる作業だぞ」
「ホントですって!」
ロイド青年は必死に馬車を指さし、フランツさんは面倒臭そうにそちらへ近付く。でも荷台を見た瞬間慌て出して、中身を確認すると荷台から飛び降りた。
そのまま、ロイド青年に詰め寄った。
「どうなってやがる?まさかおめぇ、追加で労働者を雇ったのか?」
「雇ってないっすよ。来たのは、フランツさんが呼んだ冒険者だけです」
「冒険者だぁ?」
そこで漸く、フランツさんは俺に気付いた様子だった。
俺は背筋を伸ばして、一礼する。
「初めまして。Eランク冒険者のクロードです。バンドンさんから推薦を頂き、参加させて頂きました」
「バンドン?…ああ、あの筋肉オーガか」
バンドンさん。また新たなあだ名が…。
「なるほどなぁ。あのCランクが認める冒険者って事は、Eランクでもかなりレアなスキルを持ってんだろうな」
「いえ、僕はスキル無しで…」
正直に明かすのだが、誰もそれを信じようとはしない。フランツさんは「ああ、そういう事にしといてやる」と言って、ギルドからの紙切れに何かを書き込み、俺に返してくれた。
見ると、紙には〈AAA〉の文字がデカデカと書かれていて、裏には小さい字で〈完璧な仕事だった〉という旨が皮肉混じりに書かれていた。
やったね。高評価だ。
「おめぇ、クロードとか言ったな?とっとけ、今回の礼だ」
フランツさんはそう言って、ちょっと大きめの銀貨をくれた。大銀貨って奴だろうか。価値は分からんが、大金な気がする。
俺は深々とお辞儀する。
「ありがとうございます!また是非、お呼びください!」
「おう。体、空けとけよ」
言うが早いか、フランツさん達は馬車に乗り、大通りを駆けて行った。
早いな。流石は商会の人間だ。
俺も彼らに倣い、足早に冒険者ギルドに戻った。
そして、カウンターの前へと来たのだが…。
「なに?今更、怖気づいたってこと?」
不機嫌だったクレールさんが、物凄い不機嫌な顔を向けて来た。
恐ろしい。
俺は慌てて首を振り、粛々と紙切れを提出した。
それを、クレールさんが見下ろす。
「なに?これ?」
「完了報告書です。フランツさんから頂きました」
俺がそう言うと、彼女はニコッと口元だけ笑う。
でも、その目は今にも爆発しそうな程に怒りを孕んでいた。
「覚えておきなさい。半券にはね、特別な魔法が掛けられているの。あんたみたいな奴がズルをしないように、思い出しの魔法がね」
そう言うと、クレールさんは腰から杖を抜いた。その先を紙に向けると、紙からシュワーッと白い煙が噴き出した。
ほぉ。これも魔法か。前川の奴よりも、神秘的で綺麗な魔法だ。
感心している間にも、煙は集まり始めて形を作る。1人の男の姿を作り出した。
これは…フランツさんかな?もしかして、筆者の姿を映す魔法なのかも。
便利な魔法だ。
「…えっ?うそ…。本当に…?」
驚きすぎたクレールさんは、声が掠れて上手く喋れないでいた。
俺の方を向いて、「嘘でしょ?」とでも言いたげな視線を投げて来る。
嘘じゃないですよ。
俺は亜空間から大銀貨を取り出し、彼女に見せつける。
「ご理解いただけましたか?こちら、フランツさんから頂いたチップです。これも提出した方がよろしいでしょうか?」
「……」
クレールさんは何も言えず、ただ首をブンブンと横に振った。




