第93話 詰めの甘さが招く悲劇
「ガチャ様ー! どこですかー! ガチャ様ー! バッグの中のおやつのお肉の数が合わないんですがー。ガチャ様ー!」
ジゼと一緒に行った散歩から帰り、店の手伝いをするための準備をしているとアスターシアがガチャの散歩バッグを持って戻って来た。
それまで散歩に満足してまったりと床に丸まっていたガチャが、『ヤバい』という顔をして、隠れるように俺の座っていた椅子の隙間に隠れた。
同じようにジゼも『マズい』という顔をして、そそくさと店の方へ歩き始めている。
どうやら二人で共謀して、おやつのつまみ食いを敢行したらしい。
散歩前にたらふく食ってたのに、おやつのお肉食べられるガチャの胃袋は最強すぎるだろ……。
「あっ! ジゼ君、ガチャ様は見ませんでしたか?」
アスターシアに見つかったジゼがうろたえたように視線をこちらに向ける。
ジゼ、それはダメだ! バレてしまうぞ! 耐えるんだっ! このままではガチャのおやつ抜きの刑が確定してしまう!
視線が合ったジゼに『誤魔化してくれ』と念を送った。
「お、お店の方で見た気がしますよ。うん、そう。お店」
ナイス! ちょっとたどたどしいけど、これなら――。
背中に隠れているガチャがブルブルと震えているのが伝わってきていた。
「お店ですか? さっき見てきたんですけどね……。すれ違いでしょうか?」
アスターシアからの視線に晒され、ジゼの表情が曇っていく。
「そ、そうなんですねー。ガチャ、どこいったのかなー」
ちらちらとジゼが俺に助けを求める視線を送って来た。
そんなにチラ見されたら――。
アスターシアの視線が今度は俺に向いた。
「ヴェルデ様は、ガチャ様を見かけませんでしたか?」
背中でガチャがビクンと動く。
おやつ抜きの刑に恐れおののいているらしい。
アスターシアには、ガチャの健康を考えておやつの管理をしてもらっている。
おやつを黙って食べたガチャが悪いんだが……。
怒られてしょぼくれるガチャを見るのは心が辛い。
それならば――
「あー実は、それ。俺がつまみ食いしてたんだ。散歩で小腹が空いてさ。ガ、ガチャが食べた訳じゃないぞ」
アスターシアがジッと俺の瞳を見つめてくる。
隠蔽看破は、俺の嘘も看破してくるんだろうか。
ドキドキしながら、無言の時を過ごす。
「そうなのですか……。わたしはてっきりガチャ様がつまみ食いしたのかと思っておりました。そうですか、ヴェルデ様でしたか」
「ああ、黙ってて悪かったな」
俺とアスターシアのやり取りを聞いていたジゼが安堵したように大きくため息を吐く。
背中に隠れているガチャからも安堵の吐息が感じられた。
なんとか誤魔化せたっぽいな。
誤魔化せたことを察したガチャが、椅子と俺の背中の隙間から抜け出し、アスターシアの前に姿を現す。
「おや、ガチャ様。そんなところにいたのですね。そろそろお店の手伝いをしますので――っ!?」
ガチャを抱き上げたアスターシアの顔色が変化した。
「ガチャ様……」
アスターシアが抱き上げたガチャの口元には、しっかりとおやつの肉の欠片が張り付いているのが見えてしまった。
ガ、ガチャぁああああああっ! そ、それは誤魔化せないぃいいいいんっ!
俺とアスターシアとジゼの視線が交差する。
ガチャだけが自分の状態に気付いていないらしい。
ガチャ、すまねぇ。それはさすがに……。誤魔化せねえぇ!
「ガチャ様、コレなんですかね……。コレ」
アスターシアが圧の籠った声で、抱き上げたガチャの口元にあった肉の欠片を手にしていた。
ようやく事態に気付いたガチャが、アスターシアの手の中でガタガタと震えはじめる。
「アスターシア。それは、何かの間違いであって――」
「ヴェルデ様、今はガチャ様に聞いてますので、口出しを控えて下さい」
有無を言わさない圧に、俺もジゼも声が出なかった。
ガチャ、すまねぇ……。何もできねえよ……。
「ガチャ様、さきほどはヴェルデ様がつまみ食いをしたと言われていましたが、本当にヴェルデ様ですか?」
ガチャはこちらを向いてカタカタと震え、この世の終わりみたいな表情をした。
「つまみ食いをしたのは、ガチャ様で間違いありませんね?」
もはやこれまでとガチャは観念したようで、コクコクと頷く。
「では、今日のおやつは抜きにします。よろしいですね」
おやつ抜きの刑を宣告されたガチャは、ぐったりとアスターシアの腕の中で倒れ込んだ。
守ってやれなくて、すまねぇ……ガチャ……。今度はちゃんとほっぺた確認してから誤魔化すからさ……。
「取り込んでいるところ悪いが、ヴェルデ、あんたに客が来てるぞ」
ガチャのつまみ食いの件が悲劇的な結末を迎えたところで、店に出ていたヴィーから声がかかった。
「俺に客ですか?」
「ああ、若い女っぽいが、ここらへんでは見かけたことない人だぞ」
若い女? 俺にそんな知り合いはいないと思うが……。
「ヴェルデ様のことを知ってる人だとすると冒険者ギルドの関係者ですかね?」
ぐったりしたままのガチャを抱えたアスターシアも首を傾げていた。
「悪いがその客の対応してくれ。ヴェルデを出せってうるさいんだ」
「すぐ行きます」
俺は店に出る身支度を整え、客に対応することにした。








