第88話 海洋洞窟型ダンジョンの探索
リスタルポートに来て、一週間があっという間に経った。
俺たちは第二探索者ギルドで紹介された未調査ダンジョンの調査討伐依頼をこなしつつ、探索が休みの日はヴィーの店の用心棒兼店員をしている。
調査探索依頼はFランクかGランクしかないが、そこそこ依頼の数は多い。
1日2~3件の依頼をこなし、ボス討伐で得られる金色コインもそこそこ貯まり始めていた。
低ランクのため探索者ギルドから支払われる褒賞は微々たるものだが、ガチャからスキルを得られる金色コインは、俺にとってはお金以上の価値を持つ。
「さて、今日も仕事をしますか」
「今日も潜る場所がありそうですね」
「だな。ヴィーのところで水着を買って正解だった」
「水中呼吸のポーションは呼吸はできるようなりますけど、装備が濡れますからね」
リスタルポートは、今日俺たちが攻略する予定の海洋洞窟型のダンジョンがめちゃくちゃ多い。
海洋洞窟型は入り口は海岸の崖とかに発生してて、ダンジョンの一部が水没しているタイプのため、海中に潜ることが多い。
最初に攻略した時、装備を付けたまま潜ってしまい、濡れた装備の手入れに手間を取られたため、以降は潜る時は装備を外している。
装備を外すのは危険かと思われたが、低ランクのため水中に魔物が出ることは今のところなかった。
俺はダンジョン調査用の黒い板に触れ、調査モードを起動させると、崖にできたダンジョンの入口に入っていく。
少し奥に進むと通路が水没しているところに突き当たった。
光球の指輪の照らし出す空間は奥の方まで続いている。
「早速潜らないといけないらしい」
「あたしの準備はすでにできています。ヴェルデ様もお支度を」
すでに装備を外し、水着姿になったアスターシアが背負ってきた袋を開いていた。
装備を袋に詰めて、俺の空間収納に突っ込んでおけば濡れずに済んで、取り出しもしやすい。
俺もすぐに装備を外し、衣服を脱いで潜る準備を整えていく。
「水中呼吸のポーションも忘れずにお飲みください。ガチャ様はお皿に出してありますよ」
アスターシアが差し出してきたポーション瓶を受け取ると、中身を一気に口の中に入れた。
少し匂いがきつく苦いが、溺死するよりかはマシなので、そのまま飲み干す。
ガチャも皿の上のポーションを飲んでいるが、俺と同じ感想らしく、レバーが左右に勢いなく揺れていた。
「ふぅ、まずい。でもこれで準備は万端」
「効果時間の十分前に点滅するようにしてあります。光ったらいつもどおりに浮上した方がいいですよ」
「ああ、わかった」
アスターシアが首からかけていたのは、ダンジョンの討伐褒賞で手に入れた魔導時計だった。
時刻を知るための時計でもあるが、設定した時間を過ぎると光って教えてくれる機能も付いているものだ。
水中呼吸のポーションの効果時間が切れるが、分からないまま潜るのは危険だと察し、毎回カウントダウンタイマーを設定している。
「よし、いくか」
「はい、ガチャ様はあたしと一緒ですよ」
ストップウォッチのカウントダウンが始まっており、俺は装備を詰めた袋を空間収納にしまい込むと、命綱を手に水の中に飛び込む。
水の中はたいして濁っておらず、視界は良好だった。
呼吸は先ほど飲んだ水中呼吸のポーションの成分が、水中の酸素を肌から取り込んでくれるらしく、苦しさを感じることなく移動できる。
懐中電灯と繋いである命綱がグイグイと引かれたため振り返ると、アスターシアたちがちゃんと掴んでいるのを確認して先に進んでいく。
こうしておかないと、声が伝わらない水中ではぐれる可能性があるとヴァン爺から教えてもらい実践していることだった。
懐中電灯で先を照らしながら、水中を泳ぎ、ダンジョンの先を目指していく。
しばらく進むと、命綱が大きく引っ張られた。
振り向くと、アスターシアが水底に何かを見つけたらしく、自分の光源として新たに買った水中でも使える懐中電灯で、ある場所を指している。
俺に見えないってことは隠蔽されてるやつか。
ホーカムの街で低レベルダンジョンを回ってた時、隠蔽された宝箱を見つけたことがあるが、稀に見つかる程度だったはず。
いいものだといいけどな。
宝箱を見つけたアスターシアに場所を誘導してもらい、水底の何もない空間に手を触れると、鑑定スキルが発動した。
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隠蔽された鉄の宝箱
耐久値:150/150
罠:なし
状態:無施錠
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鉄の宝箱か。隠蔽されてはいるけどランク的にあまりいいものは入ってなさそうだ。
宝箱の蓋を開けると、大きめの魔石が二つ入っているだけだった。
アスターシアは落胆した様子を見せたけど、大きめの魔石なので一個五〇〇ゴルタくらいの値は付くと思われる。
中身を回収すると、再びダンジョンの奥を目指して泳いでいく。
やがて水深が浅くなり始め、水面が見えてきた。
「ふぅ、通り抜けたらしい」
すぐさま空間収納から、装備を詰め込んだ袋を取り出し地面に置く。
「ガチャ様、すぐに濡れていない布を出しますので、少しだけ待ってくださ――」
アスターシアの制止を聞かず、地面に降りたガチャがブルブルと身体を揺らして飛ばした水滴が俺たちに被弾する。
まぁ、これは海洋洞窟型ダンジョンの探索をするようになって、恒例行事なんだが、俺も濡れているから問題ない。
顔面に飛んできた水滴を拭うと、奥からの物音が聞こえてきた。
どうやら魔物が俺たちのことを待ち受けていたらしい。
「アスターシア、悪いがガチャのこと頼む。ちょっと片付けてくる」
「は、はい。装備は……」
「付けてる暇はないな。先に片付けてくる」
俺は袋から打刀だけ取り出すと、物音のする方へすぐさま駆け出していった。
光球の指輪の作り出した明かりが、空間の奥を照らし出していき、うごめく魔物の正体を浮かび上がらせてくる。
鋭い爪先を持った蟹の群れが、光源を持つ俺の方へ向かって進んでくるのが見えた。
「海洋洞窟型ダンジョンで初めて出てきた魔物だな。蟹っぽいし、まさに海の魔物って感じだ」
蟹たちは俺を餌と認識したようで、鋭い爪を威嚇するように開き、速度を上げて襲ってきた。
「1、2、3、4、5体か。動きもそこまで早くないし、爪だけ気を付ければっ!」
ファイアボールのアイコンを意識すると、視界に発動範囲のターゲットサイトが浮かび上がる。
空間はそこまで広くないから密集しているし、多重発動で一気に殲滅すれば、数で押されて攻撃されることもないはずだ。
すぐに発動場所を決め、両手を前に突き出すと、魔力が自動で消費され、火の玉が生成されて一段と明るくなった。
「傷は負いたくないから、ちょっと派手にいく」
発動したファイアボールの火球が風切り音とともに飛んでいき、着弾点でボンッと弾けると、周囲にいた蟹たちに火をまとった爆風を食らわせていく。
俺を食べようとしていた蟹たちは、なすすべもなく黒焦げになっていた。
光の玉が俺やガチャたちの居る方へ飛んでいくと、宝箱が出現した。








