自由の代償と束縛 7
「ゼロ様は娘の覚悟を無にするつもりですか?」
堪らずファーストが横から言葉を挟む。
「覚悟。覚悟ねぇ・・・。じゃあ、聞かせてもらうが、その覚悟ってのは何の為の覚悟ですか? 里の為に自分の気持ちを押さえ込んで生きていく覚悟ですか?」
「ええ、そうです。あの子だって苦しんで苦しんで出した答えです。どうしてそれを尊重していただけないのでしょうか?」
「決まってるじゃないですか。嫌だからですよ。」
「貴方は自分が納得できなければ、娘の気持ちを踏みにじっても言いと仰ってるんですか?」
「ファーストさん。少し黙ってて頂けませんか? 俺はファウナに話があります。もし、私の質問に全て彼女が答えてくれたなら、私は身を引くことを約束しましょう。」
「・・・いいでしょう。」
さて、これできちんと向き合える。
「ファウナ。まずは俺たちから離れるというのはお前の決断か?」
「はい。」
ファウナは力強く頷く。
「それは、離れたいと思ってのものか、それとも仕方なくか?」
「離れたいわけないじゃないですか!? この数ヵ月は私にとって正に夢のような時間でした。好きな人の側にいて大切な仲間たちと未知の土地を冒険して、私の凝り固まった価値観も思想も何もかもを壊して広い視野を与えてくれました。」
感情的なった彼女の目からは涙が溢れる。
「でも、里は私にとって、それと同等の価値があるです。どちらを選べと言われても選ぶことは出来ません。けれど、ゼロ様はたちは私が居なくても変わらずに過してくださると信じられる人たちです。でも、この里は・・・。」
「アホか!! お前が居なくなったら寂しいに決まってるだろ!! 変わらないはずなんてない!!」
「ありがとうございます。それでも、私はこの里を離れるわけにはいきません。」
このわからず屋め。
「それは、お前がケンタウロス族で初めて10本の矢を同時に操れるようになった天才だからか? それともお前が巫女になったからか?」
ファウナの顔が強ばり、周りからざわめきが起きる。
「その両方です。」
やはり、予想通りの事態が起きていたようだ。光の矢は巫女の力の譲渡、そして昇華した存在はファウナ事態が巫女になったから生命エネルギーの質そのものが変化したのであろう。
「巫女なんて俺たちの中では珍しくないだろう。弥生もサラサも巫女だし、今さら1人増えて3人になった所で『キャラが被った』って文句言うやつはいないはずだ。」
正直、サラサは言うかもしれないが・・・。
「そうですね。私も彼女らのように自由に生きられたら、どんなに素晴らしいかと思います。しかし、私には先祖様より引き継がれてきた約束があります。私の代でそれを違えることは出来ません。」
やはりそれが理由か。初代より引き継がれてきた使命、責任感が強く、ケンタウロス族史上最高の戦士。彼女が『それ』を放棄することはないだろう。
「では、これで最後の質問にする。これにきちんと答えられたら、約束が通り、この場を去ろう。だが、答えられなかったら、俺は意地でも動かん。」
「わかりました。」
「どうやって邪竜を倒すつもりなんだ?」
ファウナがの顔が引きつり、ファーストがファーネスを睨み付ける。
「そこまでご存じだったのですね・・・。」
そう言うとファウナはファーストの顔を見る。頷くファースト。
「ケンタウロス族の巫女の秘術を使います。」
「俺は詳しく歴史だの伝承だのと知っている訳じゃないので正確かは知らないが、前回、邪竜と戦った時は希望の民全てと龍族が手を取り合って戦ったそうだな。」
頷くファウナ。
「じゃあ、同じ質問を分かりやすく言おうか? 俺らが生きている間に蘇るかどうかもわからない邪竜を、『俺』一人も倒すことが出来ないケンタウロス族の皆さんと一緒に、効果があるかどうかもわからない託された力で立ち向かって、希望の民を団結させようって言う俺たちから離れるってメリットはどこにある?」
「メリットがあるかどうかなんて関係ありません。それが昔からの使命なんです!」
「理屈が合わないだろう。邪竜を倒すことが最大の使命なはずなのに他の部族と協力しようともしないで己の鍛練? どうせこの千年だか数千年だかの間に他の部族を見下し始めたんじゃないのか? 自分達は約束の為に鍛練と伝承を怠らず真面目に邪竜のことに取り組んでいるのに、他の部族はそれすら忘れて堕落してるってな。だから他の部族と手を組もうともせずに自分達だけで邪竜を倒してケンタウロス族の正しさを証明してやるなんて下らない思念に支配されるんだよ。そんなのは使命じゃない、只の呪いだ。」
「例えゼロ様でも私たちの誇りを汚すことは許せません!!」
「じゃあ、ここで俺を倒すか? 倒した後は? お前は自分さえ我慢すれば良いとかどうせ思ってるんだとけどなぁ、もし、邪竜がファウナの代で出てこなければ、次の世代に誇りを託すことになるんだぞ? その代でも出てこなけば、またその次の代に。それが呪いじゃなくてなんだって言うんだ。」
「じゃあ、どうしろって言うんですか? 私だって邪竜に勝てるなんて思ってませんよ。そもそもその存在自体怪しいとだって思ってますよ。でも、里のみんなは信じているんです。それを心の拠り所にしてるんです。私だってご主人様たちと外の世界を見なければ『それ』を信じていたはずです、だから・・・。」
言葉に詰まるファウナは。感情の高鳴りから私のこと、ご主人様と呼んでしまう程、冷静ではいられないようだ。
私は大きく息を吸いファウナに優しく問う。
「じゃあ、一緒に邪竜退治しに行くか?」
大きく目を見開くファウナ。
「・・・ご主人様は邪竜なんて信じてないのに?」
「ああ。」
「私は巫女なんですよ。」
「ああ、うちの仲間はこれで巫女3人衆だな。邪竜相手にはふさわしいパーティーになるな。」
「倒すって何するんですか?」
「そうだな、取り敢えず『希望の民連合』を作って邪竜襲撃に備えるか?」
「それって、今までの行動と何か変わりますか?」
「いや、何も変わらないな・・・あ、でも、ケンタウロス族の助言により邪竜襲撃に備えるってのを付け加えるから、邪竜が本当に復活したらケンタウロス族の株がうなぎ登りになるんじゃね?」
「適当ですね。」
「まぁ、適当だな。だが、呪いは断ち切れる。」
「・・・そうですかね?」
「まぁ、たぶん大丈夫だよ。」
「本当に、適当ですね。」
「それが俺の最大の魅力だろ?」
「違いますよ。ご主人様の最大の魅力は・・・やっぱり、内緒です。」
「言わんのかーい。まぁ、魅力に関しては見解の相違だな。だが、やっと視界が良くなっただろ? 結局は邪竜を倒すためには俺たちと一緒にいることが一番なんだから。」
フーっと、溜め息をつくファウナ。そして意を決したかのように前を見据える。その瞳にはかつてない力が宿っているようだ。
「族長、戦士長。これから私は邪竜討伐に向かいます。その為にケンタウロス族は希望の民連合に所属する必要があるでしょう。至急、使者を送りその旨を伝えるように。併せて邪竜の伝承を希望の民連合の会合で議題に挙げていただくよう要請もお願いします。」
「と、言うわけだ。ファーネスのおっさん、文句ねえな?」
「山ほどあるわ、ボケ!! まず、闘技場でのことは一生許さん。ファウナを呼び捨てにしたことも、連れ去ったことも許さん。里の兵士を吹っ飛ばしたこと、住民を怯えさせたこと、挙げたらきりがない!! この外道が!!」
まぁ、闘技場のことを絶対許せない気持ちはよくわかります。
「だが、感謝しよう、私たちの目を醒まさせてくれたことを。」
そう言うとファーネスは深々と私に向かって一礼する。
「ワシは正直、自分の娘が巫女になってから初めて里の掟に疑問を持った。そして、今、初めて 巫女の胸の内を知った。歴代の巫女様もきっと同じ思いをしてきたのだろう。ならば、ワシたちの行いは言われた通り『呪い』でしかなかったのであろう。ワシは戦士長として宣言する。小娘一人に全ての責任を負わせぬために、ワシたちが一人一人、巫女様と同じ責任の下、邪竜に立ち向かうことを!! 皆のものそれでよいな!!」
オオオオオオオオオオオオオ
方々から賛同の雄叫びが騰がる。ファーネスも結構いい演説するじゃないか。




