After ロメオとジュリエッタ
どうにか連合発足の話をまとめてから数日間、私たちは隠れ家に滞在しこれからの里の在り方について有意義な討論をすることに成功した。難しいことはわかっているが、このまま『明るい未来』に里が向かうことを願う。
「いやぁ、始めはどうなるかと思ったが、素晴らしい出会いがたくさんあった忘れられないいい経験になった。」
竜人族の里への帰り道、私は仲間にそう問いかけた。
「それはよろしかったでございますね、ゼロ様。」
「ゼロ、それは特定の誰かに言ってるんでしょ?」
「もうご主人様の女好きは外道の域を軽く越えていきますよね。素晴らしいです。」
口々に皮肉混じりでディスってくる仲間たち。
「いやいや、この旅のどこで女性関係の話題があった!! 心外だぞ。 犬人族の里に一人で向かったときだって、変なお店なんて行ってないぞ。今回は至って真面目に活動して、きちんと任務を果たしたのに、どうしてそんなに不機嫌なんだ。あ、まさか俺が一人で事件を解決したから嫉妬してるのか?」
「「「はぁ~~~~。」」」
3人が一斉にため息をつく。
「本当にお気付きになっていないのではないかとわたくしは思いますが、皆さんはどうお思いになります?」
「うん、絶対気づいてないとあたしも思う。」
「もういっそ清々しいほどの女性ホイホイですね。」
ひそひそ話す3人。
「こらこら言いたいことがあるなら3人で内緒話してないできちんと俺に直接言えばいいだろ?」
「では、遠慮なく言わせていただきます。そこのゼロ様の側に控えているお人のお話です。」
「ん? しのぶか? 俺もいい部下を手に出来て本当に良かったと思っているよ。俺たちの中に情報収集に向く仲間はいなかったから、今回もそうだったがこれからも凄く役にたってくれると思ってるよ。」
「一体どんな役にたったんだか? ゼロのスケベ。」
サラサは相変わらず私を男色家にしたいらしい。
「あのなぁ、今も言ったけど『情報収集』だ。何回も言うように俺に男色の気はない‼」
「ご主人様、サラサ様は男色の気も気にはしていますが、今回は完全な『女好き』を咎めています。私はそこを含めてご主人様の外道っプリに興奮しっぱなしですが!!」
ん? 『女好き』?
「ゼロ様、お気付きになっていないかと思うのでお伝えしますが、『しのぶ様』は女性でございます。」
ええええええええええええええええうぇえええええええええええええええええええ!!
「え? いや、だって? ええ?」
「やっぱり気づいてなかったんだね。って、事はやっぱり男色の気が!?」
「ないから、男色の気は!!」
「つまり、ご主人様は女性と知りつつ、と、言うことで宜しいですか?」
「ちがああああああああああう!! しのぶを手元に置いたのは純粋にその能力をかってだな・・・。」
「御館様、安心してください。僕は夜伽の技術も習得済みでございます。」
しのぶが爆弾発言をぶっ混んでくる。
「嬉しいけど、このタイミングで貴女は何てこと言い出すの!? ちょっと、お願いだからこれ以上話を複雑にしないでくれる?」
「ゼロ様、本音が建前より先に漏れてしまっていますよ。」
「ボーイッシュな女性が好みってことはやっぱり・・・。」
「私は何人でも大歓迎ですよ。」
「奥方様方、決して正妻にはと申しません、末席に僕が加わることをご許可くださいませ。」
「許可など求める必要はありません。」
「うん。あたしたちはこれからライバルだね。」
「私は同時でも一向に構いませんので・・・。」
「有難うございます。」
何となく女性陣で話は纏まったようだ。 これは一応『めでたしめでたし』なのか?
「それはそれとして、今回もお側に控える女性を増やした浮気者にはお仕置きが必要ですよね?」
え? この流れからそっちに話進んでいきます? めでたしめでたしには程遠い結末が迫ってきた。
「ああ、ええと、そう言えばルーク先生が見えないけど?」
「え? ルークってゼロと一緒に犬人族の里に向かったんじゃないの?」
「いや、犬人族の里には連れていかないって伝えただろ?」
「では、ご主人様が犬人族の里に向かったあの夜から姿が見えないと言うことですか?」
ヤバい。話を逸らすために持ち出した話題だったが、とんでもない事態になった。あれから姿が見えないと言うことは5日間ぐらい経っているということだ。私だけでなく仲間たちに動揺の色が濃く見える。
「御館様、ルークと言うのは、後ろから駆けてくるあの始祖様のことですか?」
全員が今歩いてきた道を振り返る。そこには全速力でこちらに向かってくるルークの姿が見えた。
「ルーーーーーーーークっ!! 心配かけやがってこのやろう!!」
たった今いないことに気付いたのは内緒にして再会を喜ぶ。ルークを中心に輪が広がる。
「さ、これで本当に一件落着だな。それにしてもルーク、どこに言ってたんだ?」
「ガウっ?」
「ま、どこ行ってたのかわからないけど、あんまり心配させるなよ。」
そう言ってルークを力強く抱きしめる。
「ガウっ、ガウっ!!」
本気で苦しそうで嫌がるルーク。
「あれ? 始祖様ってしのぶは犬人族だから、ルークは始祖じゃないんじゃないの?」
「いえ、猫人族も犬人族も伝承によると『阿吽族』と言う一つの部族でした。『阿』とは獅子を意味し、『吽』とは狛犬を指すと父上から聞いたことがあります。犬人族の人々がそこまで知っているかはわかりませんが、私にとっては獅子であられるルーク様も始祖様です。」
「そうか。よかったなルーク。始祖様って敬って貰えそうだぞ。」
「ガウっ。」
少し誇らしそうに胸を張るルーク先生。すると突然こっちを向き大きな笑顔を作った。そして、
『ありがとうゼルダ、我が子たちに部族と家族の在り方を示し、希望を与えてくれて。貴方の行いに心から感謝を。』
「え? ルーク!?」
私はルークが喋ったことにビックリして仲間の顔を見渡す。しかし誰もその声に反応しているものはいない。
「あれ? みんな? 今の聞こえなかった? ルークが喋ったんだけど?」
「ルークはいつも喋ってるでしょ? ガウとかバウっとか。仲間なんだから、今さら喋ることにビックしないでよ、ゼロ。」
「いや、そうじゃなくてきちんと意味のある言葉を・・・。」
「ガウっ?」
「あれ? いつも通りのガウだな? あれ?」
「さぁ、ゼロ様、先を急ぎましょう、竜人族の里への報告が済んだら、またすぐ次の部族の説得に向わなければいけないので・・・。」
少し前を歩いていた弥生に促される。
「ああ。そうだな。」
私はルークの口から発せられた意味のある言葉を不思議に思いながらも竜人族の里に向けて歩き出す。心にある思いを抱きながら。
『お仕置きの件、うやむやになって本当に良かった・・・』と。
今章も最後まで読んでいただきありがとうございました。この章、本当は幕間とまでは言いませんが息抜き要素のワンにゃんファンタジー的なつもりで書き始めたのですが、他のどの章よりも重い内容になってしまいました。
ブックマーク、評価頂けると幸いです。
そして、何より感想・レビューに飢えております。ここまでそこそこの文字数になったと個人的に思っているのですが、読者様からの反応がブックマーク、評価、文章の間違いの指摘以外ありません。酷評でも構いませんので・・・いや、出来れば「面白く拝見させていただいてます」的な方が嬉しいですが、どんな感想でもいいので読者様からの反応お待ちしています。よろしくお願いいたします。
次回からは新章が始まりますが、引き続き読んでいただけると幸いです。




