人魚の里と赤い悪魔 1
新章始まりました。ブックマーク、評価頂いた方本当にありがとうございます。そして何より感想を書いてくれた読者様、心より御礼申し上げます。
引き続き楽しんで読んでいただけるように努力しますのでお付き合い頂けると幸いです。
竜人族の里に着いた私たちを待っていたのは人魚の里からの使者だった。
「おお、巫女様、ゼロ殿、それに皆さんお揃いで、丁度良いところに帰って来てくれました。実は人魚の里からの『連合発足』の話を聞きたいと使者殿が来てくださって、今、客間にてお待ちいただいているのですが、ご一緒していただけますか?」
レスターが丁度いいところと言ったが、こちらとしては最悪もタイミングだ。美味しい食事を食べて豪華な寝床での休息はまた夢と成り果ててしまうかもしれないのだから・・・。
「わかりました。」
渋々ながら同意する。
「では、客間に参りましょうか? それと誰か、会合が終わる頃を見計らってゼロ殿たちにお食事の用意を頼む。」
よーし、レスター君、ナイスジョブだよ。そう言う配慮が出来る大人の男性って素敵だとおっさん的に思うよ。
客間につくと人魚族の使者が座って待っていた。人魚族を見るのは初めてなのだが想像していた姿とはかけ離れている。まず服だが、私のイメージでは上半身のみの貝の水着を着用しているのだが、実物は魚の鱗のような鎧を纏っている。次に性別と容姿だが、若い女性のみで長い髪をなびかせ、ハーブみたいな楽器を楽しそうに弾いている姿を想像していたが、まず、使者さんはおっさんだ。それだけで幻想をぶっ飛ばされた気になって、髪の長さとか楽器の種類とか話し合う価値も無くなった。そして驚くことに一番の問題点は『性別』でない。一番の問題点、それは『普通に足がある』ということだ。
ん、待てよ? 足があるって事は、彼自身は人魚族ではなく、ただ『使者』としてここに派遣された近くの里の戦士かも知れない。よくよく考えれば、人魚族が屋敷のなかで会合を開くこと自体おかしな話であって、本来は川とか湖、海に出向かわなければ会うことすら難しい種族のはずだ。きっと、そうだ。
「初めまして、人魚族のジュゴンと申します。突然の訪問にも関わらずお会いいただいて感謝します。」
幻想は死んだ。薄々は気付いていたが、さっきまでの考えは完全なフリになってしまった。もう、人魚族なのに名前が『ジュゴン』であることも突っ込む気がしない。そんな私の落ち込みぶりを無視して会合が始まった。
「初めまして、竜人族のレスターと申します。お会いできて光栄です。こちらは我が里の巫女『サラサ』でございます。」
「初めまして、ジュゴンさん。よろしくね。」
サラサ程、真剣な会合が似合わない女性はいないかもしれない。フレンドリーなのは良いが、初対面では丁寧に接するべきだと思う。きっと、巫女様、巫女様と言われて甘やかされて育ったに違いない。
「よろしくお願いします竜人族の巫女様。」
それでも、嫌な顔ひとつせずに丁寧に挨拶を返すジュゴンは立派だと思う。
「そしてこちらが鬼族の巫女様である『弥生』様であります。」
「ジュゴン様、よろしくお願いします。」
「こちらこそお願いします。」
弥生はきちっと教育を受けたのか元からの素養か、とても品がある立ち振舞いをする。
「最後にこちらが連合発足に尽力してくださっているゼロ殿でございます。」
「ジュゴンさん、よろしくお願いします。」
ジュゴンと言う名前を声に出すとやはり少し気になってしまう。
「こちらこそゼロ殿。有名な巨人キラー殿に会えて光栄です。」
この巨人キラーってあざな、これからずっとつきまとうのだろうか? せめて『巨人殺し』とかにしてくれればいちいち野球を思い出さなくてすむのに・・・。
「ジュゴン殿、まずは希望の民連合に興味を持っていただいたこと改めて感謝いたします。人魚族にはどの程度『連合』のことが伝わっているかわかりませんので、まずは成り立ちから順序建ててお話しさせていただいても宜しいでしょうか?」
「お願いいたします。」
その後レスターは鬼族と竜人族の争いのこと、その裏で蠢いていた陰謀の事、竜人族の武術大会への巨人族の襲撃のこと、巨人族の里が内戦によって滅び、何者かが巨人族の秘宝を持ち去ったことを話した。
「この様に不可侵条約を結んでいても私たち希望の民は一枚岩ではないどころか、あわよくば他里を支配しようとさえする輩さえいる始末です。更に人間族や魔族は昔より力をつけ、私たちの資源を盗み取り、我らの里を蹂躙し、我らの民を奴隷に落とすと言う悪行を繰り返してきた。我らは同じ希望の民であるのに、自尊心や無関心さから今までの他里への救援要請も、共闘も、支援すらお互いしてきませんでした。今回の幾つかの事件を経験し我ら竜人族はお恥ずかしながら初めて自分たちの無力さと協力することの大切さに気付きました。正直、そこにおいでになるゼロ殿と弥生様のご活躍がなければ鬼族の里も竜人族の里も滅んでいたでしょう。その様な結末を避けるために私たちはお互いを助け合うための組織を作り上げようと決めたのです。今のところではありますが、我ら竜人族の他、鬼族、猫人族、犬人族の参加が予定されております。組織の形態や運営の方法は第一回の会合時に話し合うつもりですが、まずは『協力し合う』という理念の元に第一回の話し合いに参加して頂ければと思っている次第です。」
「ご説明ありがとうございました。発足の経緯と理念、このジュゴン感服いたしました。しかし、幾つか疑問が御座いますので質問させていただいても宜しいでしょうか?」
「ええ、勿論です。」
「では、始めにですが、鬼族との争いも、巨人族の襲撃も裏で糸を引く何者かの陰謀と述べられたと思うもですが、どうも、レスター殿のお話を聞く限り希望の民の内部にその黒幕がいると仰っているように聞こえるのですが、如何ですか?」
ジュゴン。どうやら相当な切れ者のようだ。情報を与えすぎるのも危険だが、隠しすぎても信頼を失う。レスターの腕の見せ所だな。
「失礼、その件に関しては私情が強く出てしまったようです。はっきり申し上げると、『黒幕』の正体はわかっておりません。しかし、私個人の見解としてはジュゴン殿の仰るように希望の民内部にいると思っています。」
なるほど、個人の意見とすることで発言そのものへの責任を回避することに成功すると同時に信頼も損なわずにすむ。
「そうですか、ではレスター殿に個人的にお聞きしたいのですが、内部に『反乱分子』があるのに連合があなたたちの願い通り、『協力』して困難に立ち向かえるとお思いになりますか?」
レスターが素晴らしい言い回しをしたのに対し、ジュゴンも鋭い反応を示した。これが外交における駆け引きと言うものか。私が今まで経験してきた『武』ではなく『智』の戦い。正直、今この会話に割ってはいれる自信はない。ここでレスターの答えがジュゴンを納得させるものでなければ、人魚族は連合に参加しないだろう。
「思います。連合の発足まではまだ時間があります。それまでに『反乱分子』は掃討されるでしょう、そこに居られるゼロ殿の手によってね。」
いやいや、ここまでかっこよく戦ってたのに急にこっちに丸投げきたあああああああ。
「なるほど。レスター殿はゼロ殿を余程信頼しているのですね。」
いやいや、ジュゴンもジュゴンで何納得しちゃってるの???
「わかりました。連合への参加は前向きに検討させていただきます。それと、引き換えに力を貸して頂きたい件がございまして。もし、連合の理念が『助け合い』ならお力添え頂けますよね?」
うーん、うまい具合に連合を利用されている気もするが、ここで断るわけにはいかないだろう。
「わかりました。では、お話をお聞かせください。」
レスターが提案を受け入れる。これで、フカフカの寝床はまた暫くお預けだろう。




