↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外つ世界の魔女  作者: 星見くじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

オリエンテーション



こやねが学校へと足を踏み入れたのは、暖かい風が校庭の花々を揺らす、穏やかな朝のことだった。


目の前にそびえ立つのは、まるで絵本から飛び出してきたような大きな校舎。尖塔がいくつも空へ伸び、真正面には大きな時計が時を刻んでいる。レンガの壁には蔦が絡まり、時計の下に嵌ったステンドグラスは陽の光を受けてきらきらと輝いている。

「わあ……!」

元いた世界とは全く違う学校の光景に、こやねは思わず驚嘆の声を上げた。先程までの緊張がほどけ、まだ見ぬ世界への好奇心が胸を占めるのを感じた。

そんな時だった。

「ねえ、あの子って……」

「あの子が例の新入生?でも、なんか……」

「見て、あの髪の色!あんなに真っ黒な髪、初めて見た」

「ほんと!わあ、瞳も真っ黒!」

ひそひそと交わされる声が、こやねの耳に飛び込んでくる。

「…………」

 こやねは、胸元のリボンをぎゅっと握った。じわりと手に汗が滲むのを感じる。先程まで遠ざかっていた緊張がぶり返してきたのだ。

好奇の目から遠ざかるように足早に門をくぐる。しかし、生徒の目はそんなこやねを追いかけてきた。人の数が増える度、周囲のざわめきも大きくなる。

(こんな大勢の人に見られるの、初めてだ)

今やこやねの心臓はドキドキと大きな音を立てていた。上がりそうになる息を必死に整え、ひたすら俯いて入口を目指す。

そんな時だった。

「わあっ!」

「わっ!?」

どん、と衝撃が走り、こやねはよろめいた。

「あっぶない!」

後ろに倒れそうになるこやねだったが、ぐっと手を引かれて立ち直る。

こやねの手を引いたのは、一人の少女だった。

薄緑色の髪に、蜂蜜のような瞳。制服は少し着崩されていて、胸元のリボンも斜めになっていた。

どうやら、下を見ていたせいで気づかずぶつかってしまったらしい。こやねは慌てて頭を下げた。

「ご、ごめんなさい」

「んーん!私こそごめん、ちょっとよそ見してて!」

少女はそう言って、こやねの顔をじっと見つめると、ぱあっと顔を輝かせた。

「あー!もしかして、噂の新入生さん?」

「う、うわさ?」

「うん!外つ世界から新入生が来たって先生が言ってたの!私メルテ!あなたの名前は?」

「わ、私はこやね。天野こやねです」

「こやねちゃん!可愛い名前!よろしくね!」

「よろしく、えっと……メルテさん?」

「メルテでいいよ!同級生なんだし!」

そう言って、メルテは花のような笑みを浮かべた。

こやねは思わず頬を赤くした。

今まで向けられていた視線とは、まるで違う。

探るような目でも、値踏みするような目でもない。

ただ純粋に、自分に興味を持ってくれているのだと、分かったからだ。

「ねえこやねちゃん、オリエンテーションの場所分かる?よかったら一緒に行こうよ!」

「いいの?」

「もっちろん!ほら行こ!」

メルテはそう言って、こやねの手を引いた。

「わっ、待って待って!転んじゃう!」

こやねは慌てて足を踏み出した。

先程まで重く胸に載っていた緊張は、いつの間にか消えていた。



***


メルテ曰く、オリエンテーションは、大聖堂で行われるとのことだった。既に生徒たちが所狭しと座っており、開始の合図を今か今かと待ちわびているようだった。

「あっ、あそこ空いてるよ!いこいこ」

「うん!」

メルテに手を引かれ、長椅子の前へ行くと、既に着席していた赤い髪の少年が二人に気づいて席を空けた。

「ありがとう」

「ありがとう!」

こやね達が会釈と共に小さく礼を言うと、少年もニコリと笑って会釈を返した。二人で椅子に座ると、ふわりと紙が舞い込んできて、二人の目の前に置かれた。

どうやら、オリエンテーションの進行と、授業に必要な教科書類が書かれているらしい。

「あれ?」

こやねは首を傾げた。見たことの無い文字なのに、すらすらと読めてしまうことに気づいたのだ。

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

メルテの問いに、こやねはかぶりを振って答えた。今の今まで不思議なことばかりあったのだ、きっとなにか魔法の力のようなものなのだろう。そう自分を納得させて、再び紙の上の文字を目で追った。

「これってどこで買えるんだろう……?」

「ここの教科書なら、城下町で買えるよ。私もまだ買ってないし、一緒に買いに行こうよ!案内してあげる!」

「いいの?ありがとう、メルテ!」

そう言って、こやねがメルテに笑いかけると、メルテも笑いを返した。

突然、ざわめきが一層大きくなった。

大聖堂の壇上、演台に一人の老人が現れたのだ。

長いローブを身にまとい、手には装飾の施された杖を持っている。老人が杖を軽く振ると、ホール中に響いていた話し声がすっと静まった。

それは、紛れもない。つい先日出会ったばかりの校長、ジスリオだった。

「皆さん、おはようございます」

 穏やかでありながら、よく通る声だった。

「私はこの魔法学校で校長を務めております。これから皆さんに、この学校について説明させていただきます」

 ジスリオはにこやかに微笑み、話を続けた。

「まず、皆さんが入学したこの学校は、魔法の基礎から応用まで、幅広い知識と技術を学ぶための教育機関です」

 ジスリオが杖を振ると、背後の空間に大きな映像が浮かび上がった。

 そこには、校舎の全景や庭園、図書館、そしていくつもの実習施設が映し出されていた。

「本校では、魔法を正しく理解し、安全に扱えるようになることを第一の目標としています。そのため、皆さんには座学だけでなく、実際に魔法を使う実技の授業にも取り組んでいただきます」

「実技の授業……!」

こやねは思わず身を乗り出した。

魔法を使う自分の姿を想像し、胸が躍った。

「例えば、魔法の基礎を学ぶ『基礎魔法学』。魔法の歴史や仕組みを学ぶ『魔法史』。そして、皆さんの持つ固有魔法を伸ばしていく『固有魔法実習』などがあります」

 女性が説明するたびに、映像の中には授業の様子が映し出されていく。

 生徒たちが手のひらから小さな火を灯したり、水を宙に浮かべたり、風を操って木の葉を舞い上げたりしている。

「わぁ……!」

 こやねの目は、映像に釘付けだった。

「ほかにも、薬草や魔法植物について学ぶ『魔法植物学』、魔法生物の生態を学ぶ『魔法生物学』など、さまざまな授業を用意しています」

「魔法植物学……面白そう!」

 隣に座っていたメルテが、小さく声を漏らした。

「メルテは魔法植物に興味があるの?」

「うん。私のうち、魔法植物を専門に扱う花屋なの。だから小さい頃から植物は大好き!」

「お花屋さん?素敵だね!行ってみたいなあ」

二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。

説明はさらに続いた。

「一年生の皆様は、まずは基礎的な学習から。学年が上がるにつれ、順次自らの適性と進路に応じた授業を選択していくことになります。また、本校では定期的に実習や課外活動も行っています。教室を飛び出し、実際の自然環境の中で魔法を使う機会もありますので、楽しみにしていてくださいね」

「課外活動まであるんだ……!」

こやねの胸は、ますます高鳴った。

魔法を学ぶだけでなく、学校の外に出て実際に魔法を使うこともできる。

いったいどんな経験ができるのだろう。

まだ見ぬ授業。まだ出会っていない先生や生徒たち。そして、自分がこれから身につけていく魔法。

考えるだけで、ワクワクが止まらなかった。

やがて、ジスリオによる学校概要の説明が終わり、最後に新入生への言葉が贈られた。

「皆さんがこれから過ごす学校生活には、楽しいこともあれば、難しいこともあるでしょう。しかし、失敗を恐れず、たくさんのことに挑戦してください。皆さん一人ひとりが、自分だけの可能性を見つけられることを願っています」

 その言葉に、ホール中から拍手が沸き起こった。

こやねも、隣のメルテと一緒に拍手を送る。

「なんだか、いよいよ始まるって感じがするね」

メルテが嬉しそうに言った。

「うん! 私、早く授業を受けてみたい!」

「私も!どんな先生がいるのかも気になるな」

「ね!優しい先生ばっかだといいなあ」

こやねは両手をぎゅっと握りしめた。

今日、ここに来るまでは、期待と不安が入り混じった気持ちだった。

けれど、今は違う。

これから始まる学校生活への期待で、胸がいっぱいだった。

魔法の基礎を学び、さまざまな授業を受け、たくさんの友達と出会う。

きっと、ここでしかできない経験が待っているはずだ。

「ねえ、メルテ」

「なに?」

「これから一緒に頑張ろうね」

こやねが手を差し出した。

メルテはその手を、笑顔で握り返す。

「うん! 一緒に頑張ろう!」

こうして、こやねの魔法学校での生活は始まった。

こやねの胸には、これから始まる毎日への期待が、まるで魔法の光のように輝いていた。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。