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外つ世界の魔女  作者: 星見くじ


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3/3

ペルスミス城下町にて 1



こやねが魔法学校に入学してから二日目。

「メルテ!」

「こやねー!おはよう!」

学校が本格的に始まる三日前、こやねとメルテは学校の前で待ち合わせをしていた。

教科書、杖といった学校に必要なものを買うため、二人で城下町に行くのである。

「私、城下町……というか、学校の外に出るのはじめて。部屋は寮を借りてるし」

「そうだったね!じゃあ今日は私がたっくさん案内してあげる!」

「ふふ、頼りにしてる」

そう言って、こやねは肩にかけたカバンの紐をかけ直した。

「でも、いいのかなあ」

こやねが呟いた。

「何が?」

「お金、先生がくれたの」

「ああ!給付の奨学金ね!

外つ世界から来た子が生活に困らないため、国が支援することになってるの。教科書代や必需品の他にも、上限はあるけど自由に使えるお小遣いもある……んだよね?」

「うん。まだお金のことはあんまり分かってないけど」

こやねは、カバンの上からお財布を撫でた。チャリ、と硬貨がこすれる僅かな音が鳴った。

返すあてもないのに、もらってしまっていいのだろうか。

顔をくもらせるこやねに、メルテは明るい声で言った。

「こやね、気に病まなくていいんだよ!その制度はね、こやねみたいに外から来た人の為にって考えられたんだから!さっ、行こ!」

「わっ」

メルテはこやねの手を引き、駆け出した。釣られてこやねも走り出す。

二人の姿を、眩い太陽が照らしていた。


***


ペルスミス城下町は、想像以上に賑やかな場所だった。

石畳の大通りには数え切れないほどの露店が並び、色とりどりの魔法道具が売られている。

空中に浮かぶランタン。

勝手にページがめくれる古書。

瓶の中で小さな雷が跳ね回る不思議な薬。

どこを見ても、こやねの興味を引くものばかりだった。

「わあ……! 見てメルテ! あの本、勝手に動いてる!」

「え? こやねの世界では本って動かないの?」

「動かないよ!」

「へー! じゃあ読みたい時に本を捕まえなくていいんだ、いいなあ」

メルテは感心したように息を吐いた。

「ほら、ここだよ、教科書が売ってる店。『基礎魔法のすすめ』『よくわかる魔法植物』……授業で必要な教科書は全部ここ!」

「わあっ!」

お行儀よく詰められた本を手に取り、こやねは歓声を上げた。魔法の教科書という響きに心が躍った。

二人は必要な本を選び、お会計を済ませ店の外へと出た。通りには人が多く、がやがやと喧騒が二人を囲んだ。

「さっきより人、増えたね」

「私達以外も買い物に来てるだろうし」

メルテは呟くと、くるりとこやねの方を向いた。

「そうだ!こやね、お腹空かない?」

「うーん、ちょっとだけ」

「こっちの先にある『ヤギのこうべ』ってお店、美味しいんだよ!行こいこ!」

「うん!」

そう言って、メルテとこやねが歩き出した、その時。

「わっ!」

「わあっ!?」

どっと押し寄せた人混みに、二人が引き離されていく。

「まっ、とお、通してください……!」

「あっ、こやね!?」

こやねは人の渦に流され、どんどんメルテとの距離が遠ざかっていく。

ようやくこやねが人混みを抜け出した時には、メルテの姿はどこにもなかった。

「どうしよう……。はぐれちゃった……」

とりあえず大通りに戻ろう。

そう思って歩き始めたものの、焦っていたこやねは道を間違えてしまった。

気がつけば、周囲から人の姿が消えていた。


***


薄暗い裏道。

 建物と建物の隙間を縫うように続く細い路地には、昼間だというのにほとんど光が差し込まない。

「……ここ、どこ?」

こやねは不安そうに呟いた。

左右を見ても、見覚えのある店はない。

来た道を戻ろうと振り返った、その時。

「ひっ!?」

何者かに手を掴まれたこやねは、思わず悲鳴を上げた。

咄嗟に視線を向けると、そこには黒くぼろぼろのローブを着た痩せた老婆がいた。

「おじょうちゃん、綺麗な髪の毛だねえ。その髪に似合う素敵な髪飾りがあるんだが見ていかないかい?さあこっちだよ、おいで」

「え、あの、ちょっと……!」

老婆は戸惑うこやねにお構い無しにぐいぐいと腕を引っ張る。嫌な予感がしたこやねは必死に振り払おうとするが、老婆とは思えない力強さにふりほどくことが出来ない。

「さあこっちにおいで、さあ……」

見るからに怪しげな店に引きずり込まれそうになった時だった。

《ドゥード》

「煙よ、覆い尽くせ!」

凛とした声とともに、閃光が走る。途端、老婆とこやねを真っ白な煙が覆った。

(なに!?)

突然の出来事に、こやねは目を白黒とさせる。

「こっち!」

「わっ!」

こやねの腕を誰かが引っ張った。慌ててその後を付いていく。

煙の中から抜け出して見えたのは、見覚えのある赤い髪。

それは、オリエンテーションで隣に座っていた少年だった。

「あ……同じ学年の」

「いいから急いで!」

言われるがまま、こやねと少年は走り出した。


***

ようやく路地裏を抜け出すと、大通りの眩しい光景が広がっていた。

こやね達は息を整えながら、壁にもたれかかった。

「あの……」

「君、なんであんな所に入っていったんだ?この辺りの路地裏は危険だって知ってるだろ?」

「ごめんなさい、私知らなくて」

「あ……そうか、君、ここの出身じゃないのか」

少年は納得したようにため息をついた。

「えっと、あなたは」

「カグツだ」

「カグツくん。私はこやね。本当に、助けてくれてありがとう。どうして私を見つけてくれたの?」

「入学式で見た顔が、危ない場所にふらふら入っていくんだ。気になって後をつけたら、案の定変な連中に捕まりかけてるし……」

こやねは顔を赤くした。メルテとはぐれて、危険な場所に迷い込んで、同級生に助けてもらうなんて……。

急に自分が分別のつかない小さな子供のように思えた。

「こやねーっ!」

人混みの中から、こやねを呼ぶ声がした。見知った顔が、ひょこりと現れた。

「メルテ!」

こやねは、反射的にメルテに駆け寄った。メルテは、こやねをぎゅっと抱きしめた。

「こやね!よかったぁ……ごめんね、はぐれちゃって。大丈夫?変な目に遭わなかった?」

「ありがとう。ちょっと大変だったけど、カグツくんが助けてくれたんだ」

「カグツくん?」

ほら、とこやねがカグツの方を指す。

「あーっ、入学式の!」

カグツは軽く会釈をした。メルテはずんずんと近づき、カグツの両手をしっかりと掴みぶんぶんと振った。

「ほんっとにありがとう!こやねに何かあったら私……!」

「あ、ああ。分かったから……」

「よし!カグツも一緒に『ヤギのこうべ』に行こ!その後は杖も見に行こうよ!」

「はっ!?ちょっと待って、僕は……!」

「うん、行こう!ほっとしたらお腹減っちゃった!」

メルテとこやねに見つめられ、カグツは暫く狼狽えたのち、仕方ないと言うように頷いた。

「よし、行こー!この時間なら多分空いてるし!」

「行こー!」

こうして、三人は『ヤギのこうべ』へと向かうことになった。

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