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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第1章

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第九話 奪還

 追跡車両を振り切ってから数分。

 ナミは車両を停止させていた。

 海上保守区画。

 非常用メンテナンススペース。

 普段なら誰も来ない場所だった。


 警告表示はまだ消えていない。

 後部センサー損傷。

 通信障害。

 自動運転機能停止。

 だが走行自体は可能だった。


「はぁ……」

 深く息を吐く。

 配送員になってからこんな経験は一度もない。

 いや。

 普通の人間なら一生経験しない。


「警察……」

 端末を開く。

 通信回復。

 表示を見た瞬間だった。


 背後で乾いた音が響いた。

 パンッ――

 金属音。

 次の瞬間。

 車両後部のロック機構が吹き飛んだ。


「っ!」

 考えるより先に身体が動く。

 車外へ飛び出す。

 同時に上着の内側へ手を入れる。

 携行していたスタンロッドを引き抜いた。

 普段は使うことのない装備。

 だが、いざという時のために持たされているものだった。


 貨物ハッチの向こう。

 三人。

 黒い戦術装備。

 統一された動き。

 素人ではない。


「その荷物から離れて」

 警告する。

 返答はない。

 黒装束の一人が銃口を向ける。


 ナミは舌打ちした。

「そういうタイプか」


 発砲。

 閃光。

 ナミは横へ飛ぶ。

 着地。

 同時に距離を詰める。

 一人目の手首を払う。

 銃口が逸れる。

 肘。

 喉元。

 膝裏。

 黒装束が崩れ落ちた。


 二人目。

 振り向きざまの銃撃。

 ナミはコンテナを盾にする。

 金属音。

 跳ねる火花。

 次の瞬間には懐へ入り込んでいた。

 スタンロッドが脇腹へ突き刺さる。

 高圧電流。

 男が倒れる。


「二人」

 息を整える。

 残る一人。

 相手も驚いているらしかった。

 想定外だったのだろう。

 ただの配送員がここまで動くとは。


 ナミにとっても不本意だった。

 できれば使いたくない。

 平和な配送業務だけしていたい。

 しかし相手が武装しているなら話は別だ。


 最後の一人が後退した。

 撤退。

 そう見えた。

 だが違った。


 男は通信機へ何かを告げる。

 ナミの表情が変わった。

 嫌な予感。

 こういう時の予感は、大抵当たる。


 数秒後。

 海上道路の向こうから光が現れた。

 一つではない。

 二つ。

 三つ。

 四つ。

「……嘘でしょ」

 武装ドローン。

 さらにその後方。

 増援部隊。

 最初の三人は先遣隊だった。


 ナミは初めて理解する。

 これは貨物強盗ではない。

 計画的な作戦だ。

 PR-0001を狙った。

 組織的な襲撃。


 その時。

 上空で別の駆動音が響いた。

 低く唸るような音。

 見上げる。

 夜空を横切る小型監視ドローン。

 神京都警察の監視機か。

 それとも都市管理局か。

 距離が遠く判別できない。

 だが。

 少なくとも誰かが異常を察知したらしい。


「……助かった?」

 ナミは小さく呟いた。


 だが。

 敵の方が一歩早かった。

 黒装束たちは一斉に動き出す。

 狙いは明白だった。

 PR-0001。

 増援部隊。

 武装ドローン。

 そして圧倒的な数。


 ナミはスタンロッドを握り直した。

「ったく……」

 小さく息を吐く。


 逃げるだけなら簡単だった。

 だが荷物を置いていくわけにはいかない。

 届け先がある。

 待っている相手がいる。

 それがどんな荷物であっても。

 配送員として、それだけは譲れなかった。


 夜の海風が吹き抜ける。

 武装集団が迫る。

 PR-0001はまだ車両の中にある。

 戦いは終わっていない。

 むしろ。

 ここからが本番だった。

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