第十話 喪失
武装ドローンが降下する。
銃声が響く。
海風が唸る。
ナミはスタンロッドを振り抜いた。
火花。
一機。
また一機。
ドローンが海へ落下する。
だが数が違った。
敵は減らない。
次々と現れる。
増援部隊は完全に役割を分担していた。
ナミを足止めする者。
周囲を警戒する者。
そして。
PR-0001を回収する者。
「させるか!」
ナミは駆けた。
黒装束を弾き飛ばす。
一人。
二人。
進路を切り開く。
あと少し。
あと数メートル。
手が届く。
だが。
間に合わなかった。
コンテナ固定具解除。
搬送完了。
PR-0001は黒い輸送車両へ積み込まれる。
「くっ……!」
ナミは歯を食いしばった。
その瞬間。
敵部隊が一斉に後退を開始する。
撤退。
目的達成。
最初からそれだけだった。
ナミを倒すことではない。
PR-0001を奪うこと。
それだけだった。
遠くでサイレンが聞こえる。
近い。
かなり近い。
海上道路の向こうに赤色灯が見えた。
神京都警察。
ようやく到着したのだ。
だが。
敵の方が早かった。
輸送車両のドアが閉まる。
エンジン起動。
車列が動き始める。
「待て!」
ナミは叫ぶ。
当然止まらない。
黒い車列は海上道路へ飛び出していく。
数秒後には視界の向こうへ消えてしまうだろう。
警察は来る。
検問も張る。
捜査も始まる。
普通ならそこで終わりだった。
普通の配送員なら。
ナミは立ち尽くしたまま車列を見つめた。
PR-0001。
届けるはずだった荷物。
何が入っているか知らない。
誰が待っているのかも知らない。
だが。
届け先は存在する。
それだけは分かっている。
だから。
失くしたままでは終われなかった。
「……警察じゃ間に合わない」
小さく呟く。
追跡対象は今この瞬間も離れていく。
検問が敷かれる前に消える。
証拠も消すだろう。
訓練された連中だ。
待てば待つほど追跡は難しくなる。
ナミは振り返った。
損傷した配送車両。
警告灯が点滅している。
状態は最悪。
それでも走れる。
まだ走れる。
それだけで十分だった。
「残業延長かぁ……」
自嘲気味に笑う。
誰も聞いていない。
夜風だけが吹き抜ける。
遠くから警察車両が近付いてくる音がする。
ナミは運転席へ飛び乗った。
手動運転起動。
損傷警告を無視する。
エンジン出力上昇。
車体が震える。
前方。
消えかけている敵車列。
ナミはアクセルを踏み込んだ。
「届け先が待ってるんだよ」
配送車両が急加速する。
警察とは逆方向へ。
誰にも報告せず。
誰の許可も取らず。
シガン・ナミは単独でPR-0001の追跡を開始した。




