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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第1章

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第十一話 追跡

 損傷した配送車両は夜の神京都を疾走していた。

 警告灯は消えない。

 後部センサー損傷。

 通信不安定。

 自動運転機能停止。

 まともな状態ではなかった。

 それでも走る。

 走らせる。


 ナミは前方を見据えた。

 遠く。

 かろうじて見える赤いテールランプ。

 敵車列だ。

 まだ見失っていない。


「逃がさない」

 小さく呟く。


 追跡は本来なら警察の仕事だ。

 だが今は違う。

 PR-0001を奪われた。

 終わらせるわけにはいかなかった。


 海上道路を抜ける。

 敵車列は都市部へ向かわなかった。

 むしろ逆だった。

 物流区画。

 工業区画。

 夜間自動制御による稼働施設が集中する沿岸部。

 人目の少ない区域へ進んでいく。


「そっちか」

 ナミは眉をひそめた。


 逃走経路としては合理的だ。

 監視カメラは多い。

 だが人間は少ない。

 深夜ならなおさらだった。


 車間距離を保つ。

 近付きすぎれば気付かれる。

 離れすぎれば見失う。

 その絶妙な距離を維持する。

 配送員研修で学ぶスキルではない。

 十分ほど追跡が続いた。


 やがて敵車列が速度を落とし始める。

 ナミも減速する。

 街灯が減る。

 建物も減る。

 やがて巨大な施設が見えてきた。

 古い倉庫だった。

 再開発から取り残されたような場所。

 神京都では珍しい景色だった。


「こんな場所、まだ残ってたんだ」

 ナミは思わず呟いた。


 敵車両が倉庫の奥へ消えていく。

 門は閉鎖されている。

 だが車両は迷いなく侵入した。

 事前に準備されていた場所。

 そう考えるのが自然だった。


 ナミは少し離れた位置へ車両を停める。

 照明消灯。

 周囲を観察する。

 警察はまだ来ない。

 いや。

 恐らく敵のことだ、来ないようにしている。


 通報するか?

 いや、来るのを待てばPR-0001は消える。

 それだけは分かった。


「はぁ……」

 深く息を吐く。


 単独潜入。

 応援なし。

 通信なし。

 許可なし。

 褒められる行動ではない。

 むしろ怒られる側だ。

 それでも。

 来てしまった。

 ここまで追ってしまった。

 ならやるしかない。


 ナミは車両後部を開いた。

 非常用装備ケースを取り出す。

 スタンロッド。

 小型ライト。

 予備バッテリー。

 最低限の装備だけ確認する。


「回収して帰る」

 自分に言い聞かせる。


 それ以上はしない。

 戦わない。

 無茶もしない。

 荷物を回収する。

 ただそれだけだ。

 そう決めていた。


 倉庫の奥で重い金属音が響く。

 何かが運び込まれている。

 ナミはフードを深く被った。

 そして静かに歩き出す。

 夜の倉庫へ。

 誰にも知られず。

 誰にも命じられず。

 ただ一つの荷物を取り戻すために。

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