第十一話 追跡
損傷した配送車両は夜の神京都を疾走していた。
警告灯は消えない。
後部センサー損傷。
通信不安定。
自動運転機能停止。
まともな状態ではなかった。
それでも走る。
走らせる。
ナミは前方を見据えた。
遠く。
かろうじて見える赤いテールランプ。
敵車列だ。
まだ見失っていない。
「逃がさない」
小さく呟く。
追跡は本来なら警察の仕事だ。
だが今は違う。
PR-0001を奪われた。
終わらせるわけにはいかなかった。
海上道路を抜ける。
敵車列は都市部へ向かわなかった。
むしろ逆だった。
物流区画。
工業区画。
夜間自動制御による稼働施設が集中する沿岸部。
人目の少ない区域へ進んでいく。
「そっちか」
ナミは眉をひそめた。
逃走経路としては合理的だ。
監視カメラは多い。
だが人間は少ない。
深夜ならなおさらだった。
車間距離を保つ。
近付きすぎれば気付かれる。
離れすぎれば見失う。
その絶妙な距離を維持する。
配送員研修で学ぶスキルではない。
十分ほど追跡が続いた。
やがて敵車列が速度を落とし始める。
ナミも減速する。
街灯が減る。
建物も減る。
やがて巨大な施設が見えてきた。
古い倉庫だった。
再開発から取り残されたような場所。
神京都では珍しい景色だった。
「こんな場所、まだ残ってたんだ」
ナミは思わず呟いた。
敵車両が倉庫の奥へ消えていく。
門は閉鎖されている。
だが車両は迷いなく侵入した。
事前に準備されていた場所。
そう考えるのが自然だった。
ナミは少し離れた位置へ車両を停める。
照明消灯。
周囲を観察する。
警察はまだ来ない。
いや。
恐らく敵のことだ、来ないようにしている。
通報するか?
いや、来るのを待てばPR-0001は消える。
それだけは分かった。
「はぁ……」
深く息を吐く。
単独潜入。
応援なし。
通信なし。
許可なし。
褒められる行動ではない。
むしろ怒られる側だ。
それでも。
来てしまった。
ここまで追ってしまった。
ならやるしかない。
ナミは車両後部を開いた。
非常用装備ケースを取り出す。
スタンロッド。
小型ライト。
予備バッテリー。
最低限の装備だけ確認する。
「回収して帰る」
自分に言い聞かせる。
それ以上はしない。
戦わない。
無茶もしない。
荷物を回収する。
ただそれだけだ。
そう決めていた。
倉庫の奥で重い金属音が響く。
何かが運び込まれている。
ナミはフードを深く被った。
そして静かに歩き出す。
夜の倉庫へ。
誰にも知られず。
誰にも命じられず。
ただ一つの荷物を取り戻すために。




