第十二話 侵入
夜の倉庫街は静かだった。
海風だけが吹いている。
遠くで機械の駆動音が聞こえる。
ナミは倉庫の陰を移動する。
足音を消す。
呼吸を整える。
視線だけを動かして周囲を確認する。
明かりの点いた倉庫を発見した。
倉庫番号は消えかけている。
使われていない施設のように見える。
だが違った。
入口付近に人影がいる。
二人。
武装。
巡回ではない。
警備だ。
「当たりか」
小さく呟く。
PR-0001はあの中にある。
確信した。
ナミは少し離れたコンテナの陰へ身を潜める。
正面突破はできる。
できるが騒ぎになる。
荷物を回収するだけなら避けたい。
周囲を観察する。
監視カメラ。
照明。
非常口。
搬入口。
そして屋上へ続く外階段。
数秒。
数十秒。
情報を頭の中で整理する。
「正面は無し」
独り言。
誰も聞いていない。
ナミは倉庫裏へ回り込んだ。
海側。
錆びた非常階段が見える。
立入禁止表示。
今となっては意味を持たない。
静かに登る。
一段。
また一段。
金属がわずかに軋む。
止まる。
誰も気付かない。
再び進む。
屋上到着。
倉庫内部を確認できそうな天窓を発見する。
ナミは身を伏せたまま覗き込んだ。
「……何あれ」
思わず呟く。
PR-0001があった。
倉庫中央。
照明に照らされている。
周囲には武装した男たち。
十人以上。
さらに。
見慣れない機材が並んでいた。
解析装置。
通信機器。
搬送設備。
まるで何かの研究施設だった。
ただ荷物を盗んだだけではない。
最初からここへ運び込むつもりだったのだ。
ナミは眉をひそめる。
その時。
一人の男がPR-0001へ近付いた。
責任者だろうか。
他の連中の態度が違う。
男はコンテナ表面へ手を置いた。
「開封を開始する」
倉庫内へ緊張が走る。
ナミの表情も変わった。
『ちょっと待って…』
思わず声が漏れそうになる。
開ける?
今?
届け先へ持っていくのではなく?
嫌な予感がした。
これまでとは比較にならないほどの。
男が認証装置を起動する。
コンテナのロックが解除され始める。
電子音。
解除進行。
あと数秒。
ナミは考える。
スニーキングでの奪還。
それとも。
『いや、無理』
即答だった。
届け先へ届ける荷物を勝手に開けられる。
配送員として見過ごせる話ではない。
ナミは立ち上がった。
静かに。
だが迷いなく。
スタンロッドを握る。
そして。
屋上から倉庫内部へ飛び降りた。
着地。
全員の視線が集まる。
沈黙。
数秒。
男たちは呆然としていた。
当然だ。
誰も来ないはずだった。
その沈黙を破ったのはナミだった。
「配送中の荷物なんですけど」
スタンロッドを肩へ担ぐ。
「勝手に開けないでもらえます?」
倉庫内の空気が凍り付いた。




