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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第1章

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8/8

第八話 カーチェイス

 後ろからくる衝撃、鳴り響く警告音。

「なんなのよ!」


 ナミは操作パネルへ手を伸ばす。

「だったら――」


 警報音が鳴り響く車内。

 迫る黒い車両。

 燃える火花。

 夜の神京都。


 そして。

 配送員シガン・ナミは初めて、自動運転車両の手動操作モードを起動した。

 認証確認。

 緊急時限定権限。

 手動運転移行。

 承認。

 ハンドルがせり上がる。

 足元からペダルが展開される。

 普段使われることのない設備だった。


「本当に付いてたんだ……」

 そんな感想が漏れる。

 次の瞬間。

 二度目の衝撃。

 黒い車両が体当たりを仕掛けてきた。


「うわっ!」

 ナミは反射的にハンドルを切る。

 車体が横滑りする。

 だが不思議と恐怖より先に身体が動いていた。


 後輪荷重。

 路面状態。

 速度差。

 視線誘導。

 考えていない。

 それなのに分かる。

 まるで昔から知っていたように。


「実は私できる子!?……」

 自分で呟きながらアクセルを踏み込む。

 配送車両が加速する。


 後方の追跡車両も即座に反応した。

 距離は縮まる。

 だが追いつけない。

 ナミは次々とルートを選択していく。


 物流専用分岐。

 保守道路。

 緊急退避レーン。

 本来なら迷うはずの選択肢だった。


 しかし迷わない。

 頭より先に身体が決めていた。

 まるで地図が見えているようだった。


 追跡車両が再び接近する。

 左。

 右。

 二台。

「増えた!?」

 いつの間にか囲まれていた。


 ナミは奥歯を噛む。

 その瞬間。

 脳裏に一つのルートが浮かぶ。

 考えたわけではない。

 記憶でもない。

 反射だった。


 海上保守橋。

 通常車両進入禁止。

 幅員制限あり。

「行ける」

 なぜそう思ったのか自分でも分からない。

 だが迷わなかった。


 配送車両は急角度で進路変更する。

 追跡車両が遅れる。

 狭い。

 速度が出せない。

 大型車両では通れない。

 ナミの車両だけが橋へ飛び込んだ。


 数秒。

 十数秒。

 長い沈黙。

 やがて。

 バックモニターから黒い車両が消えた。


 ナミは荒い呼吸を繰り返した。

 全身が汗で濡れている。

 心臓が痛いほど脈打っていた。

「……振り切った?」

 モニターを確認する。


 追跡車両なし。

 熱源反応なし。

 通信妨害も弱まっている。

 ようやく肩の力が抜けた。

 助かった。

 そう思った。


 何が起きているのか分からない。

 なぜ狙われているのかも分からない。

 だが少なくとも今は生きている。

 ナミはシートへ深く身体を預けた。

「……なんなの、本当に」

 返事はない。


 静かになった車内に警告音だけが響いている。

 PR-0001は後部コンテナ内にある。

 無事だった。

 少なくとも今は。


 ナミは知らない。

 追跡者たちもまた。

 ここで終わったとは思っていないことを。

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