第六話 異常
物流センターを出た配送車両は、自動的に輸送ルートへ。
目的地は自動設定済み。
配送優先度A。
都市交通AIによる優先経路が割り当てられている。
通常配送よりも待遇の良い扱いだった。
「おぉ、良い感じですな」
ナミは少し感心した。
やはり重要な政府案件か何かなのだろう。
自分のためではないが、特別扱いされるのは悪い気はしない。
荷物の中身を知る必要はない。
届ければ終わる。
それだけだ。
車両は夜の物流専用レーンを進む。
周囲の交通量は少ない。
高架道路の両側には夜の海が広がっていた。
遠くに見える神京都の灯り。
天柱。
無数の輸送灯。
都市は静かに活動を続けている。
いつも通り。
そのはずだった。
突然。
車内照明が一瞬だけ明滅した。
「ん?」
ナミは顔を上げる。
すぐに元へ戻る。
異常表示なし。
電力供給正常。
車両状態正常。
「気のせいか」
再び前を見る。
だが今度は端末が短くノイズを発した。
ザッ――
ほんの一瞬。
音声通信の乱れにも似た雑音。
それもすぐ消える。
ナミは眉をひそめた。
神京都で通信障害は珍しい。
完全になくなったわけではない。
だが都市基盤網がここまで発達した時代では、滅多に起こらない。
車両AIへ問い合わせる。
「システム異常ある?」
『異常は確認されていません』
即答だった。
少し安心する。
だが胸の奥の違和感は消えなかった。
その時。
前方モニターに黄色い表示が現れる。
経路再計算中。
「優先なのに?」
ナミは小さく呟く。
交通事故。
工事。
設備点検。
理由はいくらでもある。
だが。
優先輸送ルートで発生するのは珍しい。
モニターには新しい経路が表示された。
現在ルート閉鎖。
代替経路へ移行します。
ナミは窓の外を見た。
閉鎖区画など見当たらない。
事故車両もない。
警備ドローンもいない。
だが車両は迷いなく進路を変更する。
都市交通AIが判断している以上、間違いはないのだろう。
そう思うことにした。
しかし。
高架道路を降りた瞬間だった。
ナミは気付く。
周囲に車がいない。
物流車両も。
一般車両も。
誰もいない。
静かすぎる。
夜だからではない。
神京都だからこそ不自然だった。
この都市は眠らない。
この区画だけが切り離されたように静かだった。
「……おかしい」
無意識に呟く。
その瞬間。
バックモニターが一瞬だけ乱れた。
ノイズ。
白線。
映像の乱れ。
そして。
ほんの一瞬だけ。
何かが映った。
後方車両。
黒い影。
「え?」
ナミは反射的に振り返る。
だが何も見えない。
モニターも正常表示へ戻っていた。
記録映像を確認しようとする。
しかし。
該当データなし。
表示されるのはそれだけだった。
ナミは黙り込む。
車両は夜の神京都を走り続ける。
PR-0001を載せたまま。
そして静かに、それは確実に。
近づいていた。




