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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第1章

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第五話 PR-0001

 隔壁の向こうには小さな保管室があった。

 研究施設のようにも見える。

 軍の保管庫のようにも見える。

 少なくとも一般的な物流倉庫ではなかった。


 白い壁面。

 一定間隔で並ぶ監視カメラ。

 温度管理装置。

 認証端末。

 空気そのものが張り詰めているようだった。


 部屋の中央。

 一つの輸送コンテナが置かれていた。

 大きさはミカン箱の半分ほど。

 黒色。

 余計な装飾はない。

 だが、ただならぬ存在感があった。


 側面には識別コード。

 白い文字。

 PR-0001


 ナミは思わず目を細める。

「これが?」

 黒服の男性は短く頷いた。

「今回の配送物です」

「配送先は端末へ転送済みです」

「内容物に関する説明はありません」


 ありません。

 と言った。

 知りません、ではなく。

 説明はありません。


 ナミは少しだけ引っかかった。

「危険物ですか?」

「回答権限がありません」

「軍事物資?」

「回答権限がありません」

「じゃあ何なんですか」

「回答権限がありません」


 ナミは思わず天井を見上げた。

「便利ですね、その言葉」

 黒服の男性は表情を変えない。


 本当に何も話すつもりがないらしい。

 代わりに端末を差し出した。

 輸送契約書。

 特殊輸送案件。

 内容物閲覧権限なし。

 配送中の開封禁止。

 輸送優先度A。

 違反時は国家機密保護法の対象。


「重っ……」

 ナミは思わず漏らした。

 ただの残業だと思っていた。

 明らかに違う。

 だがここまで来て断れない。


 そもそも荷物の正体など、配送員にとっては本来どうでもいいことだ。

 重要なのは。

 届けること。

 それだけだった。


 ナミは電子署名を入力した。

 認証完了。

 その瞬間。

 輸送コンテナのロック表示が変化する。


 担当者情報。

 シガン・ナミ。

 輸送責任者登録完了。

 なぜか背筋に小さな寒気が走った。


 気のせいだろう。

 疲れているだけかもしれない。

 黒服の男性と搬送ロボットがコンテナを車両へ運び込む。


 固定完了。

 輸送準備完了。

 作業は驚くほど早かった。

 まるで一秒でも早く、この荷物をここから出したいかのように。


「それでは」

 黒服の男性が言う。

「目的地までの安全な輸送をお願いします」


 ナミは軽く手を上げた。

「はいはい」

「いつも通り届けますよ」

 そう言って車両へ乗り込む。


 ドアが閉まる。

 エンジン音はない。

 静かな起動音だけが響く。


 ナミは最後に一度だけバックモニターを見た。

 固定された黒いコンテナ。

 PR-0001。

 それはただそこに置かれているだけだった。

 だが。

 なぜだろう。

 視線を外しづらい。

 まるで誰かに見られているような。

 そんな奇妙な感覚があった。


 車両が発進する。

 物流センターの灯りが後方へ遠ざかっていく。

 そして。

 神京都の夜は静かに動き始めた。

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