第二話 技術者
第六課のもう一人の男が姿を現した。
ナミは思わず背筋を伸ばす。
背が高い。
山幸より少し高いかもしれない。
年齢は四十代後半。
黒に近い短髪。
整った顔立ちだが、どこか無機質な印象を受ける。
スーツ姿は一見すると普通だ。
だが歩き方が違う。
視線が違う。
人間らしい仕草の中に微かな違和感が混じっている。
その理由をナミは知っていた。
高度義体化。
全身の大部分を機械化している。
第六課技術責任者。
カナヤゴだった。
「朝から元気そうだな」
カナヤゴが言う。
「そう見えます?」
ナミが即答する。
「見えないな」
カナヤゴも即答した。
山幸が笑う。
「徹夜明けだからな」
「知っている」
カナヤゴはラウンジへ入ってくる。
そしてコーヒーメーカーの前で立ち止まった。
「課長から概要は聞いた」
「PR-0001だったな」
「はい」
ナミは頷く。
「襲撃されました」
驚いた様子はない。
むしろ考え込んでいる。
技術者の顔だった。
「監視網の空白」
「存在しない車両」
「担当者不明の輸送案件」
カナヤゴは指を折るように並べる。
「どれも気に入らない」
「気に入る要素あります?」
ナミが言う。
「無いな」
即答だった。
山幸がコーヒーを飲む。
「課長とヤクサは?」
「官邸です」
「なるほど」
山幸は頷いた。
その答えだけで状況を理解したらしい。
カナヤゴも特に驚かない。
むしろ当然だという顔だった。
「それで」
カナヤゴはナミを見る。
「お前は実物を見たんだな」
「何をです?」
「襲撃部隊だ」
ナミは昨夜の出来事を振り返る。
海上道路。
倉庫街。
武装集団。
存在しない車両。
どれもまだ記憶に新しい。
「見ました」
「感想は」
ナミはコーヒーを一口飲む。
そして率直に答えた。
「普通じゃなかったです」
カナヤゴの目が僅かに細くなる。
「どう普通じゃなかった」
ナミは言葉を探した。
「犯罪者って感じじゃなかったです」
その一言で。
ラウンジの空気が少し変わった。
山幸も。
カナヤゴも。
同時にナミを見た。
技術者の質問はまだ始まったばかりだった。




