第三話 違和感
ラウンジの空気が少し変わった。
ナミは紙コップを両手で持ったまま考える。
言葉にするのが難しかった。
戦闘そのものなら説明できる。
人数も。
装備も。
車両も。
だが。
カナヤゴが聞いているのはそこではない。
「犯罪者の集まりって感じじゃなかったです、あれは軍隊です。」
ナミはもう一度言った。
「どういう意味だ?」
カナヤゴが聞く。
ナミは視線を天井へ向けた。
記憶を辿る。
海上道路。
襲撃。
倉庫街。
一連のあの連中の動き。
「統制が取れてました」
最初に出てきたのはその言葉だった。
「統制?」
今度は山幸が聞いた。
「はい」
ナミは頷く。
「慌ててなかったんです」
「慌ていなかった?」
「襲撃の時もそうです」
ナミは続ける。
「普通なら予想外のことが起きたら動きが乱れます」
「でもあの人たちは違いました」
「PR-0001を奪う役」
「私を止める役」
「周囲を警戒する役」
「それぞれ最初から決まっていたみたいでした」
山幸とカナヤゴが顔を見合わせる。
ナミはさらに続けた。
「倉庫でも同じです」
「誰かが倒されても慌てない」
「怒鳴らない」
「勝手な行動もしない」
「必要なことだけやってました」
ラウンジが静かになる。
カナヤゴは腕を組んだ。
「なるほどな」
技術者というより研究者の顔だった。
「他には?」
ナミは少し考えた。
そして。
「撤退です」
「撤退?」
「はい」
ナミは頷く。
「警察が来た時もそうです」
海上道路ではない。
倉庫街だ。
PR-0001を回収した後。
警察車両の接近を確認した瞬間。
敵は即座に撤退へ移行した。
「判断が早すぎました」
ナミが言う。
「未練がなかったんです」
「取り返そうともしてこない」
「怒ってもいない」
「失敗したから撤退する」
それだけでした。
山幸がコーヒーを置く。
「組織的か」
「はい」
ナミもそう思っていた。
あれは個人の集まりではない。
もっと別の何かだ。
カナヤゴはしばらく黙っていた。
やがて。
「シガン」
「はい」
「お前を止めた連中だが」
「軍属経験はあったと思うか?」
ナミは即答した。
「あるはずです。」
迷いはなかった。
「でも全員じゃありません」
「何人かは確実です」
「理由は?」
カナヤゴが聞く。
「距離の取り方です」
ナミは答える。
「近すぎない」
「遠すぎない」
「複数人で囲む位置も自然でした」
「素人じゃないです」
カナヤゴは小さく頷いた。
山幸も真剣な顔になっている。
先ほどまでの穏やかな朝の空気は消えていた。
「面倒だな」
山幸が呟く。
「かなり」
カナヤゴも同意した。
そして視線を窓の外へ向ける。
朝の神京都。
高層建築群の向こうで無数の物流機が飛んでいる。
平和な景色だった。
だが。
その裏側では何かが動いている。
そんな予感がしていた。
「少なくとも」
カナヤゴが静かに言う。
「普通の犯罪組織として処理はできんな」
ナミは黙ってコーヒーを飲んだ。
昨夜から感じていた違和感。
それが徐々に形になりつつある。
PR-0001。
存在しない車両。
記録の空白。
そして訓練された襲撃部隊。
事件はまだ始まったばかりだった。




