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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第3章

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第一話 朝の第六課

 目が覚めた時、ナミは自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。

 白い天井。

 規則的な空調音。

 見慣れた照明。

 数秒遅れて思い出す。


「……知らない天井だ」

 言ってみただけだ。


 身体を起こす。

 端末を見る。

 午前八時四十三分。

 思ったより眠っていたらしい。


 記憶の最後はPROTOとの会話だった。

 担当者が存在しない輸送案件。

 送り主のいないPR-0001。

 そして。

 そのまま仮眠室へ転がり込んだところまでしか覚えていない。


「頭痛い……」

 睡眠時間は取れた。

 だが疲労が消えたわけではない。

 ナミはベッドから降りる。


 服の皺を軽く整えた。

 鏡を見る。

 寝起きの顔だった。

 誰にも見られていないことを祈る。


 仮眠室を出る。

 第六課のフロアは昨夜とは違う空気だった。

 人が増えている。

 電話の音。

 会話。

 端末操作音。

 夜間対応の緊張感とは違う。

 組織が動いている音だった。


 ナミはラウンジへ向かう。

 まずコーヒーが欲しい。

 仕事より先にコーヒーだった。


 その時だった。

「おはよう」

 穏やかな声が聞こえた。

 ナミは顔を上げる。

 ラウンジの窓際。

 一人の男性がコーヒーカップを片手に立っていた。


 四十代後半。

 短く整えられた黒髪。

 派手さのない落ち着いた顔立ち。

 どこにでもいる会社員にも見える。

 だが。

 不思議な安心感があった。

 肩肘を張らない雰囲気。

 人を緊張させない声。

 それでいて目だけはよく周囲を見ている。

 山幸和彦だった。

 第六課情報分析官。

 そして課内でも数少ない家庭持ちである。


「山幸さん」

 ナミは少しだけ表情を緩めた。


 山幸は笑う。

「課長から聞いたよ」

「大変だったみたいだね」

「聞かないでください」

「その顔を見ると相当だったんだろうな」


 ナミは無言でコーヒーメーカーへ向かった。

 紙コップを取り出す。

 ボタンを押す。

 黒い液体が落ちてくる。

 生命維持装置だった。


 山幸は苦笑する。

「まずは洗顔じゃないのか」

「コーヒーが先です」

「なるほど」

「今なら課長より優先です」

「それは聞かなかったことにしよう」


 ナミはようやく一口飲む。

 生き返る。

 本当に生き返る。


 山幸はそんな様子を見ながら笑っていた。

「昨日は夜通しだったんだろう?」

「はい」

「ヤクサとPROTOも?」

「はい」

「課長も?」

「はい」

 山幸は少しだけ空を見た。


「それは大変だったな」

 その一言に変な気遣いも同情もない。

 だからこそ心地良かった。

 ナミはようやく人心地つく。

 が。

 残念ながら穏やかな時間は長く続かなかった。


 ラウンジ入口の自動ドアが開く。

 重い足音。

 金属音にも似た規則的な歩行音。

「よう」

「来たな」

 山幸は軽く挨拶する。

 ナミも振り返った。

 そして。

 第六課のもう一人の男が姿を現した。

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