第八話 正式案件
一条の一言で雰囲気は変わった。
ヤクサ。
PROTOも。
自然と意識を切り替えている。
ナミはその様子を眺めながら小さく息を吐いた。
「嫌な予感しかしない」
独り言だった。
「それは正しい認識ね」
ヤクサが即答する。
ナミは机へ突っ伏した。
一条はホログラムへ視線を向ける。
PR-0001。
襲撃地点。
監視網の空白。
存在しない車両。
表示されている情報は変わらない。
だが見方は変わっていた。
「PROTO」
『はい』
「警察との情報共有状況は」
『実施中です』
PROTOが即答する。
『ただし警察側は通常の武装強盗事件として処理を開始しています』
「当然そうなるだろうね」
一条は頷いた。
「現時点で彼らに見えている情報はその程度だ」
ナミは顔を上げた。
「違うんですか?」
一条は彼女を見る。
穏やかな表情だった。
だが目だけは真剣だった。
「これだけの作戦規模だ、ただの武装強盗ではない」
その一言で部屋が静かになる。
「通常の犯罪組織なら記録を消すことはあっても、最初から存在しない車両は用意できない」
「首都である神京都全域の監視網へ同時に干渉することも難しい」
「まして」
一条はホログラムのPR-0001を見た。
「正体すら分からない荷物のためにここまで大規模な作戦を行うだろうか」
誰も答えない。
答えられなかった。
「課長」
ヤクサが口を開く。
「組織案件ですか?」
一条は数秒考えた。
そして静かに答える。
「現時点では不明だ、一旦上にお伺いを立てておく」
言葉を続ける。
「別命あるまで待機とし、ことと次第によれば一斉に動く」
「ヤクサは、私と一緒に首相官邸まで頼む」
「かしこまりました」
一斉に返事をする。
ヤクサは車の手配に取り掛かる。
ナミは少しだけ表情を引き締めた。
これまでの話とは重みが違う。
今までは配送中の事件だった。
だが今は。
第六課が扱う案件の話になっている。
一条は端末へ手を伸ばした。
認証。
電子音。
ホログラムの表示が切り替わる。
画面上部へ新しい案件番号が表示された。
PROTOがそれを確認する。
『登録を確認』
『案件化完了』
ナミは嫌な予感がさらに強くなった。
「課長」
「何だね」
「今さらなんですけど」
一条が視線を向ける。
ナミは少しだけ間を置いた。
「私、いつ帰れます?」
数秒の沈黙。
ヤクサが吹き出す。
PROTOは真顔のままだった。
一条だけが穏やかに笑った。
「残念ながら」
その時点で答えは分かっていた。
「しばらくは仮眠室がシガン君の家だろうね」
ナミは静かに天井を見上げた。
外ではまだ夜が続いている。
そして。
どうやら自分の長い夜も終わりそうになかった。




