第四話 異常な空白
ナミの報告は三十分以上続いた。
PR-0001の受領。
配送ルート。
襲撃。
追跡。
倉庫への潜入。
そして奪還。
PROTOは途中で一度も口を挟まなかった。
ヤクサも同じだった。
ただ静かに聞いている。
時折端末へ何かを書き込むだけだった。
話し終えた時には、ナミ自身も少し驚いていた。
思った以上に色々なことが起きていたらしい。
「以上です」
そう言ってソファへ背中を預ける。
疲れた。
本当に疲れた。
PROTOは数秒沈黙した。
やがてホログラムを操作する。
神京都の地図が消える。
代わりに複数の映像が表示された。
「何です?」
ナミが尋ねる。
『周辺監視記録です』
PROTOが答えた。
『警察、道路管理局、都市監視網、民間監視カメラから回収した映像を統合しています』
画面が切り替わる。
海上道路。
配送車両。
追跡車両。
襲撃の瞬間。
客観的に見ると妙な気分だった。
「うわ」
思わず声が漏れる。
「私、結構危なかったんですね」
『結構ではありません』
PROTOが即答した。
『極めて危険でした』
「否定できない」
ヤクサが苦笑する。
映像は次々と切り替わっていく。
追跡。
接触。
倉庫街。
武装集団。
PROTOの手が止まった。
『ここです』
ホログラムが拡大される。
海上道路。
襲撃発生直前。
何の変哲もない映像だった。
「何かあります?」
ナミは首を傾げる。
PROTOは別の映像を呼び出した。
さらに別の映像。
さらに別の映像。
複数の角度。
複数の監視網。
異なる記録。
だが。
全て同じ箇所を映していた。
「え?」
ナミは身を乗り出した。
違和感があった。
映像が切れている。
数秒。
ほんの数秒。
だが確かに存在している違和感。
「これ……」
『空白です』
PROTOが言う。
『全ての監視記録において、同一時刻に記録欠損が発生しています』
部屋が静かになる。
ヤクサの表情も変わっていた。
出迎えてくれた時の柔らかな雰囲気は消えている。
「偶然じゃないわね」
『はい』
PROTOが頷く。
『発生時刻は完全一致しています』
ナミは映像を見つめた。
警察。
道路管理局。
都市監視網。
民間設備。
本来なら独立しているシステムだった。
それら全てが同時に欠損する。
そんなことがあるのだろうか。
「ハッキング?」
『不明です』
PROTOは答える。
『しかし通常のサイバー攻撃では説明が困難です』
ホログラムが再び変化する。
今度は神京都全体の地図だった。
複数の地点が赤く表示される。
ナミは眉をひそめた。
「これ全部?」
『はい』
「全部空白?」
『同時刻です』
ヤクサが静かに息を吐き呟く。
「つまり」
「誰かがナミを襲撃するためだけに、神京都の監視網へ穴を開けた」
部屋の空気がさらに重くなる。
ナミは思わず苦笑いを浮かべる。
「嫌なんですけど」
「私も嫌ね」
ヤクサが即答する。
「でも現実よ」
ナミはホログラムを見つめた。
PR-0001。
武装集団。
そして監視網の空白。
配送強奪事件。
そんな言葉で済む話ではない。
それだけはもう理解できた。
PROTOは静かに端末を操作する。
次の資料を表示する準備だろう。
そして。
彼女は初めて少しだけ声の調子を変えた。
『問題はここからです』
ナミは顔を上げる。
PROTOの瞳がホログラムを見つめていた。
そこには新たな情報が表示されようとしていた。




