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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第2章

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第四話 異常な空白

 ナミの報告は三十分以上続いた。

 PR-0001の受領。

 配送ルート。

 襲撃。

 追跡。

 倉庫への潜入。

 そして奪還。


 PROTOは途中で一度も口を挟まなかった。

 ヤクサも同じだった。

 ただ静かに聞いている。

 時折端末へ何かを書き込むだけだった。

 話し終えた時には、ナミ自身も少し驚いていた。

 思った以上に色々なことが起きていたらしい。


「以上です」

 そう言ってソファへ背中を預ける。

 疲れた。

 本当に疲れた。


 PROTOは数秒沈黙した。

 やがてホログラムを操作する。

 神京都の地図が消える。

 代わりに複数の映像が表示された。


「何です?」

 ナミが尋ねる。

『周辺監視記録です』

 PROTOが答えた。

『警察、道路管理局、都市監視網、民間監視カメラから回収した映像を統合しています』


 画面が切り替わる。

 海上道路。

 配送車両。

 追跡車両。

 襲撃の瞬間。

 客観的に見ると妙な気分だった。


「うわ」

 思わず声が漏れる。

「私、結構危なかったんですね」

『結構ではありません』

 PROTOが即答した。

『極めて危険でした』

「否定できない」

 ヤクサが苦笑する。


 映像は次々と切り替わっていく。

 追跡。

 接触。

 倉庫街。

 武装集団。


 PROTOの手が止まった。

『ここです』

 ホログラムが拡大される。


 海上道路。

 襲撃発生直前。

 何の変哲もない映像だった。


「何かあります?」

 ナミは首を傾げる。


 PROTOは別の映像を呼び出した。

 さらに別の映像。

 さらに別の映像。

 複数の角度。

 複数の監視網。

 異なる記録。

 だが。

 全て同じ箇所を映していた。


「え?」

 ナミは身を乗り出した。


 違和感があった。

 映像が切れている。

 数秒。

 ほんの数秒。

 だが確かに存在している違和感。


「これ……」

『空白です』

 PROTOが言う。

『全ての監視記録において、同一時刻に記録欠損が発生しています』


 部屋が静かになる。

 ヤクサの表情も変わっていた。

 出迎えてくれた時の柔らかな雰囲気は消えている。

「偶然じゃないわね」

『はい』

 PROTOが頷く。

『発生時刻は完全一致しています』


 ナミは映像を見つめた。

 警察。

 道路管理局。

 都市監視網。

 民間設備。

 本来なら独立しているシステムだった。

 それら全てが同時に欠損する。

 そんなことがあるのだろうか。


「ハッキング?」

『不明です』

 PROTOは答える。

『しかし通常のサイバー攻撃では説明が困難です』


 ホログラムが再び変化する。

 今度は神京都全体の地図だった。

 複数の地点が赤く表示される。


 ナミは眉をひそめた。

「これ全部?」

『はい』

「全部空白?」

『同時刻です』


 ヤクサが静かに息を吐き呟く。

「つまり」

「誰かがナミを襲撃するためだけに、神京都の監視網へ穴を開けた」


 部屋の空気がさらに重くなる。

 ナミは思わず苦笑いを浮かべる。

「嫌なんですけど」

「私も嫌ね」

 ヤクサが即答する。

「でも現実よ」


 ナミはホログラムを見つめた。

 PR-0001。

 武装集団。

 そして監視網の空白。

 配送強奪事件。

 そんな言葉で済む話ではない。

 それだけはもう理解できた。


 PROTOは静かに端末を操作する。

 次の資料を表示する準備だろう。

 そして。

 彼女は初めて少しだけ声の調子を変えた。

『問題はここからです』


 ナミは顔を上げる。

 PROTOの瞳がホログラムを見つめていた。

 そこには新たな情報が表示されようとしていた。

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