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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第2章

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第二話 金髪の外交官

 深夜の行政庁舎は静かだった。

 昼間の喧騒が嘘のように、人影は少ない。

 だが完全な無人ではない。

 警備員。

 清掃ドローン。

 夜勤職員。


 そして、この時間帯でも灯りの消えない部署がある。

 これから向かう場所がそれだ。

 認証ゲートを通過する。

 エレベーターへ乗る。

 目的階へ到着。

 扉が開く。

 見慣れた廊下だった。


「終わったと思ったんだけどなぁ……」

 ナミは俯き小さくぼやく。


 その時だった。

「お疲れ様、ナミ」

 柔らかな女性の声が聞こえた。

 ナミは顔を上げる。


 ラウンジの照明の下。

 一人の女性が立っていた。


 長い金髪。

 肩を越えて流れる髪は、深夜にもかかわらず艶やかだった。

 翡翠のような緑色の瞳。

 整った顔立ち。

 雑誌の表紙を飾っていても不思議ではない美貌。

 だが。

 その瞳の奥には鋭さがある。

 柔らかく微笑んでいても、一瞬たりとも油断していないことが分かる。


 ナミにとっては、できれば仕事以外では関わりたくない相手の一人だった。

 一緒にいると、女性としての何かが崩れてしまいそうで・・・。


「ヤクサ……」

「あら、その反応は何かしら」

「いえ」

「失礼なこと考えてたでしょう」

「考えてません」

「考えてた顔ね」


 即答だった。

 ナミは反論を諦めた。

 勝てない。

 昔からそうだ。


 ヤクサは楽しそうに微笑む。

「座ったら?」

 ラウンジのソファを指差す。

 テーブルの上には湯気の立つマグカップが置かれていた。


 コーヒーの香りがする。

 ナミは少しだけ感動した。


「神様……」

「貴女の神様じゃないわ」

「今だけ私の神様です」


 ナミはソファへ沈み込む。

 身体が悲鳴を上げていた。

 ようやく落ち着いて座れた。

 本当にようやくだった。


 コーヒーを一口飲む。

 温かい。

 それだけで少し生き返る気がした。


「で?」

 ナミはマグカップを持ったまま尋ねる。

「何が起きてるんです?」


 ヤクサは答えなかった。

 代わりにナミを見つめる。

 数秒。

 観察するような視線。


「あなたこそ」

 ヤクサは静かに言った。

「何があったの?」


 その言葉で思い出す。

 PR-0001。

 襲撃。

 武装集団。

 追跡。

 倉庫。

 奪還。

 配送完了。

 どれも数時間前の出来事とは思えなかった。


「長いですよ?」

「大丈夫」

 ヤクサは微笑んだ。

「今夜はみんな長くなりそうだから」


 その言葉に少し違和感を覚える。

 みんな。

 ということは。


「私以外にも誰か来てるんですか?」

 ナミが尋ねる。


 ヤクサは頷いた。

「来てるわ」

 それだけ答える。


 誰なのかは言わない。

 だがその表情を見る限り、ただ事ではないらしい。

 ナミはコーヒーを飲み干した。

 疲労は消えない。

 だが頭は少しだけ回り始めていた。

 どうやら。

 本当にただの配送事故では済まないらしい。


 ラウンジの向こう。

 執務エリアの灯りはまだ消えていない。

 自分以外のメンバーが動いている。

 そんな空気が伝わってきた。


 ヤクサは空になったマグカップを見て微笑む。

「少し休めた?」

「五パーセントくらい」

「十分ね」

「基準がおかしいです」


 ヤクサは楽しそうに笑った。

 そして立ち上がる。

「行きましょう」

「どこへ?」

「PROTOが待ってるわ」


 ナミは天井を見上げた。

 やはり逃げられないらしい。

 長い夜は。

 まだ続いている。

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