第一話 午前二時の招集
神京都の夜は終わらない。
それはこの都市の美点であり、同時に欠点でもあった。
午前二時十七分。
配送車両を返却し終えたナミは、施設の駐車場で大きく伸びをした。
背中が鳴る。
肩も痛い。
今日は間違いなく働きすぎだった。
「帰りたい……」
心の底からそう思う。
PR-0001。
襲撃。
追跡。
倉庫への単独潜入。
奪還。
そして配送完了。
一日どころか一週間分くらい働いた気がする。
本来なら今頃、自宅で寝ている時間だった。
だが現実は違う。
端末の画面にはご丁寧にも追加のメッセージ。
メッセージには簡潔な指示が表示されている。
『至急、第六課へ出頭してください』
送信者。
PROTO。
それ以上の説明はなかった。
「説明くらい付けてよ……」
ぼやいてみる。
当然返事はない。
いや。
返ってきたとしても。
PROTOならきっと。
『必要ありません』
一言で終わるだろう。
ナミはため息を吐いた。
深夜の行政区画は静かだった。
だが完全に眠っているわけではない。
無人搬送車が走り。
警備ドローンが巡回し。
都市運用AGIが膨大な情報を処理し続けている。
神京都は二十四時間動き続ける都市だ。
その一部である以上、自分も止まれない。
「労働基準法って知ってる?」
誰に向けた言葉でもなかった。
ナミは車両へ乗り込む。
今度は配送車両ではない。
第六課用の公用車だった。
認証。
起動。
自動運転開始。
行き先は既に設定されている。
第六課。
正式名称を知る者は少ない。
知っていても詳しく語る者は少ない。
神京都の行政機関には属している。
だがどこの部署とも少し違う。
奇妙な組織だった。
車両は夜の都市を滑るように進む。
高層建築群の光が窓へ流れていく。
海上区画を渡る橋。
人工運河。
浮かぶ輸送プラットフォーム。
神京都は昼よりも夜の方が美しい。
そう思う瞬間がある。
もっとも。
今日はその余裕もなかった。
疲れている。
本当に疲れている。
瞼が重い。
思考も鈍い。
PROTOが直接呼び出す。
嫌な予感しかしない。
「絶対面倒なことになってる」
ナミは窓の外を見た。
夜の都市が流れていく。
PR-0001。
あの荷物は何だったのか。
なぜ襲われたのか。
なぜあれほどの武装集団が動いたのか。
結局何も分かっていない。
分かっているのは一つだけだ。
配送は終わった。
だが事件は終わっていない。
それだけは確信に近かった。
やがて車両が速度を落とす。
前方。
巨大な複合行政施設が見えてきた。
神京都中央行政庁舎。
その一角に、第六課は存在している。
車両が静かに停止した。
到着を知らせる電子音が鳴る。
ナミはシートへ身体を預けたまま数秒動かなかった。
「帰って寝たい……」
小さく呟く。
だが。
現実は待ってくれない。
ナミは重い身体を起こした。
そして施設の入口へ向かう。
長い夜は。
まだ終わりそうになかった。




