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神京都監査録 ~独立公文書管理審査機構 第六課~  作者: タツ梵
第1章

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第十五話 配送完了

 神京都の夜は、まだ終わっていなかった。

 損傷した配送車両は静かに道路を走る。

 後部センサー損傷。

 通信不安定。

 自動運転機能停止。

 警告表示は相変わらず消えない。


 だが。

 PR-0001は後部貨物室にある。

 それだけで十分だった。


「本当に長かった……」

 ナミはハンドルに頬杖をつく。


 いつもの配送業務なら、とっくに帰宅している時間だ。

 夕食を食べて。

 風呂に入って。

 適当に動画でも見ながら寝ている。

 本来なら。


「残業手当、ちゃんと出るよね……?」

 誰に聞くでもなく呟く。

 返事はない。

 車両だけが夜の道路を走り続ける。


 やがて。

 配送先が近付いてきた。

 都市中心部から少し離れた行政区画。

 深夜にも関わらず施設は稼働している。


 厳重な警備。

 認証ゲート。

 無機質な建物。

 PR-0001がただの荷物ではないことだけは改めて理解した。


 車両が停止する。

 認証。

 確認。

 受領手続き。

 全てが機械的に進む。

 中身についての説明はない。

 質問も許されない。


 それでいい。

 配送員の仕事は届けることだ。

 知ることではない。

 貨物固定具が解除される。

 PR-0001が搬送されていく。


 それを見届けた瞬間。

 ナミの全身から力が抜けた。

「完了……」

 長い夜だった。

 本当に。

 長かった。


 襲撃。

 追跡。

 奪還。

 警察。

 倉庫街。

 どれも今日一日の出来事とは思えない。


 ようやく終わった。

 少なくとも配送業務は。


 ナミは配送車両へ戻る。

 運転席へ座る。

 深く息を吐く。

 静かだった。


 ようやく終わった。

 そう思った。

 その時だった。

 端末が鳴る。

 短い電子音。

 業務着信。


「……え?」

 ナミは画面を見る。

 差出人を確認した瞬間。

 顔が引きつった。


『PROTO』

 表示された名前を見て、ナミは数秒固まった。


「嘘でしょ」

 嫌な予感しかしない。

 恐る恐る通信を開く。


 画面の向こう。

 銀白色の長い髪。

 整った顔立ち。

 淡々とした表情。

 PROTOだった。


『シガン・ナミ』

「はい」

『至急、第六課へ出頭してください』

「今?」

『今です』

 即答だった。


 ナミは天井を見上げた。

 沈黙。

 数秒。


『何か問題がありますか?』

「あります」

 即答した。


『一応こちらでも早期解決のため』

『バックアップをいたしましたが』

 倉庫での暗転を指示していることは即理解したが。


「問題はいっぱいあります」

『具体的には』

「帰りたいです」


『・・・』

 PROTOは無言だった。

 数秒。

 沈黙が続く。

 やがて。

『却下します』

 感情のない声だった。


 ナミはシートへ深く身体を沈めた。

 終わったと思った。

 配送は完了した。

 だから今日は終わりだと思った。

 だが違った。

 どうやら本当の仕事はこれかららしい。


 夜の神京都。

 車内で一人。

 ナミは大きくため息を吐いた。

「……残業、終わってなかったかぁ」


 端末の画面には変わらずPROTOが映っている。

 そしてその向こうには。

 まだナミの知らない出来事が待っていた。

 神京都の夜はまだ終わらない。

これにて、第一章終わります。

特段説明など入れないスタイルにしております。

読み進めて行く中で、様々展開を持たせ皆様の想像の中で思い思いの形を描いていただけると楽しんでいただけるかなと思っております。


第二章は、6/29(月) 21時を予定しております。

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