第十四話 奪還
暗闇。
倉庫全体から光が消えた。
非常灯だけが赤く点滅している。
怒号。
足音。
金属音。
誰かが叫んでいる。
誰かが走っている。
視界を奪われた倉庫内は一瞬で混乱に包まれた。
「ナイトモードセレクト」
ナミは小さく呟く。
視界の色が変わる。
薄暗い倉庫の輪郭が浮かび上がった。
非常灯だけでも十分見える。
少なくとも自分は。
「丸見えですよ」
誰に言うでもなく呟く。
そのまま床を蹴った。
目的は一つ。
PR-0001。
敵を倒す必要はない。
荷物を回収する。
それだけだ。
暗闇の中を一直線に進む。
誰かと肩がぶつかる。
反射的にスタンロッドを振る。
悲鳴。
転倒。
確認もしない。
足を止める理由がない。
コンテナへ到達。
PR-0001。
そこにあった。
「お待たせしました」
ロックを確認する。
輸送状態維持。
破損なし。
問題なし。
ナミはコンテナの把手を掴んだ。
重い。
だが運べる。
その時。
暗闇の向こうから声がした。
「確保しろ!」
責任者の男だった。
まだ諦めていないらしい。
「嫌です」
即答だった。
ナミはコンテナを抱えたまま走り出す。
非常口方向。
事前に確認済み。
距離は短い。
障害物も少ない。
後方で発砲音が響く。
だが狙いが甘い。
暗闇の中では相手もまともに見えていない。
非常口へ到達。
ロック解除。
扉を蹴り開ける。
夜風が吹き込んだ。
外だ。
逃げ切れる。
そう思った瞬間。
遠方からサイレンが響いた。
一台ではない。
複数。
神京都警察。
ようやく来た。
「さてどうしたものか」
ナミは思わず顔をしかめた。
敵に見つかるのは困る。
警察に見つかるのも困る。
事情を説明している時間がない。
PR-0001を届けなければならない。
それが最優先だった。
倉庫街の反対側では赤色灯が次々と見え始めている。
警察車両。
警備ドローン。
封鎖部隊。
包囲網が形成され始めていた。
責任者の男もそれに気付いたらしい。
舌打ちが聞こえた。
「撤収だ!」
命令が飛ぶ。
武装集団が散開する。
計画は失敗した。
少なくとも彼らはそう判断したのだろう。
ナミは振り返らなかった。
PR-0001を抱えたまま倉庫街を駆け抜ける。
目的は達成した。
後は。
届けるだけだ。
それが配送員の仕事だった。
ナミは無事に配送車両へ戻っていた。
コンテナを後部へ固定する。
確認。
PR-0001。
回収完了。
輸送状態正常。
思わず安堵の息が漏れた。
「はぁ……」
長い夜だった。
だが。
まだ終わっていない。
届け先が残っている。
ナミは運転席へ乗り込む。
エンジン起動。
損傷警告が相変わらず点滅している。
「もう少しだけ頑張って」
配送車両へ話しかける。
返事はない。
当然だ。
それでも車両は静かに動き出した。
PR-0001を載せて。
本来の届け先へ向かうために。




