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Outpost B

「諦めるなああ!」


俺は血を吐いた。


全身が血まみれになりながらも、仲間を鼓舞するために無理やり立ち上がる。


メジャーに四方八方を囲まれた状況の中で。


ディーだけはまだ他の者より冷静だった。


彼女の身体に刻まれた無数の傷跡は、積み重ねてきた経験の証だった。


だが、目の前には数え切れないほどのエリートクラスのメジャー。


経験豊富なディフェンダーが一人いるだけでは足りない。


「バフをかけろ! 早く!」


ディーは倒れ込んでいる女性サポーターへ叫んだ。


だが、もう何をしても無意味だった。


彼女の意識は完全に飛んでしまっている。


ようやく正気を取り戻したもう一人のアタッカーが頬を叩いて呼びかけても、何の反応もなかった。


「奴らの刃は鋭い。私もそう長くは防げないぞ」


「何か作戦はあるんですか?」


ディーは一瞬だけ俺と目を合わせ、それから再びメジャーへ視線を戻した。


「ハハ……言いたくはないがな。今の私は何も思いつかない。こんな数のエリートクラスのメジャーなんて初めて見た。今はただ願うしかないな」


「願う?」


「ああ。私たちがこの地獄から生きて帰れることをな。もし他のプライムチームが間に合えばだがな、坊主」


希望か……。


俺は周囲を見渡した。


そこには無数のメジャーしかいなかった。


今は一体ずつ襲ってきている。


だが、もし一斉に突撃されたら、ディー一人の盾では到底防ぎきれない。


クククク……


奴らの笑い声が響く。


その音がひどく癇に障った。


俺はすぐに声のした方向へ発砲した。


だが、その笑い声はすべてのメジャーから聞こえてきた。


その時だった。


一体のメジャーがサポーターへ向けてミサイルを放った。


俺もディーも気付くのが遅れた。


俺にできたのは、せめて到達前に撃ち落とそうとすることだけ。


だが間に合わなかった。


轟音。


爆発。


二人の仲間の身体は爆風と共に砕け散った。


ふざけるなよ……。


もし俺がもっと強ければ。


もっと速ければ。


あのミサイルは全部撃ち落とせたはずだ。


鋼鉄を何重にも貫くはずの攻撃が、今はメジャー相手にろくなダメージすら与えられない。


今、この状況を覆せるものが一つだけある。


アルティメットスキル。


プライムがそれぞれ一つだけ持つ唯一無二の究極能力。


だが、全員が持っているわけではない。


運が悪ければ持たない者もいる。


俺やディーのように。


ガァン!


ディーは盾で攻撃を受け止め、大剣でメジャーを真っ二つに叩き斬った。


彼女の身体は無数の傷だらけだった。


もし俺なら、もうとっくに死んでいただろう。


そして――


ついに恐れていたことが起きた。


弾切れだった。


普段から予備弾薬は多めに持つ方だった。


それでも足りなかった。


チッ……


俺は唇を噛み切り、安物のプラズマソードを抜く。


俺は本来、銃器戦闘が得意だ。


『貫通力増加』のスキルがあるからだ。


だが接近戦になれば、ただの剣を持った一般人と変わらない。


しかも腕前は大したこともない。


「危ない!!」


俺はディーの防衛線を抜けたメジャーへ剣を振るった。


鋭い牙が顔を掠める。


振り返ると、メジャーは真っ二つになっていた。


安物だと馬鹿にしたことを少し後悔した。


俺は訓練通りの構えを取る。


それでも自信など湧いてこない。


そしてその瞬間だった。


ディーが隙を突かれた。


いや――


メジャーの刃が、損傷した盾を貫き、彼女の脇腹を貫通したのだ。


「がっ……!」


血が噴き出す。


それでも彼女は一歩も退かなかった。


「狙い続けろ……ぐあああっ!」


彼女は素手で刃を折り、そのまま怪物を握り潰した。


ククッ……


クククッ……


死に際ですら奴らは笑う。


俺は気付いていなかった。


その声が少しずつ俺を蝕んでいたことに。


「ディー! 大丈夫ですか!」


「うっ……。この程度の傷ならディフェンダーには大したことないさ。それより問題は、もう私たちを守る壁がないことだ」


そんな状況でも、彼女の目には焦りがなかった。


俺とは違う。


俺は死ぬのが怖かった。


そして奴らの笑い声にも怯えていた。


「お前は死ぬのが怖いか?」


「どうしてですか? もちろん怖いですよ。俺はまだ何も――」


「ああ……そうか」


ディーはゆっくり立ち上がった。


剣を杖代わりにして。


俺は彼女の考えが分からなかった。


問いかけても返ってきたのは微笑みだけだった。


その時初めて気付く。


彼女の身体は大きい。


俺など子供に見えるほど。


「なあ、この剣が見えるか?」


「み、見えますけど……?」


「この剣に乗れ」


「は……? どういう意味ですか」


「私のアルティメットスキルは筋肉強化だ。一時的に力が上がるだけ。メジャー相手じゃ大して役に立たない。だから誰にも言わなかったんだ」


「まさか……あなた……」


その瞬間。


俺は本当に子供になった気がした。


涙が勝手に流れる。


いつからだろう。


こんなにも悲しみを抑えられなくなったのは。


「さあ、早く乗れ! 時間がない!」


カチカチ……


メジャーたちが再び動き始める。


奴らには感情がない。


いや。


感情そのものが存在しない。


俺は分かっていた。


ディーが何をしようとしているのか。


時間を止めてしまいたかった。


どうすればいいのか考えたかった。


「お前はまだ生きたいんだろ?」


「う……うぅ……はい。俺はまだ生きたいです」


俺は涙を拭い、大剣へよじ登った。


先端の窪みにしがみつく。


ディーは俺ごと剣を持ち上げた。


まるで羽根のように軽々と。


そして投擲の構えを取る。


身体を捻り。


限界まで引き絞る。


その姿を見て、俺は自分が情けなくて仕方なかった。


死を恐れていないと思っていた。


だが違った。


「で、でも……あなたは怖くないんですか」


ディーは口元を緩めた。


「私はな。もう十分生きたんだ。もし今日が終わりなら、それでも後悔はない。昔の私はお前と同じだった。仲間を失い、死んだような目をして、自分は死が怖くないと思っていた。でも戦場で壊れかけた時、一人の男が命を捨てて私を助けた」


彼女は少し空を見た。


「どうしてそんなことをしたのか分からなかった。知り合って間もなかったのにな。でも今なら分かる」


「で、でも……もう太陽を見られなくなるんですよ……」


「ふっ」


ディーは笑った。


そして――


全力で剣を振り抜いた。


俺は何も反応できなかった。


だが、彼女の声だけは聞こえた。


「私は少し下の世界で休むだけさ。違いはそれだけだ、坊主。お前はまだ進まなきゃいけない。私はもう休む時間なんだ」


ドォォォン――


クラスロードの光線が彼女を飲み込んだ。


炎が周囲を覆い尽くす。


メジャーたちは咆哮する。


獲物を逃したことに苛立つように。


ディーの投擲は凄まじかった。


俺は剣ごと空を飛んでいた。


まるで本当に飛行しているかのように。


俺はまだ何も聞いていない。


本名も。


もっと色々な話も。


胸が締め付けられた。


剣が手を切り裂き、血が流れる。


それでも離さなかった。


下を見ると。


俺がいた場所へ向かう艦隊が見えた。


そうか……。


彼女が託した希望は。


間に合わなかったんだな。


全部。


遅すぎたんだ。


その時。


胸の奥で何かが燃え上がった。


剣はなおも空を飛び続ける。


速度は増し続ける。


やがて摩擦熱による炎が生まれた。


まるで夜空を駆ける流れ星だった。


いつ地面へ落ちるのかも分からない。


心も身体も限界だった。


俺は剣にしがみついたまま眠りへ落ちる。


星々の下で。


あの悪夢から逃げるように――



エーカーベース。


人類最後の砦。


その夜、Major Expansionの最中。


一つの流れ星がエーカーベースの上空を横切った。


それを見た人々は願いを込める。


「どうか俺たちが勝てますように」


「家族と海を見たい」


「メジャーがこの世界から消えますように」


「明日も星を見られますように……」


無数の願い。


無数の希望。


それらは何も知らぬまま眠る若きプライムへと向けられていた。


大人も。


子供も。


誰もが流れ星へ祈った。


その時。


エーカーの最上部に立つ一人の女性がいた。


彼女だけは違った。


彼女は流れ星の中に何かを感じ取っていた。


輝くオーラを纏う身体。


水のように揺れる純白の長髪。


そして彼女はマナを感じ取った。


だからすぐに理解した。


あれは流れ星ではない。


プライムだ。


炎を纏うほどの速度で飛翔するプライムだった。


彼女は少し考えた後、空へ飛び立った。


一瞬で距離を詰める。


そして辿り着いた先には――


何も知らず眠るシットがいた。


大剣にしがみついたまま。


「新たに生まれた可能性……というわけか」


彼女は呟きながらシットの周囲を漂う。


「なかなか面白い経験をしてきたようだな」


彼女はシットを見つめた。


すると。


彼の過去。


人生。


固有スキル。


様々な情報が見えた。


そして何かが彼女の興味を引く。


「ふむ。この変数はどこに隠れていたんだろうな。未来の私にとって重要な鍵になるかもしれない」


彼女はそっとシットの頭を撫でた。


その温もりで。


シットはうっすらと目を開く。


「君はきっと未来で重要な人物になる。だからあまり自分を追い詰めるな」


その手は優しかった。


温かかった。


安心できた。


シットが今まで一度も味わったことのない感覚だった。


だから彼は再び眠った。


彼女は微笑む。


そしてシットを抱き上げた。


さらに高速で飛んでいた大剣さえも、簡単に掴み取る。


華奢な身体。


だが想像を超える力。


「この剣は将来のお前にとって大切なものになるだろう。私が預かっておいてやる」


彼女は静かに言った。


「今は休むといい」


謎の女性はシットを抱き、大剣を木の枝でも持つように片手で持つ。


そして指先で空間を裂いた。


生まれた次元の裂け目へ足を踏み入れる。


その姿は。


跡形もなく消え去った。


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