第21話 「断崖孤走」――逃げて逃げて逃げて逃げ延びたい
「ちょっと派手にやりすぎだよぉ……こんなバラバラにしなくてもいいのに」
こことは別の世界・魔界にて黒髪の小さな魔族が困り顔で話す。
青く美しい双眸が僅かに揺れる。
「だがこうでもしないとこいつら復活するだろうが……」
そしてもう1人の魔族が顔をしかめ、手についた返り血をぬぐう。
辺り一面にはとてつもなく鋭利ななにかで斬られた魔族の死体が転がり、まさに地獄絵図だ。
「アクロー 例の石は?」
「ちゃんと見つけたよ!これだよね!」
"アクロー"と呼ばれた魔族がポケットから赤く光る魔鉱石をとりだす。
「ああ。よくやったぞ」
「えへへ〜褒められちゃった!敵が持っていたんだ!」
「それはお前がもっておけ。何かあった時 お前なら逃げられるからな」
「も〜……リッパーったら 僕たちは運命共同体でしょ?」
「……そうだな。 さて、長居しすぎたらしい。クソ野郎どもが押し寄せてくる前にーー」
「わわっ!リッパー!空からなんかきてるよ!」
2人の魔族が紅い空を見上げると、真っ黒い翼を利用し、ものすごい勢いで接近してくる魔族。
――そして、左手にはギラついたククリナイフが。
「侵入者がァ!希少族のガキから殺してやるぜぇ!!!」
翼を生やした魔族が唾を飛ばし、アクローを正確に捉えた。
ーー次の瞬間
スパッ!!!
翼の魔族は真っ二つになり地に伏せた。
右半身と左半身が決裂し、内側から五臓六腑が音を立て堕ちていった。
大量の赤い血がリッパーに降りかかる。
リッパーは赤く染った剣の先端を少し舐め、直ぐにペッと吐き出す。
「……チッ。こいつはあのクソ帝皇の刺客だ」
リッパーは地に伏せた肉塊を灰色の脚で乱暴に蹴りあげる。
「また刺客……?」
アクローが眉を八の字にして喉を鳴らす。
「ああ、やはりオレらを狙ってやがるな」
そして右足で肉塊を蹴り落とし、潰してしまう。
「血の味だけで誰かわかるんだ!さっすがリッパー!」
少年は両手を重ね、わかりやすく嬉嬉として軽くジャンプする。
「そろそろ行くぞ。オレらは敵が多いから…」
血塗られた2人は"ゲート"を目指した。
ーー数多の骸と罪を抱えながら。
* * *
そして約束の日。
ついにアクラは無属性のまま この日を迎えてしまった。
――それは、クラグレア教授がアクラとエペに課した課題。
"この1週間で属性を見つけてきてくださいねェェェ〜"
「アクラさん。えーっと…元気だせとは言いませんけど……きっとなんとかなりますよ……!」
エペが宥めるように整った口元を緩ませ、気まずそうに微笑む。
「……あ、う、うん」
そして2人は約束の場所ーー崖へと歩いていった。
そこにはすでにクラグレアが椅子に座っていた。おそらく持参したのだろう。
さらに赤黒い生肉をかじっていた。
「あぁらぁぁ〜 お疲れ様でぇす!!属性は身につけましたかぁぁ??」
クチャクチャと音を鳴らしながら教授は興奮したように顔を近づける。
「我は風属性を身につけました」
そうしてエペは実演した。フェンシングエペを空に向けて魔力を込めると風が発生し近くの木をなぎ倒した。
「で、できました!」
「おおおおっ!すごいですねぇぇっ!!アナタは合格ですよぉっ♡」
「あ、あの……クラグレア先生。実は……」
「さぁて!次はアナタの出番ですよぉっ♡」
「クラグレア先生!……おれ、なにも……発現できませんでした……!!」
「……んんんっ?? 」
冷や汗が出る。緊張で息が荒くなる。
「それはぁ……仕方がないですねぇ」
「それって……つまり……!」
――安堵。
無属性でもこの隊に居られるんだ…!
いや、属性なんて関係ない!
なんせおれは…例の"爆"を操る魔族と戦って生き残ったんだから!
「じゃあアナタは孤誓隊にはいれませんねぇ」
ーーーえ??
「先生!それは……さすがに無慈悲ですよ!」
エペが甲高い声で叫ぶ。
「無慈悲? 無属性の子を戦場に送る方が無慈悲と呼べるのではないでしょぉか?」
ーーー孤誓隊 追放……??
呼吸が荒くなる。目の前がぼんやりとする。
「アナタは孤誓隊ではなく壱隊に行ってもらいましょおか。残念でぇすが これはおいらのルールなのでぇすよ」
いくらなんでも……
ーー壱隊。それは特に能力のない、秀でた才がない戦士が集まる雑なものである。
基本的に戦士は孤誓隊や無敵隊、月虹隊など20を超える隊のいずれかに入ることになるが。
それにすら選考審査落ちの末路が壱隊なのである。
――記憶が、途切れた。
それからはあまり覚えていない。
アクラは寮の部屋は一週間後に壱隊の寮に移されるらしく、孤誓隊ではなくなったため一部の施設の利用禁止令がだされた。
能力が、ない。それはここでは罪なのだ。
ーーノイズが必要だ。
今を誤魔化すことができる、雑音が欲しい。
雑音に気を取られて 惑わされてしまいたい。
この最低な感情を少しでも緩和してほしい。
「残念だ。きみがいなくなるなんて」
セラフィナは残念がる。
だが どうしてだろう。必死さを感じない。呪いの研究は……ゼグレだけで十分ということなのか……?
「また機会があれば会おう」
セラフィナはそれだけ言って去った。
その日の夕方。
孤誓隊のみんなには会えるだろうが、どんな目を向けてくるだろう。
筋肉のバロロや、天然な弓使いのジャック、ミスターナルシストの光月なんかは励ましてくれるかな……。
優雅なイメージの刹那とかエペは話を聞いてくれそうかな……。
みずきとクレイは……煽ってきそうだな。
特にクレイは…なんとなくいやだ。
ツヴァイには同情の眼差しが向けられるんだろうな……腹たってきた。
ーーその中でも今1番会いたくないのは ゼグレ……お前だよ。
壱隊に挨拶にいくため 長い廊下を歩き 角を曲がる……その時。
誰かとぶつかった。
「わ、悪い!薄暗くてさ……はは」
そういって相手の顔を見るとーー
双呪の相方…霧雪…ゼグレ
「なんだ。お前か」
「そ、それはこっちのセリフだ!なんでお前がこんなところに……」
「お前を探しに来た。 孤誓隊から抜けるらしいな。理由はなんだ」
「わ、わりいかよ!お、お前がいるから別のとこに移ってやろうとおもっただけだ! 」
また嘘をついた。能力不足で追放されたなんて言えるはずがない。
「……そうか。宛はあるのか?」
「お、おうよ!だが言わねーぞ!」
「わかった。」
そうしてゼグレはどこかへ行ってしまう。
「死ぬなよ」
その一言がアクラにははっきりと聞こえた。
嫌な感情が、逆流して、吐きそうだ。
アクラは壱隊の座学室の目の前まで来た。どんなやつがいるのか。
……それだけは正気、唯一の楽しみだった。
そして勢いよくドアをあける。
「お、おっす!おれはアクラ!今日からよろしーー」
その座学室には20人ほどいただろうか。
ーーみな、目が死んでいる。
アクラと目が合うなりみな目を逸らしなにやらボソボソと陰口をしている。
「また出来損ないがきちまったな……」
「ああ……俺らみたいなカスはこうやってここに集められんのさ 」
「でもさ……生きてるだけで満点だよね私たち。頑張らなくても いいよね」
「そ、そうだよな 」
ーー無気力軍団。
孤誓隊とは全てにおいて真逆の隊だった。
「あんた……どこの隊から編入だ?」
「おれは孤誓隊からだ! 」
「孤誓隊だって?あんた…背伸びしすぎたんだよきっと」
「……は? 」
「それに壱隊にはいっちまったらもう他の隊には行けねぇんだ。それが制度。まぁしゃーねえよなあ俺らみたいな出来損ない」
ーーやめろ。
「身の丈にあった隊に入ろうぜ?楽になろう。なっ? 」
ーーやめてくれ……!!
「努力するだけ無駄なんだよ」
ーーやめろ……!!!!!
気づけば座学室を飛び出していた。
ああはなりたくない。
あそこにいれば腐ってしまう。
いずれ死んでも、誰も認知してくれない。
――こわい。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
……………コワイ
――認めて、ほしい。
アクラは校舎を抜け出し あの崖へと走っていった。もう既に夜だ。
崖から見えるゾラン王国の城下街の美しさがいまのアクラを嘲笑っているようだった。
「……くそ どうすれば……!」
夜時間、壱隊は許可なく校舎外への移動が固く禁じられている。
今戻ったら 処罰がまっているだろう。
将来の不安と絶望感は彼を闇へと侵食するには十分すぎた。
そして森の奥へととにかく走る。
足からは血が出て 胸が痛い。
胸の糸は張ったままだった。
◇◇◇
次回:幽灯の双呪
全てを捨てて逃走したアクラ。
もう全てを諦めてしまいたい。
そんな時、暗闇の中で紅い何かが光った。
まるで、これからの地獄を表しているかのように。
「暗雲光紅」
◇◇◇




