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第19話 「九色属性」――半端者の温い懐柔


1日目の夜ーー

「じゃあオレ様たちは帰るぜェ。属性探し頑張れよなァ!(仲間思いなオレ様もまた、美しいぜェ……)」

ミスター・ナルシストこと清水光月は軽く手を振る。 その仕草は余裕に満ちていて、城下街の埃すら触れていないようだった。


光月と筋肉の妖精バロロは、属性探しに奮闘するアクラと女尊男卑マスターエペの2人に簡単な属性の基本を説明して帰って行った。


「……なんか色々むずかしかったな」

アクラは倉庫の壁にもたれ、夜空を見上げる。 体がだるい。頭も回らない。

「今回は説明だけでしたからね。まぁ我は大体の属性は覚えました」


――この世界には9つの属性が存在する。

火、水、風、雷、光、闇、毒、精神、魂


「うーん……多すぎて覚えられねえよ」

アクラは頭をかく。

「そのうち慣れますよ。きっと」

遠くで酒場の笑い声が弾けた。


「……てかバロロの"爆"ってこの欄になくね?」

「それは"火"の派生系ですよ」

「えっ!派生系とかもあるのか!?」

「派生も含めると25種類です」

エペはその大いなる自信とは真逆の小さな胸を張って、傲慢な笑みを零す。

「なっ……」

軽く絶望。 胸の奥が沈む。本当に全部覚えられるのか、戦闘で応用できるのか。


「でも逆に言えば選択肢が多い分 戦略も広がるってことだよな!」

無理に前向きな声を出す。

「ええ。そうですね」


こうしてふたりは眠りにつこうとしていた。 激安の石造りの寒く狭い宿。薄い布団。通りの灯りが隙間から差し込む。



「……変な人ですね。やっぱりあなたは」

エペは暗闇の中、天井を見つめる。

長い黒髪が布団に擦れる音がする。


隣にいるアクラは既に眠っていた。

「我が黒刃一族だって 知っているのに」

小さく呟く。 夜が更ける。



ーー次の日 2日目 昼

倉庫裏の空き地。 太陽が高い。影が短い。


「おはようだァ!朝ってのはいいぜェオレ様の美しいボディをより一層魅せてくれるからなァ!!」

ミスターナルシスト・光月が再度現れた。

そしてその横にはちびっ子明星みずき。

「お前らの属性探しに協力してやるのだ!」

妙な語尾と謎の下品感が否めない、だいぶ変わった奴。


「わぁ!バロロさんの代わりにみずきちゃんですか!こっちの方が華やかでいいですね〜!」

「そーなのだ!バロロは今日お菓子作りの日なのだ!」


意外すぎるバロロの趣味が暴露されるのと同時にアクラが"それ"に首を突っ込む。


「…そーいやなんでお前パンイチなんだよ」

アクラが顔をひきつらせ光月を睨む。

彼の言葉通り、光月は金色に光るパンツ1着"のみ"を身につけており、不審者全開だ。

「そ、そっちの方が映えるだろォ?」

冷や汗を流しながらキザに髪をあげる光月の横で、みずきが大きなため息を吐く。


「いや、こいつが移動中に……」

みずきが何かを言おうとした瞬間、光月が顔を青くして彼女の口を塞ぐ。

「あーあー!聞こえねェ!オレ様は何も聞こえねェ!!」

明らかに挙動不審な様子でみずきを制圧する。

「なにするのだ!離すのだ!はなせー!こいつ実は移動中に……」

みずきは短い手足をばたつかせ、何かを伝えようとしている。


そんなくだらない茶番劇を終わらせたのはエペであった。

「はやく話しなさいこのクズ!不潔なものを見せられている女子が可愛そうです!」

「主語がでけえよ……」

「……おっとォ、オレ様のガラスのハートが」

「こいつ、ここに来る途中肥溜めにケツから突っ込んだのだー!!!」

ついに暴露された秘密と、白い目で睨む民衆、鼻水を垂らして固まる光月の馬鹿馬鹿しすぎるハプニングのせいでこの日はほとんど潰れた。



――そして夕方、光月は2人に魔力の込め方について説明した。


戦い慣れしているエペにとっては容易いものであった。属性が不明だっただけで基本は既に網羅している。


しかし問題はアクラ。

情報規制の厳しい彼の祖国では魔術などは一般的ではない。むしろ無属性のまま体術を極めるのが美徳とされていたからだ。


「ん〜…気のせいかもだけど、お前もしかしてハーフなのだ?」

何気ないみずきの一言だったが、それが属性探しに大いに貢献することになる。

「え?まぁ一応…」

急に過去について抉られたような錯覚を覚え、歯切れの悪い返事になる。


――実際、ゾラン王国に来てから自分の過去についてはほとんど誰にも話していない。

言ってしまえば、新環境デビューのようなもので、彼自身少々自分を偽っている。


「なんでハーフってわかったんだ?」

「だってお前の眼、青いのだ」

みずきの言う通り、アクラの祖国・東幻では基本的に黒髪黒目、たまに茶色がいる程度だ。

「まあな、おれの母さんがレリーラ人なんだよ」

「レリーラ共和国なのだ?たしかそれバロロもそこ出身なのだ」

「えっそうだったのか!」

バロロとは謎の距離の近さがあると思っていたが、ここで少し納得した気がする。


しかしアクラの顔は晴れない。

東幻にいた頃の苦い思い出。

ずっと日陰で、みんなのリーダーである詩丸を見てただ憧れて、勝手に嫉妬して。

あんな風にみんなの人気者だったらどんなに楽しかっただろうか。


半端者の疎外感と属性関連の焦りーー それはアクラをどんどん不安へと追いやっていった。

最近は胸の糸が騒がしくないと思っていたのに、少なくとも自分だけ騒がせてばかりだ。


双呪で繋がれているゼグレからしてみたらずっとうるさいだろう。

そう考えてくるとーー少し笑えてくる。


◇◇◇


次回:幽灯の双呪


属性探しはまだ続く。

しかしアクラはいよいよ焦りを覚え、初めて追放の危機を肌で感じ始める。


一方校舎では、先日の魔族(ボルム)襲撃事件の黒幕を突き止めようとしていた。


「暗影迫来」


◇◇◇

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