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『喧嘩無敗〜魔力0で追放された俺、魔法を拳でぶっ潰す〜』   作者: 緋村 獏


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98/108

98.初めての喪失


 東の空が、薄く赤く染まり始めていた。


夜通し戦い続けた。

それでも、決着はつかない。


神崎の息が荒い。

肩で息をしている。


私も、限界が近い。

腕が重い。


フィオラも同じだ。

剣を握る手が、微かに揺れている。


サラのヒールがなければ、とうに倒れていただろう。


「なんで……なんで倒せないんだよ……!」


神崎が叫んだ。

声が裏返っている。

顔が歪んでいた。


余裕は、とうに消えていた。

最初の傲慢さは、どこにもない。


しばらくレベルも上がっていないようだ。

天使を召喚しても、騎士たちが持ち堪えている。

殺せる相手が、減っているのだ。


今だ。

今、仕留めなければ。


私はフィオラと目を合わせた。

言葉はいらなかった。


何年も共に戦ってきた。

視線だけで、十分だった。


フィオラが僅かに頷いた。


私は地面を蹴った。


「うおおおおッ!!」


全力の突進。

神崎に向かって、真正面から斬りかかる。


神崎の目が、私に集中した。


その死角で——

フィオラが動いていた。


剣に、魔力が集約されていく。

黒い光。

フィオラの奥の手。


全魔力を剣に込めた、一撃必殺の黒剣。

これを躱せる者は、そういない。


だが——


神崎の目が、動いた。

気づかれた。


駄目か。

この攻撃は、躱される。


神崎が身を捻った。

紙一重で、黒剣を避けようとした。


その瞬間だった。


「ぐわぁっ!」


声が、響いた。


神崎の声ではない。

誰かが、神崎と黒剣の間に割り込んでいた。


銀がかった白髪。

黒いローブ。

薄い青灰色の瞳。


ルシ。


フィオラの黒剣が、ルシの後頭部から背中にかけて斬り裂いていた。

深い傷。

致命傷だ。


背中から、黒い粒子が噴き出した。

大量の粒子が、宙に舞上がり、消えていく。


消滅したはずでは——

なぜ、ここに。


「ルシアン——!!!!」


神崎の絶叫が、響いた。


神崎がルシを抱きかかえた。

崩れ落ちるように、地面に膝をつく。


「なんで、なんで……」


声が震えていた。


さっきまでの狂気は、どこにもなかった。

ただの、悲しみに暮れる子供の声だった。


「はぁ……はぁ……」


ルシが息を吐いた。

薄い笑みを浮かべている。


「君が……斬られそうに、なってたから……」


「嫌だ」


神崎が首を振った。

涙が、ぼろぼろと零れ落ちていた。


「嫌だよルシアン、すぐ治すから」


震える手を、ルシの傷に当てた。


「ヒール!」


光が灯る。

だが、傷は塞がらない。

黒い粒子が、止まらない。


ルシが、笑顔のまま、神崎の手をそっと下ろした。


「私は……ここまでみたいだ」


「嫌だ」


神崎が、ルシにしがみついた。

子供が母親にすがるように。


「ルシアン、一人にしないでよ」


「ごめんね」


ルシの声は、穏やかだった。

最後まで、穏やかだった。


ルシの体が、崩れ始めた。

腕が、足が、胴が。


全てが黒い粒子となり、風に溶けていく。


そうだ。

魔人の眷属は、死ぬ時に黒い粒子となって消滅する。


なぜ、忘れていたのだ。


あの時、ルシは消えたかのように見えた。

だが、違う。

 

消えたフリをしていたのだ。

この瞬間のために。


「ハルトなら……大丈夫」


ルシの顔が、薄れていく。


「負けないで」


その言葉を最後に。

黒い粒子が、風に舞った。


ルシの姿は、もうどこにもなかった。


神崎の腕が、虚空を抱いていた。


沈黙が落ちた。

神崎の鼻を啜る音だけが、響いていた。


嗚咽。

小さな、壊れた音。


「……今消えた者は、魔人の眷属だ」


私は、静かに言った。


「お前が信じていた相手は、最初から——」


「黙れえええええッ!!!!」


神崎が、絶叫した。


顔を上げた。

涙で濡れた顔。


だが、目は——憤怒に染まっていた。


さっきまでとは、違う狂気。

もっと深い。

もっと暗い。

壊れた、狂気。


神崎の翼が広がった。

急上昇する。


空高く、舞い上がる。


「ヘブンリーゲート!」


神崎が叫んだ。

空に、無数の黒い門が開いた。


一つ、二つ、三つ——数え切れない。

空を覆い尽くすほどの門。


その中から、天使が湧き出てきた。


「全部殺せ!!!」


神崎の絶叫が響く。


天使の群れが、空を埋め尽くした。

前回を、遥かに超える数。


レベルが上がったからか。

まずい。

早く仕留めなければ。


私は風魔法で急上昇した。

神崎を追う。


剣を振るう。

だが——弾き返された。


力が、違う。

さっきまでとは、明らかに違う。


神崎が、さらに上昇する。

追いつけない。

距離が、開いていく。


そして——


「きたぁ!!!!!」


神崎の歓喜の叫びが、響いた。


嫌な予感がした。

背筋が、凍った。


「ヘブンズスピア!」


神崎が、天を指差した。


上空が、光った。

眩い、純白の光。

雲が、割れた。


光の槍が、顕現した。

光を帯びた、神々しい槍。


それが——落ちてきた。


目にも止まらぬ速さで。

私の、後方へ。


外した?

いや——


違う。


ドォォォォンッ!!!!


轟音が、世界を揺らした。

地面が砕け、土煙が舞い上がる。


衝撃波が、私の体を揺さぶった。


振り返った。

土煙の向こう。


光のドームが——割れていた。


サラの聖域が、粉々に砕けていた。


「サラ……」


声が、掠れた。


土煙が、晴れていく。

サラが、見えた。


ふらつきながら、後退している。

壁に、寄りかかった。


ずるずると、座り込んだ。


胸に——

大きな穴が、空いていた。


光の槍が、貫いていた。


「——」


声にならなかった。


サラ。


緑の髪が、血に染まっていく。

小柄な体が、壁にもたれている。


動かない。


「レベル600だああああッ!!!!」


神崎の歓喜の雄叫びが、空に響いた。


守ると、誓ったのに。

誰一人、死なせないと。


あの夜、流星群の下で願ったはずだ。


——こんな時間が……ずっと続けばいいのに。


サラの言葉が、蘇る。


——10年後、また見にこようね。


私は、また。

また、同じ過ちを繰り返したのか。


また、守れなかったのか。


目の前が、白くなった。

視界が、ぼやけた。


私より先に、声が響いた。


「神崎いいいいいッ!!!!」


フィオラの絶叫だった。


今まで聞いたことがないほどの、悲痛な叫び。

いつも冷静で、気品があったフィオラが。


壊れたように、叫んでいた。


その声が、私の意識を引き戻した。


剣を、握り直した。

まだ、終わっていない。


サラを殺した。


許さない。

絶対に、許さない。


「神崎……!」


私は、歯を食いしばった。

剣を構えた。


全身が、震えていた。


怒りで。

悲しみで。

後悔で。


だが、止まるわけにはいかない。


まだ、守るべき人がいる。


これ以上は——絶対に、失わせない。

 

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