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『喧嘩無敗〜魔力0で追放された俺、魔法を拳でぶっ潰す〜』   作者: 緋村 獏


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92/108

92.総力戦


 東区、廃倉庫街。

夜明けの薄明かりが、崩れかけた建物の輪郭を浮かび上がらせていた。


八百の騎士が、音もなく包囲網を敷いていく。

屋根の上には弓兵。

路地には伏兵。

逃げ道は、全て塞がれた。


クラウディアが剣を抜いた。

白刃が、朝靄の中で鈍く光る。


ライナーが、その隣に並ぶ。

盾を構え、長剣を握る。


「突入部隊、続け」


低い声が、合図となった。


五百の騎士が、一斉に動き出す。

足音が重なり、地面を揺らした。


倉庫の扉が蹴破られる。

埃が舞い上がる。


騎士が雪崩れ込み、あっという間に包囲が完成した。


「神崎ハルト!」


クラウディアの声が、廃倉庫に響いた。


「おとなしくしろ。貴様を拘束する」


薄暗い倉庫の奥。

人影が、ゆっくりと振り返った。


神崎ハルト。


整った顔立ちに、爽やかな笑み。

だが、その笑みは引きつっていた。


「拘束? 僕を?」


神崎が、肩を竦める。


「僕は勇者だよ? 女神に選ばれた存在だ」


声が、倉庫に反響する。


「僕がいなくなったら、厄災が来た時どうするの?」


クラウディアは、表情を変えなかった。


「大人しく投降しろ。そうすれば危害は加えない」


「……チッ」


神崎の顔から、笑みが消えた。


「話が通じないな」


神崎が、剣に手をかけた。


「じゃあ、力で分からせるしかないか」


クラウディアが剣を握り込む。

周囲の騎士が、一斉に構えた。


直後。


「ヘブンリーエッジ!」


神崎が叫んだ。


横に立っていた騎士に、剣が振り下ろされる。

血が吹き上がった。


同時に、衝撃波が広がる。


ドォン!


轟音と共に、廃倉庫の壁が崩れた。

瓦礫が飛び散り、埃が視界を奪う。


その隙に、神崎は外へ転がり出た。


だが――


「——っ!」


神崎の足が、止まった。


外で待ち構えていたのは、視界を埋め尽くすほどの騎士の群れ。

八百の包囲網。

逃げ場など、どこにもない。


クラウディアが、崩れた壁の向こうから歩み出た。

剣を構えたまま、神崎を見据える。


「観念しろ」

 

神崎が、引きつった笑みを浮かべた。


「なるほど、こういう展開か」

「ヘブンリーエッジ!」


神崎が剣を振るった。


光を纏った斬撃が、待ち構えていた騎士に叩き込まれる。

衝撃波が広がり、騎士の列が吹き飛んだ。


二人、三人、四人――

血飛沫が舞う。


神崎は、その隙間を縫って走り出した。


「怯むな! 応戦しろ!」


クラウディアが叫ぶ。


同時に、地を蹴った。

一瞬で間合いを詰め、剣を振り下ろす。


ガキィン!


剣と剣が交わる。

火花が散った。


「ぐうっ!」


神崎の体が、大きく弾き飛ばされる。

尻餅をついた。


だが、倒れたまま剣を振る。


「ヘブンリーエッジ!」


光の斬撃が、クラウディアに向かって飛ぶ。


ガキィン!


クラウディアは剣で弾いた。

衝撃波すら、受け切った。


涼しい顔で、一歩も退かない。


「ひっ——」


神崎の喉から、短い悲鳴が漏れた。

その目が、大きく見開かれている。


神崎は、クラウディアに背を向けた。

逃げる。


後方の騎士たちに向かって、剣を構える。


「ヘブンリーアサルト!」


神崎が叫び剣を振った瞬間、無数の光の剣が放たれた。


肉を裂く音。

悲鳴。

血飛沫。


騎士たちの体が、次々と崩れていく。


神崎は立ち止まらない。

倒れた騎士を踏み越え、逃亡を図る。


「逃げるのか、卑怯者めが!」


クラウディアの声が、怒りを帯びた。


クラウディアが追う。

しかし、距離は縮まらない。


神崎は騎士を斬り捨てながら走る。

一人、また一人。

騎士の亡骸が、道に積み上がっていく。


「くそ……!」

クラウディアが歯を食いしばった。


追いつけない。

追いつく前に、部下が死んでいく。


神崎とクラウディアの距離が、徐々に離されていく。

このまま包囲を突破されるか——

そう思われた、その時だった。


「凍れ——ブリザード」


低い詠唱が響いた。


神崎の足が止まる。

首から下が、一瞬で氷に包まれた。

白い霜が、鎧を覆い尽くす。


動けない。


神崎の目が、恐怖に見開かれた。


その視線の先に、銀髪の男が立っていた。

アルヴィン。

青い瞳が、冷たく神崎を見下ろしている。


「貴様はこちらに来ると思ったよ」

アルヴィンの声は静かだった。

だが、その奥に燃えるような怒りがあった。


「狡猾な悪魔め」


アルヴィンが手を掲げた。


「くたばれ——アイスエッジ」


神崎の頭上に、鋭い氷柱が生成されていく。

一本、二本、三本——

巨大な氷の槍が、処刑台のように並んだ。


神崎の表情が、恐怖に歪んだ。


「ひぃっ——」


喉から、悲鳴が漏れる。


咄嗟に叫んだ。


「ヘブンリーアサルト!」


光が弾けた。

神崎の上体を覆っていた氷が砕け、剣が振るわれる。


無数の光の剣が、横に控えていた騎士たちに降り注いだ。


肉が裂ける音。

悲鳴。

血飛沫が舞った。


神崎は体を捩り、落下してくる氷柱をかわそうとした。

だが、全ては避けられない。


ズン。


鈍い音と共に、氷柱が神崎の肩を貫いた。


「あっ——いだあぁぁぁ!!」


絶叫が響いた。


氷柱が肉を抉り、血が噴き出す。

神崎が膝をついた。


アルヴィンが舌打ちをした。


「早く死ね」


再び手を掲げる。

新たな氷柱が、神崎の頭上に生成されていく。


クラウディアも、程なく追いつく距離まで来ていた。

もう逃げられない。


——そう思った瞬間だった。


神崎が、また別の騎士めがけて剣を振るった。


「ヘブンリーアサルト!」


光の剣が飛ぶ。

騎士の体が、切り刻まれた。

断末魔すら上げられず、崩れ落ちる。


そして、神崎が叫んだ。


「あがった!!!」


その声には、歓喜があった。


神崎の肩の傷が、みるみる塞がっていく。

氷柱に貫かれた穴が、消えていく。


アルヴィンの目が、驚きに見開かれた。


「なんだと……」


神崎が立ち上がった。

そして、両手を広げて叫んだ。


「セイクリッドウィング!」


光が弾けた。

神崎の背中から、白い翼が生えた。


純白の羽根が広がり、朝の光を反射する。

同時に、体を覆っていた残りの氷が砕け散った。


「——っ!」

アルヴィンが詠唱を始める。

だが、遅い。


神崎は地面を蹴り、空へ飛び上がった。

白い翼が羽ばたく。

あっという間に高度を上げ、街の中央へと飛んでいく。


「悪魔めが!」

アルヴィンが叫んだ。

その声に、悔しさが滲んでいた。


ライナーが、呆然と空を見上げていた。


「そんな馬鹿な……」


翼を持つ人間。

そんなものが、いるはずがない。


勇者の力なのか。


クラウディアが剣を振り上げた。


「中央区だ! 追え!」


その声で、騎士たちが我に返った。

再び、足音が響き始める。


追跡が始まった。

 

 

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