76.戦いの痕
「……くん……剛くん……」
声が聞こえる。
遠くで、誰かが呼んでいる。
「剛くん!」
リリィの声だ。
俺は目を開けた。
「おう、終わったか?」
「ガチで寝てたの!?」
リリィが目を丸くしている。
「すごすぎ!」
「終わりましたよ」
レオンハルトが苦笑した。
俺は身体を起こし、周囲を見渡した。
「おいおい、ボロボロじゃねえか」
レオンハルトの鎧は砕け、あちこちから血が滲んでいる。
フィオラも傷だらけだ。
「皆無事なのか?」
「ええ、なんとか」
レオンハルトが頷いた。
「ジャックは少し傷が深いので、安静にしています」
視線の先を見る。
ジャックが横たわっていた。
サラが傍らで治癒魔法をかけている。
ガチガチに包帯を巻かれ、動けない様子だ。
俺は、どこかほっとした気がした。
「あ、剛くん起きたっすか」
ジャックが顔だけこちらに向けた。
血の気のない顔で、それでも笑おうとしている。
「よくあの轟音の中……ゲホッ」
咳き込んだ。
胸のあたりの包帯が、じわりと赤く染まっていく。
「無理すんな」
俺は立ち上がり、ジャックの傍に寄った。
「大人しくしとけよ」
「……っす」
ジャックが小さく頷いた。
「皆、かなり消耗してしまいましたね」
レオンハルトが息を吐いた。
「どうする、一旦戻るか?」
俺が聞くと、レオンハルトは首を振った。
「いえ、進みます」
迷いのない声だった。
「戻ってしまうと、カルドナの街はまず無事ではないでしょう」
「それに」
レオンハルトが北の空を見上げた。
「逃がす気もないようです」
「ルシを倒した途端、魔人がものすごい魔力を発し始めたの」
リリィが説明した。
顔色が悪い。魔力を感じ取っているせいだろう。
「配下をやられてキレてんのか?」
「うん、多分……」
リリィが頷く。
「それに、あたしたちが来た方角から、ルシより強い魔力が発生したの」
「逆に、進行方向の魔力反応が全くなくなってる」
リリィの声が震えた。
「魔人への道ができたみたいに……」
「歓迎されてるみてぇだな」
俺が言うと、レオンハルトが頷いた。
「そうですね……」
沈黙が落ちた。
「とりあえず、野営ができる場所まで移動しましょう」
レオンハルトが立ち上がった。
「鬼塚さん、ジャックもガルカに乗せてやってください」
「わかった」
⸻
俺たちは数時間走った。
瘴気の靄は相変わらずだったが、魔物の気配は全くなかった。
リリィの言う通り、道ができたように何も現れない。
やがて、草木の茂った場所を見つけた。
そこで野営することにした。
「敵に出くわさなかったな」
俺が言った。
「全く魔物の気配ないよ」
リリィが周囲を見渡しながら答える。
「もう結界すら必要ないかもしれませんね」
フィオラが静かに言った。
焚き火を起こし、火を囲む。
ルシに勝った。
だが、全員勝った奴の顔ではなかった。
レオンハルトは傷だらけの腕を見つめている。
フィオラは無言で剣を磨いている。
サラは膝を抱えて、炎を見つめている。
ジャックの傷は、リリィが治癒を続けていた。
淡い光が傷口を包み、少しずつ塞がっていく。
「お前らもボロボロじゃねぇか」
俺は荷物から回復薬を取り出した。
「傷直せよ。回復薬たくさんあるからよ」
「助かります」
レオンハルトが受け取り、傷口に塗り始めた。
「サラも……」
俺はサラの方を見た。
サラの表情は、特に暗いように感じた。
膝を抱えたまま、焚き火の炎をじっと見つめている。
「おら、手伝ってやるよ」
俺は回復薬を持って、サラの隣に座った。
「……ありがと」
小さな声だった。
サラの体も傷だらけだった。
腕にも足にも、槍に裂かれた跡が残っている。
「染みるけど我慢しろよ」
「うん」
サラが頷いた。
俺は丁寧に薬を塗っていく。
サラは黙って、されるがままになっていた。
その晩は、戦った皆が体を癒すことに専念した。
焚き火がパチパチと音を立てる。
誰も、多くは語らなかった。
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