105.禁術の記録②
銀髪の男。
やたら肌の白い、儚げな男。
ルシアン。
「コイツは……魔人の手下じゃねえか?」
俺は言った。
「ほんとだ! 魔力探るね」
リリィが何かを操作した。
「ほとんど0だよ。魔人はバレないように魔力0の偵察を送ってたんだね」
「そういうことか」
俺は頷いた。
勇者が天敵みてえなこと言ってたもんな。
だから、魔力を持たない偵察を送り込んだ。
勇者の動向を探りにきたんだ。
それからも、随分ひでえ内容が流された。
神崎の思考も、ダダ漏れだ。
言い訳。
逆恨み。
被害妄想。
自己正当化。
目も当てられない。
何回ぶん殴ってやろうと思ったかわかんねえ。
そして——武闘会後。
映像の中で、神崎が泣いていた。
ガルドとセリアが、俺に土下座するのを見て。
精神が、崩壊していく。
ルシアンが、そっと寄り添っていた。
「おい、魔人の手下、禁術とかいってるぞ」
俺は言った。
映像の中で、ルシアンが神崎の額に触れていた。
「いや、ただの魔力のない思念体にそんなことはできない」
リリィが首を振った。
「はっぱかけただけよ」
「そっか」
俺は頷いた。
「まぁ、効果テキメンだったみてえだな」
映像が、暗転した。
そして——
ルナが映った。
神崎のパーティにいた、僧侶の少女。
優しそうな顔をしていた。
神崎が、近づいていく。
剣を抜いた。
ルナが後ずさる。
怯えてる。
『勇者……さま……?』
映像が、赤く染まった。
俺の拳が、震えた。
殺しやがった。
こいつ。
クソくだらねえ動機で。
『レベルが……すごい……』
映像の中で、神崎が呟いていた。
笑っていた。
「キモ……」
リリィの声が、掠れていた。
「チートもらってダラダラして、うまくいかなかったら人殺し? 意味わかんない」
「それも人のせいときた」
クラウディアの声が、冷たかった。
「真性のクズだ」
映像は止まらない。
どんどん人を殺していく。
弱そうな奴ばかり狙いやがって。
油断しそうな身内ばかり狙いやがって。
背後から。
不意打ちで。
一方的に。
レベルが上がるたびに、神崎は笑っていた。
『レベル70……!』
『レベル80……!』
『レベル100……!』
喜んでやがる。
人を殺して、喜んでやがる。
ガルドが殺された。
セリアが殺された。
元仲間だった奴らだ。
どんなにクズでも、一緒に戦った仲間だったはずだ。
それを——背後から、剣で。
学生が映った。
子供だ。
魔法学園の生徒。
逃げ惑っていた。
神崎が、追いかけていた。
『待ってよ、逃げるなよ!』
剣が振り下ろされた。
悲鳴が響いた。
アルヴィンが映った。
『貴様……私の生徒になにをした……!』
アルヴィンが鬼の形相で追う。
すぐに神崎は情けねえ声出して逃げやがった。
ふざけんなよ。
映像は続く。
神崎が逃げる場面が映った。
騎士に追われて、民家に逃げ込む。
中には——家族がいた。
父親と、母親と、小さな子供。
神崎が剣を振るった。
三人が、倒れた。
そして騎士も返り討ちにする。
『鬼効率だ……!』
映像の中で、神崎が叫んでいた。
お偉いさんの一人が、思い切り地団駄を踏んだ。
怒りを堪えているのが伝わる。
顔が真っ赤だった。
拳が震えていた。
クラウディアも、みんな同じだ。
何が鬼効率だ。
ぶっ殺すぞインチキ野郎。
「くそ……」
俺の口から、声が漏れた。
映像は止まらない。
どんどんレベルが上がっていく。
150。
200。
そして——
騎士団との戦いが映った。
ライナーが殺された。
クラウディアが斬られた。
サラが——
光の槍に、貫かれた。
フィオラが——
袈裟に、斬られた。
レオンハルトが——
ボロボロになりながら、最後まで剣を振り続けていた。
『レベル999だああああッ!!』
映像の中で、神崎が叫んでいた。
歓喜の声。
勝利の雄叫び。
その瞬間——映像が止まった。
禁術が、終わった。
沈黙が、降りた。
誰も、何も言わなかった。
みんな、感情を抑えようと必死だった。
賢そうな奴は、ずっと記録している。
手が、震えていた。
お偉いさんは、ブチ切れてるのを必死に抑えてる。
顔が、蒼白だった。
リリィは、もう泣いていた。
声を殺して、肩を震わせていた。
クラウディアは——
悔しさか、怒りか。
複雑な表情を滲ませていた。
唇を、噛み締めていた。
俺は——神崎を見下ろした。
枷に繋がれた、惨めな姿。
意識はない。
顔は、まだ腫れ上がったままだ。
俺は拳を握った。
殴りたい。
今すぐ殴りたい。
だが——まだだ。
――――
翌日、神崎の事情聴取が行われた。
魔術師二名と俺、それにカウンセラー。
最低限の人員だった。
ただし——この場での会話は、記憶映像を見た全員が魔法で聴いているらしい。
カウンセラーは、穏やかな女性だった。
優しい声で、神崎に話しかける。
神崎が、ぽつぽつと喋り始めた。
カウンセラーは相槌を打ち、頷き、神崎を否定しない。
うまいな。
だんだん、神崎の口が軽くなっていく。
「——だから、そいつのせいなんだ」
神崎が、俺を顎で指した。
「そいつさえいなければ、僕は人殺しなんかしなかった」
俺を睨む目。
反省の色は、欠片もなかった。
カウンセラーは笑顔のまま頷き、全ての話を聞き終えた。
事情聴取は終わった。
なるほど——そういうことか。
神崎は知らない。
俺たちが禁術で、奴の記憶を全て洗ったことを。
ここで喋った内容に嘘があれば、すぐにわかる。
罪の意識があるかどうかも、明確に測れるわけだ。
あとは——王や貴族たちが、裁きを決めるんだろう。
事情聴取が終わると、俺は部屋を出た。
廊下で、クラウディアが待っていた。
その後ろには、お偉いさんたちが並んでいる。
「拳王殿、ご協力感謝いたします」
クラウディアが頭を下げた。
お偉いさん方も、続いて頭を下げる。
「裁きが決まるまで、しばらくお時間をいただきます」
クラウディアが言った。
「どうか、ゆっくりお休みになってお待ちください」
「おう」
俺は短く答え帰路についた。
ほどなくして判決が公表された。




