104.禁術の記録①
取調室——とは言うが、なかなか広い。
聖堂と言った方がいいか。
まさしくファンタジーって感じの空間だった。
高い天井。
石造りの壁。
窓はない。
真ん中には、天球儀のような形をした文字列の光が宙に浮かんでいた。
ゆっくりと回転している。
地面から壁に沿って、天井にまで——びっしりと魔法陣のようなものが書き詰められている。
一つ残らず。
隙間なく。
オブジェやら何やら、完全に魔法世界だ。
俺の他には、王直属のお偉いさんや、賢そうな奴らが揃っていた。
この間のクラウディア隊長もいる。
これから禁術を使うらしい。
神崎の過去の行動から思想まで、全て洗えるそうだ。
嘘も隠し事も通用しない。
全てが、暴かれる。
四人の魔導士が、部屋の中心にいた。
天球儀みたいな魔法陣の下。
その真下に、神崎が転がされている。
枷で縛られ、身動きが取れない状態だ。
魔導士たちはローブを深く被っている。
だが、一人はリリィだ。
仕草でわかる。
これから封印を解く。
だから俺はアリーナを使う。
万が一、神崎が暴れ出しても——魔法は使わせない。
「封印解きます、剛くんいい?」
リリィが尋ねた。
「ああ、いつでもいいぜ」
色んな音が鳴った。
金属が軋むような音。
鎖が外れるような音。
封印が解かれていってるんだろう。
俺はコイツが憎くて仕方ねえ。
アリーナはとっくに発動済みだ。
「いける、禁術発動します」
部屋のありとあらゆる紋様が光った。
壁が。
床が。
天井が。
全てが、淡い光を放つ。
天球儀みてえなのも動き始めた。
回転が速くなる。
形が変わり始めた。
球体が崩れ、広がり——巨大な黒い渦になった。
そこに、何かが映し出された。
俺は息を呑んだ。
これ——俺の世界だ。
見覚えのある街並み。
コンビニ。
信号機。
アスファルトの道路。
周囲がざわついた。
「これが異世界……」
誰かが呟いた。
神崎の物語が、早回しで流れていく。
前世の神崎。
俺には、全くよくわからなかった。
学校。
教室。
机に突っ伏して寝てる神崎。
グループ発表で無視される神崎。
体育をサボる神崎。
部屋に引きこもってパソコンをいじる神崎。
イライラすることもあった。
だが——まぁ、俺らの世界ではよくいる引きこもりって感じの奴だ。
こういう奴もいるよな。
特別じゃない。
どこにでもいる、弱い奴。
そして——異世界転生。
女神が現れた。
神崎の顔が、変わった。
地味で冴えない顔から、整った顔に。
なるほど、ここで変わったのか。
ってことは——コイツは正真正銘、神崎ハルトってことか。
別人が化けてたわけじゃない。
元の顔に戻っただけだ。
能力の全容も正式に明らかになった。
レベルアップシステム。
スキル習得システム。
賢そうな奴らは、必死に記録している。
羽ペンが走る音が響く。
お偉いさん方は、黙って見ていた。
「なるほど」
クラウディアが呟いた。
「神崎は既にこちらの世界で戦うイメージを持っていた」
映像の中で、神崎が目を輝かせていた。
異世界。
チート。
俺TUEEE。
そんな単語が、思考として流れていく。
「そして——こちらの世界こそが自分の輝く場所だと確信していた」
クラウディアの声は、淡々としていた。
「性格に幾分か難があるように見えるが、転生時点で既に勇者として生きようという志もある」
「そんな大層なもんじゃねえと思うけどな」
俺は言った。
志なんかじゃない。
楽して無双したいだけの、ガキの夢想だろ。
「やはり魔人の介入があったのでは……?」
クラウディアが眉を寄せた。
「うーん、どれだけ調べても痕跡は見当たらなかったけど」
リリィが首を傾げた。
「続き見ようぜ」
俺は言った。
映像が進む。
異世界での神崎。
冒険者登録。
最初の依頼。
仲間との出会い。
だが——
すぐに評価はひっくり返った。
「なんだこの堕落した人間は……」
クラウディアの声が、低くなった。
「前世とまるで何も変わってない」
サボる。
逃げる。
言い訳する。
仲間に押し付ける。
失敗したら人のせい。
成功したら自分の手柄。
「前世で思い馳せていた高い志は何だったのだ」
「妄想だろ」
俺は吐き捨てた。
本気で努力する気なんか、最初からなかったんだ。
チートがあれば楽勝だと思ってた。
現実は違った。
それだけだ。
物語が進んでいく。
そして——
銀髪の男が現れた。




