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『喧嘩無敗〜魔力0で追放された俺、魔法を拳でぶっ潰す〜』   作者: 緋村 獏


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100.私の勇者


 フィオラが、倒れた。


動かない。

赤い髪が、血の海に沈んでいる。


私は、一人になった。


サラも、フィオラも、もういない。

残ったのは、私だけだ。


「仲間みんな死んじゃったね」


神崎が、笑っていた。


「悔しい?」


煽り。

だが、何も感じなかった。


怒りも、悲しみも、湧いてこなかった。

ただ——ひたすらに、自分が許せなかった。


仲間を守るためなら、命すら捨てる覚悟だった。

そう誓ったはずだ。

何度も、何度も。


それが、なんだこのザマは。


サラを守れなかった。

フィオラを守れなかった。

二人とも、私の目の前で死んだ。


私は、何をしていた。


ガラン……ガラン……


指から、力が抜けた。

盾が、地面に落ちた。

重い音が、響いた。


「あー」


神崎が、肩をすくめた。


「守る仲間もいなければ、盾も必要ないもんね」


笑い声が聞こえた。


「いい顔してるよ」


守る仲間。


そうだ。

私が守る仲間は、もう——


……。


……いた。


ジャック。


「仲間に頼ってるから弱いんだよ」


神崎は得意げに喋っていた。

 

「僕は一人でも立ち上がった」


「……。」

 

ふと——小さな頃の記憶が蘇った。


祖母の声。

暖炉の前で、膝の上に座って聞いた話。


『この国ではね、いつだってピンチの時には勇者が駆けつけてくれたんだよ』


皺だらけの手が、私の頭を撫でていた。


『勇敢で、心優しい勇者が、どこからともなく現れて、私たちを救ってくれるんだ』


遠い目をして、語ってくれた英雄譚。

何度聞いても飽きなかった。


その勇者に憧れて、私は剣を握った。

誰よりも強くなりたいと思った。


そうだ。


ジャック。

そろそろ王都に到着する頃かもしれない。


ジャックは——私の勇者を連れてきてくれる。


拳に、力が戻った。

剣を握り直した。


落ちた盾には、手を伸ばさなかった。

もう、守る時間は終わった。


「最後に聞いてよ」


神崎が、得意げに語り出す


「僕がどれだけ努力して、ここまで来たかを」


私は剣を構えていた。

答えなかった。


「……初めは女神に転生させられてさ——」


「黙れ」


私は言った。

神崎の目が、見開かれた。


「なんだって?」


「滑稽だな」


私は、一歩踏み出した。


「努力だと?」


もう一歩。


「モンスターに勝てなかったお前は、努力を放棄し、人を殺めた」


神崎の顔が、歪んだ。


「それだけだ」


剣を構え直した。


「そして——貴様の罪は裁かれる」


神崎が、鼻で笑った。

だが、目は笑っていなかった。


「何馬鹿なこと言ってるの?」


声が、少しだけ震えていた。


「誰が裁くのさ?」


私は、答えた。


「勇者だ」


剣に、魔力を込めた。

ありったけの魔力を。


火花が散った。

刃が、白熱していく。


この刃は爆ぜる。

私も無事では済まないだろう。


だが、構わない。


目的は一つだ。

時間を稼ぐ。

お前を、逃がさない。


「勇者は僕だ」


神崎が、剣を構えた。


「そんなにすぐ死にたいなら、殺してやる」


「おおおおおおッ!!」


私は叫んだ。

全力で、剣を叩きつけた。

神崎の剣と、ぶつかった。


瞬間——


ドォォォォンッ!!!!


大爆発が起きた。


神崎の体が、吹き飛んだ。

街の中央へ向かって、弾丸のように飛んでいく。


周囲の建物が、崩壊した。

壁が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。


休む間はない。


私は追った。

神崎に追いつき、剣を叩きつける。


ドォン!


「ぐっ——!」


神崎が受け止めた。

だが、爆発が起きる。

また吹き飛ぶ。


追う。

叩きつける。


ドォン!


ドォン!


ドォン!


「くそっ、自爆技か!?」


神崎が叫んだ。


そうだ。

一撃ごとに、私の体も削れていく。


腕が焼ける。

皮膚が裂ける。

血が飛ぶ。


構わない。


ドォン!


ドォン!


神崎が空に逃げようとした。

翼を広げ、浮遊する。


逃がさない。


私も跳んだ。

空中で追いつく。

剣を振りかぶる。


叩きつける。


剣と剣がぶつかり——大爆発。

二人とも、吹き飛ばされる。


だが、私はすぐに体勢を立て直した。

追う。

叩きつける。


「はは……!」


神崎が笑った。

血を流しながら、笑っていた。


「どう見てもお前の方が先に死ぬじゃん!」


ドォン!


「うわっ!」


何度も。

何度も。

繰り返し、叩きつける。


腕が、悲鳴を上げていた。

骨が軋む音が聞こえた。


それでも、止まらない。

止まれない。


ドォン!


ドォン!


ドォン!


――――

 

……。


どれくらい経っただろう。


音が、聞こえなくなってきた。

耳が、壊れたのかもしれない。

腕の感覚も、ほとんどない。


もう、何も感じない。


視界の端で、神崎が何か叫んだ。


「…………ッ!!」


声が、聞こえない。

だが、剣が光っているのは見えた。


強烈な衝撃が、体を襲った。


何かが、砕けた音がした。

肋骨か。

それとも、もっと別の何かか。


だが——関係ない。


私は剣を振った。

叩きつけた。


ドォン。


目も、霞んできた。

神崎の姿が、ぼやけている。


痛みも、感じない。

感覚が、全て消えていく。


腕は、振れているだろうか。

わからない。


わからないが——止まるわけにはいかない。


――――

 

……。


なんとなく。

なんとなくだが——懐かしい気配がした。


遠くから。

何かが、近づいてくる。


「………ッ!!」


叫び声が聞こえた。

誰かが、叫んでいる。

ジャックか?


腕を振るう。


まだだ。

まだ止まるな。


それなら、もうすぐだ。

ジャックは気の利く子だ。

きっと——一歩先に到着したはず。


腕を振るう。


そろそろかな。


目を凝らした。

霞む視界の向こう。


何かが、見えた。

影が、駆けてくる。


きたぞ。

きっと——勇者様だ。


口元が、緩んだ。

笑えていただろうか。


わからない。

でも——守れた。


やったぞ。

もう大丈夫だ。


ジャックも。

国のみんなも。


お師匠様。

やりました。

あなたが教えてくれた剣で、最後まで戦い抜きました。


フィオラ。

サラ。

すまなかった。


鬼塚さん——

あとは、お願いします。


……。


そこで——私の意識は、途切れた。

 

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