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宿敵? ギル・ガーメッシェとの出会い編


            インフィニティア冒険物語 宿敵? ギル・ガーメッシェとの出会い編    


           

 《ハルバート》と《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》の打ち合う金属音が響く、村を出発して街道を進みから丸一日が経ち日も暮れようという時刻になったので野宿をするべく手ごろな場所を見つければ、日課となりつつある剣の稽古が始まる。

 「それにしても驚いたよ」

 「……何が?」

 勇矢の打ち込みを《ハルバート》受けつつユリィは語りかける、数日前に比べると迷いもない力強い打ち込みに感心している。

 「サイサリスの事だ、よくも何事もなかったかのように接していたな?」

 今日一日勇矢はサイサリスに昨日までと変わらずに普通に接していた、寧ろそんな彼の態度にサイサリスの方が困惑気味だったくらいである。 良くも悪くも彼女を特別視してしまうだろうと思っていたユリィには嬉しい誤算と言ったところだった。

 「……それはね……戦闘用魔導人形オートマタだろうが人間だろうがサイサリスさんは仲間なんだしね!」

 ユリィに答えながらも打ち込みを続ける勇矢の顔は、ユリィが話をしているのになかなか防御を崩せなくて悔しいという風だ。 勇矢が答える余裕があるのはユリィが攻撃を仕掛けないからである。

 「そういう考えが出来るのはいい事だ!」

 そこで攻撃に転じたユリィの《ハルバート》に《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》が弾かれ、そして《ハルバート》先端が勇矢の喉元に突きつけられる。

 「……っ!!?」

 「油断大敵ってやつだな?」

 そう言ってにやりとわらってみせると、勇矢やれやれという風に肩をすくめた。

 サイサリスでも手こずったブルー・ベアを勇矢が倒せたのは、《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》とアインのサポートによるものだとは承知しているが、彼はそれに頼ろうというそぶりはないように思える。

 その証拠に、勇矢は稽古の時は自分からアインに口出ししないように言っている、最後にものを言うのは自分自身の力のみという事をよく分かっている。

 「ただいま~~って、がんばってるねぇ~~」

 そこへ周囲の見回りを終えてルミーアとサイサリスが帰って来た、勇矢との稽古の間に危険な魔獣がいないか調べてほしいというユリィの指示であるが、半分は先ほどの勇矢との会話をサイサリスに聞かれないためであった。

 「……周囲に魔獣の気配はなし、大丈夫」

 「ああ、すまないね二人とも」

 ねぎらいの言葉を二人にかけてから「今日はここまでにしよう」と勇矢に言い稽古を切り上げた。




 次の日に勇矢達四人が森の中にいたのは街道を行くより近道だというユリィの提案であった、魔獣と遭遇するリスクは上がるがそれはそれでいい実戦訓練になると思っているのだろうというつもりかも知れない。 勇矢は無闇に魔獣を殺したいとは思わないが、それでも自分や仲間を危険に晒さないためにも戦闘になれば迷いや躊躇は捨てようという気構えでいる。

 「……この世界にも方位磁石があるとはねぇ……」

 「意外か勇矢?」

 「まあねユリィさん」

 異世界といっても結局は宇宙があり、その中に恒星があり惑星があるという構造は変わらないのかも知れないと勇矢は考える、あるいはこの世界は自分達とはまったく違う進化を辿った別の可能性の地球なのかも知れない。

 そうして考えているとだんだんとこの世界に興味が沸いてくる自分に気がつく、この世界にはどんな文化がありどんな人々がいて、どれだけの未知なものがあるのだろうと。 しかし、勇矢がこの世界にいるのは長くても一、二年だろうという事を思うと、それは抱いてはいけない好奇心なのだ。

 自分は必ず元の世界へ帰るのだから変な未練を持ってはいけないと自身に言い聞かせる。

 「……あ! ユリィ、サイサリスあれを見てっ!」

 その時、何かを見つけたのかルミーアが声を上げた。




 勇矢は一人で手ごろな岩に座っていた、正確にはアインもいるのだが。 それはルミーアが見つけたのは水の綺麗な泉であり、彼女はせっかくなので水浴びをしようと言い出したので女性陣は現在水浴び中だ。

 当たり前だが誰も水着など持っていないので、勇矢も一緒にという選択肢はなく彼はこうして泉から離れた場所で待機していた。

 サイサリスは別に水浴びをしたいという風でもなかったのをルミーアが強引に連れて行ったのは、人間ではないオートマタという理由で彼女を仲間はずれにはしたくないという配慮からだと思え、そんなルミーアを友達想いのやさしい女の子だと勇矢は感心する。

 『……覗きでもしたいですか?』

 左腕の《永遠の腕輪エターナル・ブレスレット》から、からかうようなアインの声がして勇矢は苦笑する。

 「……それはないよ」

 まったくないとは言わないが、それは勇矢の本心である。 そんな子供じみた真似はしたくないし何よりバレでもしたら本気で殺されるだろう、そんな風に考える。

 「……しかし、ここへ来てからまだ一週間経ってないんだよなぁ……」

 いろいろあったせいか随分と長く感じるが、実際はその程度という事実に先は長いなと多少気が重くなる。 この世界に一分一秒でもいたくないなどとは言わないが、元の世界にいる家族や友人が心配しているだろうし、やりたい事ややるべき事も残っている。

 何より、自分を元の世界に戻すために協力してくれている人達の心遣いを無下には絶対に出来ないのだ。

 「だから、絶対に《願いの宝珠》は手に入れないとな」

 「……《願いの宝珠》だと!?」

 その時背後からした男の声に驚いた勇矢が反射的に振り向くと、そこには短く切られた金髪で肌の色が薄い灰色の青年が立っていた。

 「……えっと……?」

 「《願いの宝珠》を狙っているという事は、つまりは私の敵!!」

 いきなり意味不明な声を上げる男に勇矢は戸惑うが、男はそんな事はお構いなしとばかりに背中にしょった剣を抜いて構えた。 「……ちょっ……いきなり何なんだよ、あんたはっ!!?」と叫びながら立ち上がると、アインが自発的に《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》に変化したので握った。

 「くっくっくっくっ! 我が名はギル・ガーメッシェ、この世界を支配する男だっ!!!!」

 ギル・ガーメッシェが名乗ると同時に踏む込み剣を振り下ろすのを勇矢は受け止め、金属音が響く。

 「ほう? 我が《アンヘル・カイド》の一撃を受け止めるか!?」

 「《アンヘル・カイド》?……じゃなくて! いきなり何なんだよって言ってるだろっ!!?」

 「だが次はどうかなっ!」

 「人の話を聞けってっ!!!!」

 ギルは一旦剣を引くと間髪入れずに打ち込んでくる、勇矢はそれを防ぎながら、こうなったらやるしかないと覚悟を決めた。 相手の風貌からおそらくは魔族とかそんな類だろうと思うのは一般的なゲームのイメージで、ついでに魔族は大概は人間の敵だから下手をしたら殺されると判断した。

 「俺は秋月勇矢! あんたはいったい何が目的だっ!?」

 勇矢が攻勢に転じる、その早く力強い打ち込みにギルは驚いた顔をした後に不敵な笑みを浮かべる。

 「私は世界を支配すると言ったっ!!」

 「魔王ってでも言うのかよっ!!?」

 「惜しいな! 正確には魔王の息子だっ!!!!」

 ギルも負けじと斬撃を繰り出してくる、互いに一進一退の攻防を繰り返しているうちに勇矢は祖父との稽古で真剣に打ち合いをしていた時の気分を思い出して気持ちが高揚してくるのが分かった、雑念が次第に消え目の前の敵を叩き伏せる事のみを考えるようになっていく。

 『勇矢! 今ですよっ!!!!』

 だから、そのアインの声に反射的に《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》を振り下ろしてから、しまったと思ったが手が止まらない。 刀身は真っ直ぐにギルの脳天に直撃し、バコッ!!という鈍い音を立てた。

 「ぐおぉぉぉおおおおおおおおっ!!!!?」

 「……へ?」

 相手の頭をスイカのように割ってしまうと思った勇矢は、まるで硬い石を叩いたかのような予想外の手ごたえに驚き、剣を引いて数歩後退する。 ギルは《アンヘル・カイド》を手放した両手で頭を押さえ軽く涙目になっている。

 『ブルー・ベア戦とは逆に今度は《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》の威力を極限まで抑えたんですよ』

 「……そうなのか?」

 《永遠なる刻の剣エターナル・ソード》の威力は扱う者の力量しだいで、今の勇矢だと鋭い包丁程らしいとは前に聞いていた。 アインは今はそれすら抑えているので先ほどの一撃はトンカチで少し強く殴られた程度だと説明し、勇矢はそれでもシャレならないだろうと思った。

 「……あらあら~? これはいったいどうされたのですかギル様?」

 妙に能天気な声と共に藍色のセミ・ロングでメイド服の女性が現れた、こちらも灰色の肌である事から人間ではないだろうと勇矢は警戒する。

 「……ロ……ローゼか?……我が野望の邪魔をしようとする者を成敗しようとして……不覚にも返り討ちにあってしま……たのだ……」

 「あらぁ?」

 ローゼは口元に手を当てる仕草をしてから勇矢の方を見た、そしてペコリと頭を下げた。

 「それはそれは……うちのギル様が大変なご迷惑をお掛けしました」

 その予想外の展開に、てっきり戦闘を仕掛けてくるだろうと思っていた勇矢は目を丸くし、いつの間にやら復活していたギルは「ちょっと待てい! 何だそれはっ!!?」と大声を上げた。

 「どうせギル様がこの方の話もろくに聞かないで斬りかかったのでしょう? 違いますか?」

 「う……それは、そうだが……」

 「でしょう?……あ! 申し送れました、私はこのギル・ガーメッシェ様のお仕えするメイドでローゼ・クライノートと申します。 この度は本当にうちのギル様が……」

 「……あーーーえーーーと……どゆうこと?」

 『……さあ? 私にも何が何やら……』

 剣の姿をしていても、勇矢にはアインの困惑した表情が見えたような気がした。 




 その後戻って来たユリィ達を交えて事情説明会となった。

 まずはこの二人は魔族で、魔族と人間はそれぞれに国こそ別れてはいるが別に対立しているわけでもなくどちらかというと友好的な関係にある事、そしてガーメッシェ家というのはその魔族の王家である事が勇矢に説明された。

 ルーミアがそんな初歩的な事から勇矢に話しているのをギルとローゼは不思議そうな顔をして見ていた。

 次にローゼからギルがそのガーメッシェ王家の第三王子で世界を征服するという非常に無謀な目的のために旅をしていると説明するとギルは「無謀とは何だ!?」とローゼを睨んでいたが彼女はそれを気にするという風でもなかった。

 このローゼ・クライノートというメイドは仕事だからとか嫌々従っているという風でもないが、ギルをあまり敬っているという感じでもなく、主とメイドというより姉弟のような印象を勇矢は持った。

 「……こっちの事情は話したぞ? 次は貴様らの事を話せ」

 「……ああ」

 話すはいいが、どこまで言ったものかと考える勇矢。 自分が異世界から来た事を大っぴらに話すのも躊躇われるが、このギルという男に下手に誤解され今後も付きまとわれては堪ったものではないと思い、一通り話す事にした。

 予想通りと言うか説明を聞き終わったギルとローゼは狐につままれたような顔だ。

 「貴様ら、この私をからかっているのではあるまいな?」

 「……全部、本当の事……信じる信じないは、あなたの勝手……」      

 魔族の王子という肩書きを聞いても物怖じもしないサイサリスの淡々とした口調に多少調子を狂わされるのか顔をしかめるギルは、しかし自分の立場を振りかざそうという気もない様子だ。 世界征服だの言いながらいきなり斬りかかって来たのには驚かされたがそれ程悪人というわけではないらしい。

 「……そういえばお話を聞いてふと思ったんですが……」

 何かを思いついた様子でルミーアがギルの顔を見る。

 「……ギルさんて、《願いの宝珠》の力で世界を征服する気なんでしょうか?」

 勇矢達三人はその言葉に「あっ」となり、ローゼはまたも顔をしかめる主の横で「クスクス……」と笑う。 そんな臣下を睨みつけてからルーミアに向き直ると怒鳴るように言った。

 「わ、悪いか!!?」

 「悪いって言うかさ、そういう他力本願はどうかと思うよ?」

 「……ユリィの言う通り」

 顔を真っ赤にし「何だとぉぉおおおおっ!!!」と大声を上げるギルに勇矢は呆れた顔で溜息を吐く、確かに魔族の王子でも国家の方針を無視して軍隊を動かせるはずもなく、軍事力に頼れなければ個人の力で出来る事など限られる。

 さっきのローゼの言う通り相当に無謀な事をこの魔族はやろうと言っているのである、しかも策略を巡らせて王位に就き侵略戦争を始めようと考えてないように見えるあたり思ったより悪人でないという自分の見立ても間違ってはいないようだと確信する。 

 「ふん! こいつらといると気分が悪くなる、もう行くぞローゼ!」

 そう言うと勇矢達に背を向けて不機嫌に大股で歩き出す、ローゼも軽くお辞儀をしてから彼の後を追って行った。

 「……何だったんだ……?」

 その魔族達の後姿を見送りながら、ユリィは仲間達の気持ちを代表するように呟き、そしてもう日が暮れかけている空を見上げて今日はこの森で野宿だなと思った。 近道をするつもりが思わぬ寄り道になったかも知れないと考えると、水浴びをした事を失敗だったかもと考えないでもないユリィだった。




今夜の最初の見張りはルミーア・トリーティアだった、ぼんやりとランタンの明かりを眺めながら自分のロッドを弄んでいる。

 カーマインに弟子入りしてから五、六年近くは経つ、正確には彼に拾われてからと言うべきかも知れない。 気がついた時には見知らぬ場所に一人でいてカーマインに拾われ弟子として育てられた、だから自分がどこの誰かという事すら思い出せず、ルミーア・トリーティアというのも師匠から貰ったもので本当の名前も分からない。

 それでも、その事を不幸だと思った事はない。 師匠には時に厳しくも優しく育てられ、周囲の人々も良くしてくれてユリィやサイサリスという友達もいる。

 だから、いつしか師匠から教わった魔法の力でみんなを助けてきたいと、幸せに出来る手助けをしたいと思うようになっていた。 そんなルミーアだから師匠から異世界の少年を元の世界に帰す手助けをしてやってくれと頼まれた時には、だからはりきって引き受けたものだった。

 「……秋月勇矢さんかぁ……」

 最初に見た時はその服装から不審に思ってしまったが、実際にこうして旅をしてみると真面目でいい人だと分かる。 そうでなくてはサイサリスを戦闘用魔導人形オートマタと知っても普通に接してくれなどしない。

 戦闘用魔導人形オートマタは古代文明が戦争のために開発した戦闘兵器と言われ、現在では遺跡などのガーディアンとしてその姿をハンターなどが見るのみである。 それも銀色の胴体に目も鼻もないのっぺらぼうという形状で、人格も待たず言葉もしゃべる事ないのが普通である。

 だから一般の人々には戦闘用魔導人形オートマタの知識は皆無に等しくても、やはり人間ではないという事実だけで差別や迫害を受ける危険性があるのは師匠から散々に言われたし、人間とはそういう生き物であると自分の経験からも漠然とではあるが理解出来ていた。 

 ルミーアは勇矢の事を好きになれそうだと思う、無論恋人とかそういうものではなく仲間として友人としてである。 それはユリィやサイサリスもおそらく同じで、そういう人間的な魅力が彼にはあるように思う。 ありえない事ではあるが、十年後、二十年後もずっと笑い合い時に喧嘩もしたりしながら四人で過ごしているような、そんな友達でいられるような気がルミーアはするのだ。

 「…………っ!!!?」

 不意にぞくっとした悪寒を感じた、それは邪悪な魔力を持つ存在を感知した時の感覚でメンバーの中では魔法使いとして修行してきたルミーアのみが持つ感知能力であるからすぐさま大声で叫ぶ。

 「みんな起きてっ!!!!……っ!?」

 背後からの物音にルミーアが振り返った時には、すでに”それ”は眼前に迫っていた……。


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